第147話 昔取った杵柄
ガシャリガシャリと体を左右に大きく揺らしながら駆け寄る
「これはこれでよし……か、こちらのセリフだ……」
ガルデニア王の言葉を繰り返しながら、両手を前に構えて戦闘態勢をとる。そんな俺の頬に赤い光がかかる。
ギャラルホルンの杖が大きく発光したのだ。
「—————ッ!」
ルーナが杖に多くの魔力を注ぎ込み、
俺めがけて掴みかかろうとする掌が突き出し、それを躱すと次は上段蹴りが飛んでくる。それを防御してもこちらが思考する間もなく次の攻撃が飛んでくる……。
「まぁ、上出来だろう……」
一流の格闘家のような機敏でキレのある鋭い攻撃。ルーナは文献や実際のプロの動きを目で見て学びソレをそのまま
その成果が出ているということだ。
ゴ……ッ! ゴ……ッ!
ルーナが手加減できないのか、それとも
まぁ、対処できないことはないからいいのだが。
「頃合いか……」
「お兄様————!」
ルーナの悲痛じみた叫びが耳に届く。
この魔道具を量産化させたいギガルトは悪意と野心を持っている。
そのことを隠して、王に勧めている。この死という概念がない動く人形を。
やはりその企みは防いだ方がいいだろう。
ルーナもそれを望んでいるようだ。
拳を握りしめて、古代兵器の胸を貫こうとしたその時だった。
王族たちの声が、耳に届いた。
「退屈ですわね……」
ガルティナの声だ。
特に興味もなさそうな声色で、あくびをかみ殺さんばかりの呻きに似た音まで混じっている。
「もっと面白いものが見られると思っていましたのに」
ヴァルナの声だ。
悔し気な様子で、奥歯をギリギリと嚙み鳴らす音まで聞こえてくる。その声だけで、「もっと面白いもの」とは
そして———、
「ふむ。使えぬことは、なさそうだ」
王の声だ。
これもまた、特に感情を動かされていないガルティナと同じような声色だった。
何だか、その様子に———カチンときた。
「やめた……」
そんなことより———もっと面白いことをしよう。
「お兄様———ッ⁉」
ルーナの続く言葉は、恐らく「何を⁉」だ。
俺は攻撃を空振りした
六歳の頃———。
現代日本での六歳の頃の話だ。
俺は嫌で嫌でたまらなかったが、みんな言っているからという理由で母さんから近所の公園でやっている柔道教室に通わされた。黒帯を絞めた綺麗な胴着のじいさんの元、芝生の上なのだからという昭和特有の乱暴な理屈で地面の上に投げ飛ばされまくった。将来は何かの役に立つからと大人たちは言ったが、実際
ただ、時間を無駄にして、痛い思いをしただけだった———。
そう———思っていた。
「何をするシリウス⁉」
ギガルトの声。
何をする———? それは見ていればわかる。
古代兵器の腕を引っ張り、機体を背負い、思いっきり自らの頭上めがけて投げ放つ。
今、俺の上半身は大きく曲がって大地と平行の状態になっているから、
「そおらっっっ‼」
一本背負いだ。
手を離す。
「—————ッ!」
その光景を見ていた人間が一様に息を飲む。
何故なら、その放物線の延長線上にいたのが———。
「む――———?」
王、だからだ。
「王様⁉」「父上⁉」「お父様⁉」
ドガアン、という音と共に玉座が後ろに大きく倒れ、古代兵器に押し倒されるような形でガルデニア王も床に転がる。
「し、し、し、し……シリウスッッッ⁉ 貴様何をやっている⁉ 本当にッッッ、何をしておるのだッッッ⁉」
ギガルトが真っ青な顔で、裏返るほどの金切り声を上げる。
何をしている?
面白いことさ。
「貴様らは———腐っているっ‼‼‼」
もうどうでもいいや、何かムカつくし————そんな投げやりな気持ちを胸に、俺は声を張り上げた。
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