第112話 くだらない
「『
ぞろぞろと俺の前に立ちふさがるマフィアの荒くれ者たちを見回すと、モンスターハント大会の時に世話になった顔がちらほらとあった。
「
生徒を鍛えるための学校行事に、ノリノリで参加してくれた人間が、少女一人の誘拐に進んで手を貸しているとは思えなかった。
―――思いたくなかった。
「へっへっへ……オセロット家の坊ちゃん。モンスターハント大会では世話になったなぁ! だけど、それはそれ、これはこれだ! 俺達が裏世界の住人ってことを忘れるなよ。お遊びはもう終わり……そういうことだよ。ヒヤッハ———――—――‼」
俺の言葉に応えてくれたのはモヒカン頭の肌の上に直接鎧を着ているいかにもな男。モヒカン頭の彼は人当たりも良く、モンスターハント大会の時はよく話していた。
「そうか……残念だ。打ち解けられたと思ったのだがな。あなたたちは団結力もあるし、こちらの指示も聞いてくれる。普通の軍隊よりよっぽど質がいいものだと買っていたのに……」
「ヒャッハ—―——―! 勘違いするなよ、オセロット家のお坊ちゃん! 俺たちはお前みたいなガキに使われるために修羅場をくぐってきたわけじゃねぇ! 全てはボスの、グレイヴ・タルラントの本懐を遂げさせるためにあるんだよ! そして、遂にその時が来た。お前らとの楽しい楽しい友情ごっこも終わりってわけだ~~~~!」
モヒカン頭が中指を立てる。
「そうか、その本懐のためにやることが、一生徒の誘拐というわけか? か弱い女性徒を集団で誘拐することが———お前のボス・グレイヴの望みというわけか? マフィアのボスがその程度の小さいことを望むのか?」
ギロリと圧を込めて睨むと少しモヒカン頭は怯む。
「なぁ~に言ってんのぉ~? 何が一生徒? 何がか弱い女性徒? アリシアちゃんは王女でしょ? ‶王族〟相手にそんなことを考慮する必要なんてないんだよ? だって王族は、貴族は人じゃないんだから———」
後ろからアリサが代わりとばかりに挑発的な声を上げる。
「シリウスちゃん、身分っていうのはただのカードなんだよ。その人間が強かろうと、どんなことを考えていようと、身分や立場って言うのはその人間個人を政治の材料たらしめる。それをうまく活用する人間が———権力ってものを握る……それだけのこと。そこに感情なんて必要ない。ただ、最も有効なカードを切って周囲を屈服させた人間が権力を握る。私も『
冷たい声だった。
熱のこもっていない。人が発するとは思えない温度の声。
「———そのカードを切って最終的にやりたいことが……戦争というわけか?」
「ま、そんな感じかな? いいでしょ戦争。あなたも私もここにいる全員、戦うことを目的とした‶騎士〟になるために頑張ってるんだもん。その舞台をこの私が作ってあげようってわけ。楽しくなるよ~……こんな一対一の決闘なんて‶くだらない〟と思えるほどのスリルと興奮、それを———このアリサ・オフィリアが提供してあげる。どう?」
首を傾げて、俺に向かって問いかけるが、別に彼女は同意を求めているわけではないだろう。
全く目が笑っていない。
口角こそ上がっているものの―――全くアリサ・オフィリアは楽しそうじゃなかった。
これ以上話しても無駄だな。
アリサの時間稼ぎに付き合ってはいられない。
俺は『
「そうか———まぁ、とりあえずそこをどけ。貴様らの‶くだらない〟戦争ごっこにこれ以上無駄な時間はさけん。モンスターハント大会で協力してくれた
彼らは話が分かる連中だ。だから、努めて冷静に頼みこんだ。
「手荒な真似はしない~? バカがよ~、オセロット家の坊ちゃん。手荒な真似をするのはこっちだっつーの!」
荒くれ共がそれぞれの武器を抜く。
剣や槍、斧……中には鎖鎌や弓矢のような遠距離武器を持っている奴もいる。
「こっちは多勢、それに武装もしている! それに比べてお前は丸腰だろぉ⁉」
俺は———今回は立会人のつもりでこの闘技場にやってきたので、当然何も武器を持ってきていない。
といっても———この騎士を目指す学園の生徒なら常日頃剣を腰に携えているのが普通なのだが、俺はしていなかった。
正しい剣術を習っていないし、普段腰に下げていると邪魔だったからだ。
「丸腰で俺らに勝てると思ってんのかよおおおおおおぉぉぉぉぉ~~~~~~~~‼」
モヒカン頭が俺を指さす。
すると「ヒャッハ―!」と声を上げて『
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおっっ‼」
―――最も俺の近くに立っていたピンクのボーズ頭、フィストが武器を振りかぶる。
彼が持っていたのは長さ二メートルはある巨大な大剣だ。
幅も太く、一振りで家を崩せそうなその剣を———その筋骨隆々に盛り上がる腕を使って斬りかかる。
武器のない俺に向かって———。
武器、か……アリシアとの修行中、ちょっとは練習しようと、思っていんだけどな……。
だけど結論———、
「うがっっっ⁉」
フィストの巨大な刃を————俺は片手で受け止めた。
———このチートの悪役貴族の肉体には、そんなものが必要ないとわかった。
「どけ―――」
俺は手に軽い力を込めると、ピシピシと大剣にひびが入る。
そして———俺はグッと手を引き寄せると、フィストがバランスを崩し前のめりに倒れ込む。
「うお」とフィストは呻きながらも、必然的に自らの頭部を俺の方に落とす形になる。
そして、ちょうどいい、殴りやすい位置に———フィストの頭が来た———。
「———
拳を———思いっきりフィストの頭に叩きつけた。
ドンっと音が響き———フィストの顔面はそのまま地面へと突き刺さる。
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