第127話 魔王との邂逅・その2

 ピコピコと———ゲームの電子音が聴こえる。


「—————ハッ!」


 目を醒ます。

 そこは転生前、現代日本で俺が暮らしていた六畳一間の自宅にいた。

 昔と懐かしい昔と同じ家具の配置。日に当たるから漫画本の本棚は窓から遠ざけ、窓のカーテンレールにはダウンのジャケットが年がら年中かかって自ら部屋の日当たりを悪くしている、いかにも男に一人暮らしという部屋。


「……どうしてここに……なんて言うまでもないな」

「ホッ! ハッ! こりゃ! サンダーはやめんかぁぁぁぁぁぁ!」


 レースゲームをしながら絶叫している紫髪の幼女がいる。


「久しぶりだな。魔王」


 俺の、シリウス・オセロットの体内にいる『古の魔王・ベルゼバブ』。

 偶にこうしてシリウスの心の中、俺の精神世界に呼び出され話すことができるが、なぜかいつも彼女はゲームをしている。

 俺が昔持っていたゲームを。


「キッタ—――――――――――――――‼ かそくそーちっっっ‼」

「聞いてる?」


 俺がいるのにも関わらず、魔王はゲームに夢中だ。

 テレビ画面ではケツにブースターを付けたカートが勢いよく走り、次々と他の車を追い越していっていた。

 下の方には今の魔王の順位が表示されている。


 5位、4位、3位、2位………!


 1位のお姫様キャラの背中に魔王が使っている髭のオッサンキャラが迫る。

 あともう少しで抜ける———そんな時、


 —————FINISH‼


 ゴールを通過した。

 魔王の順位は———2位。


「くしょが——————————————————————‼」


 魔王はコントローラーを投げ捨て、天を仰いだ。


「あ~ぁ、惜しかったな……」


 俺は適当なコメントをして、ここに呼び出した要件を聞こうとすると、魔王は怒りが収まらない様子で「ふん!」と鼻息を荒くし、床に手を突くと、そこから何か取り出した。


 影をまとった黒い剣———魔剣を。


「しねよ———————————————————————————‼」


 横薙ぎの一閃————。


 魔王が魔剣を振るうとその切っ先から影が伸び、それが伸びる刃となってテレビを両断した。


 俺のテレビを。


「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」


 こいつ! ゲームで負けたぐらいで俺のテレビぶっ壊しやがった。


「ん? なんじゃお主いたのか」

「ずっと居たぁ! お前人ん家のモノぶっ壊しやがって!」

「そのげぇむがいかんのじゃ! 我を2位扱いしおって!」

「2位じゃダメなんですか⁉ つーか負けたんだからそれは当たり前だろう!」


 無残に真っ二つに両断されたテレビに寄り添い、悲しみにふける。

 一人暮らしを始めてから初めて買ったものでインチ数は忘れたが、そこまで大型ではない物をセールで買った。社会人になって金もたまったので買い換えられるようになったがその頃にはこのテレビに愛着があって、買い替えるのを控えた。

 そのくらい思い入れがあるテレビをこいつは……!


「そう怒るな。どうせここはお主の精神世界じゃ」


 魔王が魔剣をブンと振るうとそこから再び影が伸びる。

 だが、今回は先ほどのものと違って柔らかな、優しいまとわりつくような性質を持った影だった。

 影はテレビの断面に付着すると、それを持ち上げ、元あった場所へと治していく。

 そして接着すると切れ目から影がかさぶたのようにうねうねと湧き出る。

 やがて———影が消える。

 すると、テレビは両断されたことがなかったかのように元通りに修復されていた。


「おまえ……それって……魔剣・バルムンク……」


 あ————っという間に、魔剣の影は両断した電子機器を修復した。試しにリモコンで電源を入れてみると、その画面にニュースを映し始める。


「お主の精神世界なのだから、このくらいはできる……まぁ、」


 魔王が魔剣をぐるんと手元で回し遊びながら言う。


われなら————ここ・・じゃなくてもできるがな」

「ここじゃ、なくても……か」


 精神世界ここの外の、話か……。

 彼女はゲーム『紺碧のロザリオ』のラスボスの一人だ。 

 いずれ地上世界を恐怖に落とし込む、復活の魔王———。


「だけど、その復活もまだ遠いはず……なんでここに俺を呼び出したんだ?」


 閑話休題———。

 近頃全くアクションをしていなかった魔王が、どうして突然俺に接触してきたのか疑問をぶつける。


「いやなに、お主に警告・・をしてやろうと思ったまでじゃ」

「警告?」


「ああ———お主、〝魔族〟と体を重ねたな?」


「………………………………………………ん?」


 何を———言っているんだ?

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