第94話 アリサ、襲撃。
一夜が明けた。
アリサ・オフィリアが作り出した熱狂の宴が終わり、俺は大きな疲労感に襲われた。
本当に、あのオフィリア姉妹の相手をするのは疲れた。
昼間は妹のメンタルケアをし、夜は姉のパーティーの相手をさせられる。ドッと体力を持っていかれた。
昨夜はどんちゃん騒ぎの後、俺とルーナは踊り疲れたアリシアを王族用別邸という、豪華な貴族屋敷へ送った。彼女は楽し気だったが、パリピのアリサにずっと付き合ったおかげでヘロヘロになっていた。
そして俺たちはオセロット家の屋敷へと帰り、すぐに寝た。
一日で本当にいろいろあったので、ベッドに倒れ込むと一瞬で眠りに落ちることができた。
そして———次の日。
俺は服をバスローブから、特注の白ランに着替えて屋敷の食堂へと降りていく。
今日も、聖ブライトナイツ学園の生徒会長としての日常を過ごす。
昨日と同様の日常を過ごしていく。生徒の問題を解決するという生徒会長らしい日常を。
もうナミ・オフィリアの問題は完全に解決した。彼女は自分と向き合い、友達作りにも正しい方向に進みだした。もう放っておいて大丈夫だろう。
これから朝食を食って、登校し、目安箱を確認する。
その中でまた生徒の問題を拾い上げ、解決に動こう。
まるで便利屋のような役回りだが、暇な時の生徒会長なんてこんなもんで良い。
「あ、おはよう! シリウスちゃん!」
「ああ、お
目の前をエプロン姿の
———今の誰?
思考が中断される。
オセロット邸にはシリウスを「ちゃん」付けするような人間はいない。ルーナは「お兄様」と呼ぶし、使用人たちは「様」付けだ。
それに今、通っていた女性はシリウスと同じぐらいの身長をしており、金色の瞳をしていた。
だが———彼女がここにいるはずがない。
そう思うが、確かに茶髪の女は
「お待たせ、ルーナちゃん! アリサお姉さんの朝ごはんだよ~、ほら食べて、食べて!」
声が響く。
———そんな、馬鹿な⁉
俺は階段を駆け下り、食堂の扉を開けた。
バンッと大きな音が鳴る。
「わ、びっくりしたぁ~、どうしたんシリウスちゃん。朝からそんなに慌てて」
そこにいたのは———やはりアリサ・オフィリアだった。
頭には白い
既に席についているルーナにの前にお
「どうして貴様がここにいる、アリサ・オフィリア?」
まるでいて当然のような、オカンのような
「何言ってんのよシリウスちゃん。昨日……あんなに激しく愛しあったじゃない? 私たち」
そう頬を赤らめて身をくねらせるアリサ。
———は?
何だその態度は?
まるで昨日、俺が
「ふざけるな。昨日俺は一人で寝た。貴様が寝床にいた形跡もなかった……!」
なかった……はずだ。
だが、恥ずかしそうにしているアリサは手を首元に当てる。
そこには———包帯が巻かれていた。
「……おい、その首の傷はどうした? 貴様、そんな
「何言ってんのよ……シリウスちゃん。この傷はシリウスちゃんが付けたんじゃない……」
なぜだか、嬉しそうに言うアリサ。
嬉しい傷……しかも首元……まさか……!
俺は———キスマークを連想してしまった。
そして全身が凍るような悪寒に襲われ、立ちくらみ、俺は危うく倒れそうになった。
◆
「はい! ど~ぞ! シリウスちゃん!」
割烹着を着たアリサ・オフィリアが俺の前に朝食とやらを置く。
白米の入った茶碗にみそ汁の入ったお椀……。
「ライスとミソスープ♡ オフィリア家の故郷の味なんだから」
力こぶを作るアリサ。
和食か……。
ファンタジーの世界にふさわしくない。だが、ナミは常に西洋風の両手剣ではなく刀を使っていたし、ナミもアリサも日本的な名前だ。ここは『紺碧のロザリオ』というゲーム世界なのだから、そういう要素も入ってしまうのだろう……。
「オフィリア家の故郷の味……ねぇ……」
ズズズとみそ汁をすすりながら言う。あ……懐かしいおふくろの味。
「うん。オフィリア家は元々東にある『
「
「そ、国を追われて出たんだって。何かしでかしたんだろうね……それで、プロテスルカで傭兵をやっていたところを王家に腕を認められて、今では立派な貴族になってるってわけ」
オフィリア家の歴史は『紺碧のロザリオ』の原作でちょろっと語られたような気がする。
そんな記憶を思い出しながら、対面にいるルーナを見ると彼女はほっこりとした表情でアリサの作った朝食を噛みしめていた。
「いや、それよりもどうして貴様がここに居るのだ⁉ 貴様はナミの姉だろう! 昨夜はナミの元で過ごしたのではなかったのか⁉」
「お兄様。アリサ様はプロテスルカからお父様を訪ねに来た客人で
慌てた様子でルーナが口を挟む。
「何だと?」
父———ギガルト・オセロットを訪ねてきた? ナミの姉が?
どういうことか、さっぱりわからない。
この展開は俺がプレイした『紺碧のロザリオ』のシナリオ上にはない。ナミルートではアリサは名前しか出てこず、どんなキャラかも描写されていない。それなのに、オセロット家と
「そそ。シリウスちゃんのお父さんに話があってきたんだけど、運悪く不在だったみたいでね。それで仕方がないから昨日はこの屋敷に泊めてもらったんだ。ついでにシリウスちゃんと愛を確かめちゃった♡」
「嘘をほざくな!
「も~……照れちゃってぇ……♡」
両手を頬に当ててフリフリと体を揺らす。
本当に記憶がない……ないが、彼女が首に包帯を巻いている理由が思い当たらない。
昨日は確かにそんなものはなかった。傷一つない肌で、露出度の高い真紅のドレスを着こなして踊っていた。
ズキ……ッ。
段々、このことを深く考えると頭痛がしてくる。
それに何故だか視界に映るルーナの雰囲気がピリピリし始め、お椀を持つ手が震え始めている。もう昨日シリウスとアリサが寝たかどうかは考えないようにしよう。
「父と話……だと? 貴様は妹の様子見に来たのではなかったのか?」
「妹の様子を見に来た? それ誰が言ってたの?」
「違うのか? ナミがそう言っていたぞ?」
「違うよ。私はこっちに
「商談?」
「ええ———
アリサは頭に付けている白いバンダナを取り、真剣な表情で俺を見据える。
すると食堂の扉が開き、赤い軍服を着た人間がドドドッとなだれ込む。
襲撃か———?
そう警戒した。
だが、違った。彼らは武器を持っていなかった。
彼らが持っているのは木箱。それも大量の。
その木箱に蒼い宝石のような物が詰め込まれていた。
あれは———魔法石か。
「テトラ領領主ギガルト・オセロット様に魔法石をお売りするためにやってまいりました。だからしばらく
どうやら、このパリピの姉は一筋縄ではいかない人物だったらしい。
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