第146話 大騒ぎ
ガルティナがアリシアに対して「脱げ」と言いだしてから、俺の中で何かがキリキリと音を立てて張り詰め、それがたった今、プツンと切れた。
「な、な、な………何をするんですのっ⁉」
叩かれた頬を押さえて、ガルティナが俺を見上げる。
「黙れ、便所にも劣る汚い口を持つクソ女め。公の場で王女に「脱げ脱げ」などとはなんと下品な。恥を知れ、ガルティナ・フォン・ガルデニアよ」
「な————ッ!」
ガルティナの顔が瞬間湯沸かし器のようにポーっと赤くなり、頭頂から湯気が噴き出る。
「シリウス! 貴様自分が何をしたのかわかっておるのか⁉」
父、ギガルト・オセロットが俺を睨みつけて言う。
「貴様は今、王女殿下に手を挙げたのだぞ‼」
「すまない父上」
声を荒げる彼に対して俺は手をかざして努めて冷静に語り掛ける。
「ですが我々はガルデニア王国に仕える貴族です。王族の方々が間違った行動をした場合はそれを諫めるのが臣下の役目。それに王女に手をあげるなどというのは今更ですよ。私はそこのアリシア王女と決闘で戦ったことがありますし、プロテスルカのミハエル王子を殴り飛ばしたこともあります」
まぁ、実は
アリシア相手には指一本しか使わずに、相手の力を利用して転ばせて倒したし、ミハエルは男だ。
思い返せば女の子を攻撃するということは王族でなくても初めてのことなのかもしれないが、それにしてもこのガルティナという女は酷い。そんな心理的なブレーキが吹き飛んでしまうほど、醜悪な性格をしていた。
「こ、この……ダストお兄さま!」
「え?」
ガルティナが第二王子、ダストを睨みつける。
「この男を処刑して! 今すぐ! 国家反逆罪よ! 王族の私を殺そうとしたのだから!」「え、え……でも……」
「いいから早く!」
ダストは状況がよくわかっていない様子で戸惑い、情けなく周囲をキョロキョロと見渡すが皆一様にダストをじっと見つめ返すだけで何も言ってくれない。
「え、衛兵……! あの男を、捕らえろ!」
ガルティナに流されるままにダストが命令を飛ばすと、即座に衛兵たちが俺の元へと殺到する。
「この……王女殿下に何をする不敬者が!」
一番最初に俺の元に到達した衛兵が槍で突き出す。
が———、
「兵士よ。貴様の目は節穴か?」
彼の槍の動きは、スローモーションかと思うほど鈍重で、それを掴んで受け止めるのもたやすい一撃だった。
「————ムッ⁉ ンッ⁉」
がっつりと俺に槍を掴まれ、衛兵は引っこ抜こうとするがうんともすんとも動かない。
「この状況、敬い
そのまま手に力を込めると槍の柄を握りつぶす。
「な———⁉」
粉々に砕け散る先端に刃物を付けた木の棒を、その槍だったモノの成れの果てを見て衛兵たちは恐れおののいて身を竦ませた。
「な、何をしている! 早くそいつを捕えないか! 王女に手を挙げたんだぞ!」
ダストは兵士の怯えを感知して、発破をかけるが槍の柄を握りつぶすような怪力を持った男に対して、おいそれと近寄りたいものなど誰もいはしない。
「し、ししょう! もうやめ———、」
「よい」
緊迫した空気に耐え切れなくなったアリシアが前に出ようとするが、それを制したのは予想外の人物だった。
「
ガルデニア王———ジグワール・フォン・ガルデニアだ。
彼はアリシアに手だけ向けて制し、視線は俺から外そうとしない。
「丁度良い。ギガルトよ。
「は? なんですと?」
ギガルトが聞き返す。
「朕は
「な———父上! それは、」
「口を閉じよ。アリシア。朕はこの騒ぎに苛立っておる」
「————ッ」
静かな言葉だった。一瞥もしなかった。
だが、王のその言葉に場は支配され、シンと静まり返った。
「ほれ、早くその者を
「…………ルーナ!」
「で、ですが!」
「やれ!」
王に言われるがまま、ギガルトはルーナに指示を飛ばし、ルーナは目をギュッとつむり、杖に魔力を流し込んだ。
「申し訳ありませんお兄様ッ!」
そして———
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