第131話 魔族の到来

 その日の夜————オセロット邸にて。

 

 結局、アン・ビバレントには会えずじまいで終わり、『スコルポス』の動向を知ることができなかった。

 今頃、彼らは一体どこで何をしているのか。

 ロザリオに聞いても、全くわからなかった。

 あの時に、アリサが起こした事件の時にロザリオ・ゴードンは『スコルポス』の連中に監禁されていたらしく、事件のことを未然に知っていたにもかかわらず防ぐことができなかった。そう言っていた。

 次の日に彼は解放されたが、それと同時に『スコルポス』は消えていた。

 どうしてアリサに協力したのか。

 これから何をするつもりなのか。

 彼らが消える直前に話していたロザリオに聞いてみたところ、首を傾げながら、


 ————大望たいもうを果たす、だそうです。


 と、苦笑しながら言っていた。

 それから、彼は遠い目をすることが多くなった。

 もしかしたら、聞いたのかもしれない。

 『紺碧のロザリオ』のアンルートに秘めていたロザリオの真実を。


 『スコルポス』のボス、グレイヴ・タルラントが仮の名前で本当の名前は————死んだと思われていたロザリオの本当の父親であることを。


 そのことを問いただすタイミングはまだない。

 もしかしたら、ロザリオはまだそのことを知らない可能性もある。

 この情報は慎重に明かしていかなければならない。

 下手をすれば……また、とんでもないルート変更が起きてしまう可能性があるから。


「ふぅ……『スコルポス』に一応席を置いていたし、ロザリオについては注意深く動向を見ていかねばならないな……」


 そんなことを呟きながら、赤い絨毯で彩られた長いオセロット邸の廊下を歩き、自室の扉を開ける。


 生徒会長としての業務も終わり、オセロット家の領主の息子としての挨拶回りも終わり、あとは着替えて寝るだけだと胸元を緩めながら、暗い部屋の中を進み部屋の壁に取り付けてある魔光ランプをつける。


 部屋をほんのりとした光が照らす。


「————————————ッ!」


 背後に人の気配が————する!


「誰だ⁉」


 振り返りざまに裏拳を叩きこもうとする。

 が、気配はすれども姿はなかった。


「————?」

「ここ……だよ」


 いや、姿はあった。

 俺の足元に、ポツンと小さな背中を丸めて跪いている少女が一人。


「リタ⁉ 貴様どうしてここに……⁉」


 前髪を切りそろえた銀髪のロリ、『スコルポス』のリタだった。


「どこから侵入した⁉ というか、お前ら『スコルポス』は消えたのではなかったのか? てっきりこの街を出たのかと……」

「タルラント商会は解散したけど、『スコルポス』はまだ消えてない。地下に潜って、気を伺っている。ボスが『スコルポス 』を作った本当の目的を果たすために」

「なるほど」


 本格的に、進み始めているな……グレイヴが本格的に動き始める、アンルートの話が。

 ならば、これからはその対策のために手を打って行かねばならないだろう。


 でなければ———大きな悲劇がこれから起きる。

 

「それをわざわざオレに報告しに来たのか? リタよ。お前はこれから『スコルポス』に付き従い、この国を脅かす大事件でも起こそうというのだろう?」


 宣戦布告のつもりだろうか———そのためだけに来たのだろうか?


 気になり尋ねるとリタは首を振った。


「私がここに来たのは、『スコルポス』についてあなたに知らせる為じゃない」

「ならば何をしに?」


「あなたの———そばにいるため」


 そう言って、リタは俺を指さした。


「………………………どういうことだ?」


 いきなりすぎて、まるで意味が分からない。


「まるで意味が分からんぞ。オレとお前は他人だろう? 全く繋がりがない人間のはずだ」


 リタは『紺碧のロザリオ』ではヒロインの一人ですらない。

 『スコルポス』の顔がいいだけの一構成員。メインキャラよりはモブに近い立ち位置。

 そんなキャラクター、当然悪役貴族シリウス・オセロットとの接点などない。

 会話がないどころか作中、一緒の空間にいた場面すらない。

 

「つながりは……ある」


 そう言うとリタはおもむろに服を脱ぎ始めた。


「何をしている?」

「つながりを……見せつける、あなたに。ううん、あなたさま に……」


 止める間もなく、あっという間にリタは全裸になった。


 目を逸らした方がいいのか。だが、そんな童貞臭いムーブ悪役貴族らしくないしなぁと立ち振る舞いについて悩んでいると、俺の視界にあるものが映った。


「お前……背中のそれ・・は……」


 本来———人の背中にあってはいけないものがそこにあった。


「普段はずっと折りたたんで隠しているから……少し歪んでる」


 漆黒の翼がそこにはあった。

 

 カラスの羽のような黒い片翼かたよくが———。


 彼女は歪んでいると評したが、綺麗に広がった「く」の字の翼を、小さな手が撫でる。


「私は血がそこまで濃くなくて、翼も右側にしかないから……なんとかバレずに生きてきた……おかげでずっと孤独だった……だけど、もう、違う……」


 右の背中の翼の付け根。そこにリタの手は到達し、彼女の目が俺に向けられる。

 少し熱のこもった視線で。

 愛しさを込めた瞳で。


「————あなたに出会えたから、あなたに触れて、〝同族〟だと感じられたから……」


「同族?」


 触れた———というのは、街道から学園に戻る間ずっと背負っていた時の事か?

 あの時に———知られたと言う事か?

 俺の、シリウス・オセロットの中にいる者を。


「はい………私は、〝魔族〟です」


 リタはそう告白し、服を着ないままその場に再びひざまづき、深々と首を垂れた。


「私の命をあなたに捧げます。蘇りし〝古の魔王・ベルゼブブ〟よ————、」


 マジかよ…………。


「———人間を滅ぼし、この世界を再び魔界まかいかえすために。我が命お使いください」


 …………やっぱり悪役貴族は殺されないといけないらしい。


————————————————————————————————————


★作者の‶あとがき〟的なもの。


 第二部に当たるお話は以上となります。ここまでのご愛読ありがとうございました!


 この話はもっと短く、短編程度で終わらせる予定でした。

 学園という舞台を取り扱ってるのだから、本筋と関係ない小話的なものも書きたいと思ったのがきっかけです。ただ、ここまで長くなってしまうとは……。

 主軸と関係ない話な上にアリサのキャラが不評だったのか、みるみる毎日のPV数が減っていき……やめときゃよかったと思う今日この頃。


 ただ、更新のたびに頂けるコメントを頼りに頑張っていました! 本当にありがとうございました!


 第三部はすぐに取り掛かる予定なのですが、「復讐者アンがメインの話」か「妹ルーナがメインの話」で進めるか悩んでおります。


 広げた風呂敷をたたまなければいけないので、アンの話をやるべきなのでしょうが、ルーナのキャラクターはこの作品を上げ始めた頃から好評だったので、そろそろ掘り下げないとな、と思っております。

 差し出がましいですが、ご意見いただけるとありがたいです。


 数日から一週間程度、いったん物語を構成ために休み、その後また毎日更新をしようと思っています! 

 その時にもまた付き合っていただけると幸いです! 

 

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