第149話 暗殺者を追う

 床には二本の矢が刺さっている。

 一本目は恐らく俺が古代兵器ゴーレムを王に向かって投げつけた時、そしてもう一本はたった今————、


「どこだ………どこから……⁉」


 周囲を見渡して気が付く。

 俺たちが今いる玉座の間の北側には窓があり、今は夏に入り始めの気温が高い時期であるので開けっ放しになっていた。 

 その向こうに高い塔が見える。

 見張り台のような役割がある塔なのだろうが、そこの最上階からキラリと何かが光る。

 矢だ。

 弓に矢をつがえた一人の禿頭の男が、はっきりと見える。


「いた!」


 俺が声を上げるとそのリアクションで暗殺者に気が付かれたのか、彼はすぐに矢を弓から離してしまい、背を向けて駆け出していった。


「逃げるか!」


 俺は抱えていた王を投げ飛ばすと、暗殺者の男を捕まえようと駆け出した。


「お、おいシリウス! 一体何が起きている⁉」

「暗殺だ! 見てわかるだろう! 誰かが国王を狙っているんだ!」


 慌てるギガルトに床に刺さった二本の矢を指さして、状況を説明するとギガルトはハッとする。


「シリウス。待て!」

「はい?」


 ギガルトは状況を理解しただろうになぜか俺を呼び止める。


「それはルーナにやらせろ」

「は?」

古代兵器ゴーレムの能力を見せる絶好の機会ではないか! お前は此処に控えておれ! ルーナ! 古代兵器ゴーレムを使って先の暗殺者を捕えよ!」

「は、はい!」


 ルーナはギガルトに指示されるがままギャラルホルンの杖に魔力をこめると、俺に投げ飛ばされて倒れていた古代兵器ゴーレムの一体が立ち上がり、ダダダっと床を蹴り玉座の間の外に出て行く。


「…………ッ!」

「行くな、と言っておるのだ!」


 父の命令を無視し、玉座の間を出ようとしたが目ざとくギガルトにくぎを刺される。


「……父上」


 俺の後ろではアッシュ王子が「衛兵! 王を守りなさい! 暗殺者は一人とは限りません! 警戒を!」と指示を飛ばし国王の周囲に兵たちを集め、第二王子のダストや嫌味な王女姉妹は慌てふためいている。


「そんなに古代兵器ゴーレムを量産させたいのですか? そんなに軍事力が欲しいのですか?」

「当たり前だ。古代兵器ゴーレムが実用化されればもう騎士などいらん。兵士が戦場に出なくて済む世界となるのだ。戦いで誰も血を流さないでいい世の中にするには古代兵器ゴーレムが一番なのだ」

「………え?」


 キョトンとしてしまう。


「………何だ、その呆けた顔は?」

「いえ、あなたがそんなまともなことを……人を思いやるようなことを言うとは思いもしなかったものですから……え? キャラ変わりました?」

「きゃら、とはなんだ?」


 ギガルトの古代兵器ゴーレム事業にそんな想いが込められているとは思わなかったというか……そんなはずはないと思ってしまうのが本音だ。

 原作ゲームでは単純に力が欲しいから、自分一人でコントロールできる強大な力が欲しいから古代兵器ゴーレムを量産したかったはずなのに……。

 また俺が転生したせいで原作ゲームのルートが逸れてしまったのか……まぁ、これは今はどうでもいい。


「ですが父上、あの暗殺者は古代兵器ゴーレムだけで捕らえられるものではありませんよ」

「おい! シリウス、行くなと言っているのがわからんのか!」


 俺は父の制止を振り切って、玉座の間を出る。

 一瞬だけ見えた。

 あの暗殺者の、禿頭の男の顔が———ほんの一瞬だけだが、あの顔は————。


 〇


 ガルデニア城の廊下を駆け抜け、一気に中庭に躍り出ると、すぐさま見張り塔の下へと辿り着いた。

 シリウス・オセロットの驚異的な脚力で風を吹かすほどの速度を出していたので少々紙が乱れたが、


「おい‼ そこのお前!」


 ギリギリで逃げる寸前の暗殺者の背中を捉えることができた。

 見張り塔と城壁の間の薄暗い、裏庭とでも呼べる場所だろうか。

 そこでうずくまっている禿頭の男がいた。彼は地面に設置されている隠し扉を開いて、地下道かどこかに逃げようとしている途中だった。

 その彼が俺に呼び止められ、ゆっくりと顔をあげる。


「その声……オセロット家のあんちゃんかい……?」


 やはり———、


「ゲハル……さん……」


 暗殺者は『スコルポス』の構成員。ボスのグレイヴ・タルラントの右腕———ゲハルだった。

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