第128話 魔族とは?

「体を重ねたって誰が?」

「お主が」

「俺は———まだ童貞だ‼‼‼」


 思いっきり声を張る。

 言った後悲しくなってきた。何が悲しくてそんな情けないことを全力で否定せねばならなんのだ。

 体を重ねた? しかも、あいては‶魔族〟と?

 そんな記憶全く……、


「あ————」


 ふと、思い出したことがある。

 アリサがオセロット家の屋敷に来た、最初の朝に彼女は言った。


『この傷はシリウスちゃんが付けたんじゃない……』———と嬉しそうに首元を押さえて……。


 全く記憶がないが、もしかしたら前の日の夜に寝込みを襲われていて……。


「———でも、あの日の朝は別に着衣の乱れとかはなかったし、熟睡してたしアリサのたち の悪い冗談かと……いや、もしかして俺が眠っている間にお前がシリウスの身体を乗っ取ってアリサとヤったんじゃ!」

「フッフッフ……」


 意味深に笑う魔王。

 それで全てを察してしまい頭を抱える。


「マジかよ! 最悪だよ! 眠っている間に初体験してるなんて! それも年上の女と!」

「なんじゃ? 年下が好みなのか?」

「年上、年下とかじゃなくて同い年‼ 幼馴染的な奴が好みなんだよ!」


 完全に昔の漫画の影響だが、隣の家に住んでいて文句を言いながらも男の世話を甲斐甲斐しくしてくれる古のテンプレ的な幼馴染キャラが俺の好みだった。

 年上のしかもあんなサバサバしている女は……リアルでいっぱい見過ぎていて好みじゃない。夢がない。


「最悪だよぉ……もうちょっと、何か、ロマンチックな感じで童貞捨てたかったのに!」

「フッフッフ……」

「笑うな! 何が可笑しい!」


 こっちは前世から取っておいたたった一つの大切なものがなくなったっていうのに、魔王は笑い続けていた。


「お主よ。お前はあのアリサとかいう女が貴様の初体験の相手だと、シリウス・オセロットの初体験の相手だと思っているのか?」

「あ? 今、お前がそう言って」

「フッフッフ………………………………………………………………………………、」


 魔王は含み笑いを浮かべながら腕を組んで、何やら‶ため〟を作った。


「…………何だよ、何で溜める」

「じ・つ・は・~………じ・つ・は~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

「溜め過ぎじゃない? クイズ番組?」


 若干キャラ崩壊してるぞと突っ込みを入れる前に、彼女の口から真実が告げられた。


「アリサとお主は性交をしていませ~~~~~~ん!」


 おどけるように舌を出す魔王。

 非常にムカつく。


「………お前何なの? キャラ崩壊してんぞ」


 しょうもないことを言いやがって殴ろうかな、と相手が魔王であるにも関わらず俺は拳を握りしめた。


「カッカッカ! すまんすまん、この空間は面白いからな。つい先日みたその……くいずばんぐみ? とかいう奴の真似をしたくなってしまったのよ」


 魔王は愉快そうに先ほど修復したテレビを指さす。


「真似とかすんなよ……魔王が威厳も何もなくなるだろ……」


 つーか、この精神世界って地上波受信すんの?


「カッカッカ……安心せい。お主はまだ童貞のままじゃ。確かにお主の言う通り、アリサとかいう女は何やら策謀のためにお主の子種が欲しかったようじゃが……我が撃退しておいた」


 そう言って手をかざし、指を曲げる。

 何かを潰すかのようなジェスチャーだ……。

 いや、潰すというか……絞めた……?


「もしかして、アリサのあの首のあとは……」

「ああ———我がやった。この‶器〟がどんな重要な者かも知らん。あの唯の人間の小娘・・・・・ ・に自分の‶ぶん〟というものをわからせて・・・・・やった」


 魔王は両手を合わせてキュッと何かをめるような動作をして不敵に笑った。


「そうか……まぁ、撃退してくれてありがとうと言っておく。俺はアリサと恋愛関係になるつもりはないから……でも、だったら体を重ねたって何の話だよ? 俺は誰ともヤってないぞ?」

「ああ、‶まぐわ〟ってはおらん。じゃが、接触はしたぞ。今日。確かに。‶魔族〟の血を受け継ぎ者とお主は触れ合った———」

「今日……俺が……?」


 ———‶魔族〟って、そもそも何だ?

 俺が現実世界でゲームをプレイしている時には、過去に滅ぼされた種族で魔王と同じく伝承だけの存在となっていた。

 そんなものは言葉だけで、劇中に一切出てきていなかった。


「———‶我〟の復活の時は刻一刻こくいっこくと近くなっておる。せいぜい利用されぬように気を付けよ、お主よ」


 そんな俺を置いて、魔王は座椅子にすとんと腰を落とし、話は終わったとばかりに

テレビの電源をつけてお笑い番組を見始めた。


「〝魔族〟って……利用されるって……いったい何のことだよ?」


 もしかして、また———どっかで致命的なルート変更してしまったのか?

 もしかして、致命的なバッドエンドに繋がるようなルート変更を……。


「あ、地上波受信してる……」


 俺の不安はつゆ知らず、魔王はテレビの漫才を見て「カッカッカ」と笑い続けていた。

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