第109話 決闘開始直前、悪い予兆。
決闘、三十分前———。
決闘の会場は聖ブライトナイツ学園の円形闘技場。いつも使っている場所だ。
ただ、時間は午後———授業が終わり、全生徒が集まることができるようにしている。
生徒会が主導するのだ。
大々的にやらないと面白くはない。
決闘の相手であるアリサは最初は嫌がりはしたものの、俺が折れないと彼女の方が折れてくれた。
そして、時間は静かに過ぎていった。
通常通りの剣と魔法の授業を終え、闘技場へと生徒たちがわらわらと向かって行く。
その光景を入り口前でナミと共に俺は眺めていた。
「アリシア王女に声はかけないんですか?」
「あぁ……今は集中しているだろうからな……」
今回俺とナミは立会人扱いで、いわば審判として決闘に参加する。
俺はリングの上に立ち、ナミはゴングを鳴らす係として。
公平性を期すために二人の立会人はそれぞれの決闘者の味方という立場で参加する。
俺はアリシア側の、ナミはアリサ側の。
ナミはアリシアの師匠をしていたので、完全にアリサの味方というわけにはいかないだろう……。
なので、本心を言うと『
だが、リタにコンタクトを取ろうと思っても、事務所に不在だった。
それどころか———『
彼女がダメならロザリオに……という手も考えていたのだが、ロザリオもロザリオで昨日から姿が見えない、らしい。
なにか———嫌な予感がする。
「アリサはまだ来ないのか?」
「もう、そろそろだと思うんですけどねぇ……」
俺とナミが外にいるのは、アリサ・オフィリアの出迎えのためだ。
彼女は決闘の相手ではあり、卒業生でもあるが、学外からの
だから、こういう大事の場では生徒会長としてもてなす必要があるのだ。
その付き添いで妹に来てもらった。
そういう———
「勝てると思うか? アリシアは、アリサに……結局あの‶陰ノ歩〟という剣仙源流の技はアリシアは習得できなかった」
修行の最初の目標である100体討伐こそ、彼女は達成したが、その後にできた目標———10メートルを‶一歩一瞬〟で辿り着くというのは達成できなかった。
その技を習得できずに、‶剣聖王〟の妹に勝てるのか……俺は危惧していた。
何しろ、この‶剣聖王〟には俺でも勝てない。
まともに勝負をしたら、シリウス・オセロットでも絶対に勝つことはできない。
先日の決闘でそれが痛いほどわかった。
「……多分、ギリギリ負けるでしょうね。お姉ちゃんも剣仙源流は極めているはずですから」
「はず? というのは?」
「その……お姉ちゃんは一緒の家に住んでいた時も友達が多くて忙しかったんで、妹の私に構ってくれなかったんですよ。だから、どこまで習得しているかは詳しくは知らなくて……でも5歳の時点で既に、‶陰ノ歩〟———剣仙源流一ノ太刀・雷花は習得していましたから。今は相当強くなっていると思います」
「天才の姉もまた———天才というわけか」
「はい」
やはり、アリシアは勝てはしない、か。
それでも十分に強くなったのだ。それは誇っても……。
「というかアリシアが負けたら
「そうですけど……」
今回の決闘が何を賭けての決闘なのか、すっかり忘れていた!
それを思い出してしまえばアリシアには絶対に勝ってほしくはあるが……。
「まぁ、いいか……そうなったらそうなっただ」
こっちは傍若無人の外道生徒会長なのだ。
例え弟子が決闘で負けて、師匠が結婚することになったとしても、そんな話無効だと一喝できなくはない。
「やっぽ~~~~~~~~~~~☆ シリッウスッッちゃ~~~~~~~~ん☆」
遠くから、ガラゴロと大きな馬車が向かってやって来る。
窓から手を振っているのはアリサ・オフィリアだった。
恐らく、あの大きな馬車に彼女が言っていた伸びる専用の武器というものが乗っているのだろう。
「来たか……」
「来ましたね……」
俺とナミは一応出迎えねばならんと、馬車に向かって歩を進めた……。
◆
どどど、と頭上から足音が響く。
真上に観客席があるからだ。
そこに、聖ブライトナイツの生徒が集まっているのだろう。
「ふぅ~……よし!」
闘技場の廊下をアリシアは胸に手を当てながら歩いていた。
逸る鼓動を必死に抑える。
相手は明らかに格上。
これから自分はとんでもない挑戦をしようとしている。
負ける可能性が高いだろう———。
でも、勝ちたい―――。
そんなはやる気持ちを抑えながらも———決闘用の剣を取るために控室の扉を開いた。
「あれ?」
アリシアにあてがわれたその部屋には先客がいた。
「君は……たしか……」
銀髪の幼い雰囲気を持った女性———『イタチの寄り合い所』やシリウスと一緒にいる場面を何度か見ている……。
「リタさん……だったかな? どうしてここに?」
そうだ———確か、大斧使いのリタ。
ナミが同行するまでは彼女が剣の先生として修行に来るはずだった、聖ブライトナイツの卒業生。
自分とは接点があるようでない……いや、逆か、ないようである相手がどうしてここに、とアリシアが首を傾げた瞬間だった。
「———ごめんなさい」
リタがアリシアの目の前に接近し、パン……ッと眼前で手を鳴らした。
相手を驚かせるためにやるお遊びのような技。
思わず目を閉じるアリシア。だったが……、
「え……?」
妙な匂いがした。
そして、軽く喉が粉っぽくなり、咳を出そうと思った時———アリシアの意識は薄くなっていく。
「本当に……ごめんなさい」
ぼんやりとする意識の中、アリシアが最後に見た光景は手に小袋を持って悲し気に見下ろすリタの姿だった。
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