第91話 高貴な身分としての挨拶
「Fooo~~~~~~~~~~~~~♪ 元気しってたぁ~~~~~~~~~⁉ ンナァァミちゅわぁぁぁぁぁぁぁん‼‼‼‼」
扇子を振りながらアリサ・オフィリアは妹、ナミに飛びつき強く抱きしめる。
「痛い……痛いよ……お姉ちゃん……」
「お姉ちゃんからの直々のハグだゾ~~~~♪ ひっさしぶりの愛を受け止めろ~~~~このカワイイ妹め!」
引きつった笑いを浮かべるナミと、心底嬉しそうな満開の笑顔を浮かべるアリサ。
全然対照的な表情をしている二人だが、金色の瞳にどことなく似ている顔立ちから確かに姉妹だと実感させる。
ただ決定的に違うのは、髪はナミは黒く、アリサは染めたような茶色と若干の黒が混ざったような感じ。それと———、
「お姉ちゃん……! 痛いよ、胸が痛い……!」
「だよねぇ~~~~! ひっさしぶりに会えたんだからねぇ~~~~! 嬉しさで胸が苦しくなるよねぇ~~~~!」
「じゃなくて……胸が、
「———どういう意味?」
スッとアリサが距離を取る。
先ほどまでナミの顔に押し付けていた平らな胸と、アリサとは対照的な妹の豊満な胸が何とも言えない———現実の残酷さを感じさせる。
「ねぇ。ナミちゃん、今の言葉どういう意味?」
先ほどまでとは全く違う、底冷えするような声で尋ねるアリサ。
パリピな雰囲気から一転、広間の温度が一気に下がった。
「あ……き、緊張です! 緊張してて……それで
「そういう感じじゃなかったよね? 緊張して胸が固くなるって言葉使うかな? 普通……ねぇナミ、」
「ひ、ひっさしぶりです~~~! アリサおばさん」
ミハエル皇子が今までに見せたことのない卑屈な笑みを浮かべてナミとアリサの間に入った。
「え? あ、これはこれは……ミハエル皇子。ご機嫌麗しゅう」
ミハエルに気づいたアリサはまた雰囲気を変え、優雅にスカートの摘まんで一礼する。
「おい、ミハエル……ナミの姉はお前の叔母なのか?」
俺はこそっと彼に耳打ちをして確認する。
「そうだよ……! 決闘の時に言っただろ。オフィリア家の人間はプロテスルカ家に入ることもあるって、アリサ・オフィリアは僕の叔父の婚約者なんだ」
「そうだったのか……」
「……だから、皇子と言えども
そう小声で言うと胸に手を当ててアリサに向かって軽く頭を下げるミハエル。
しっかりと伸びたせ背筋に綺麗に折れ曲がった腰。俺ですら美しいと思わせるその姿勢を見てしまうと、彼も立派な王族であるのだと思わせる。
「あ……アリサ・オフィリア殿! ガルデニア王国第三王女アリシア・フォン・ガルデニアと申します……! お目にかかれて嬉しく思います」
アリシアが思い出したかのようにミハエルの隣に立ち、制服のスカートのすそをつまんで一礼する。
アリサはその名前を聞くとピクリと耳を動かした。
「…………これはこれはご丁寧に、プロテスルカ帝国軍将軍ボロミアの娘、アリサ・オフィリアと申します」
そして、アリシアに対しても一礼するアリサ。
それからすぐに互いに顔を上げて話でも始めるのかと思ったが、既に顔を上げているアリシアと違ってアリサは頭を下げたままジッと見上げるような形でアリシアの顔を見続けている。
「あ……何か?」
ずっと顔を見られているのでアリシアが不思議がって尋ねると、アリサが指摘されて気が付いたようにバッと顔を上げる。
「い、いやぁ~~~……あなたがアリシア王女かって思って! ガルデニアにそんな名前の王女がいるって聞いてずっと意識してたんだよね!」
堅苦しい挨拶は終わりとばかりに気さくな笑顔を浮かべて後ろ手を組む。
「意識……ですか? ボク、いや……私を?」
一応、他国の貴族ということで、アリシアは一人称を改め、訪ねる。
だがアリサはもうそんなこと気にするなと言わんばかりに指を立てて自らとアリシアを交互に指さす。
「そ。気にするでしょ? だって私たち名前似てない?」
「あ……」
確かに~、と声に出さずにアリシアがうんうん頷く。
「アリシア王女とアリサ・オフィリア。‶アリ〟まで同じでその後の音も似てるしさぁ~。それに私子供の頃‶アリシャ〟って呼ばれてたんだよね~。舌足らずな妹にアリシャおねえしゃん、アリシャおねえしゃんって。だからアリシアって王女殿下の名前を呼んだら自分呼んじゃってる気がしてさぁ~」
「あ……じゃあボ、私の名前を変えますか?」
「とんでもない! もし名前変えるんだったら私の方で……それに、いいじゃん? 共通点があるって素敵な事じゃん。初めましてなのに初めましての気がしないもん」
アリサが好意的な笑みを向けると、アリシアも「フフフ」と笑う。
「ねぇ、アリシア王女。もしよかったら何だけど、お互いあだ名で呼び合わない? 例えば~私がアリサだから‶リサ〟で、アリシア王女が‶シア〟! 国と国を超えた友情っぽくて良くない?」
「あ、い、いいんですか?」
アリシアとアリサは互いに別国の人間とは言え、王族と貴族の関係で絶対的な身分の差が存在する。
アリサの提案は余りにも馴れ馴れしすぎて、失礼ととらえてしかるべしなのだが、そんなことにこだわる人間はこの空間に存在しなかった。
アリシアはパアと顔を輝かせていて、
「じゃあ是非、ボ、私のことはシアと呼んでください。その……リサさん」
「リサでいいよ~こっちはただの将軍の娘だよ? 呼び捨て、呼び捨て~♪ それにシアちゃん自分のこと『私』って普段呼んでないでしょ? バレバレだよ~」
「あ、わかりますか……?」
「そ~んな気にしないでいいから。シアちゃんの方が偉いんだし、もっと素の自分で堂々としてなよ。そっちの方が絶対いいって」
「わ、わかりました、リサ。じゃああなたの前では……ボクはボクでい続けます」
胸に手を当て、どこか安心したように微笑むアリシア。
「ウェ~~~~~~~イ!」
「う、うぇ~~~~~い……」
扇を投げ捨て、手で狐の頭のような形を作り、前に突き出すアリサ。
自分に近づけてこられたので、そういう挨拶かとアリシアは思い、同様に手で狐の形を作りアリサの狐に当てていた。
俺はその光景を見ながらなるほどな、と思った。
ナミが友達100人が欲しいと言ったり、その友達も不良を好んで選択したり、やたらと見栄を張りたがるのはこの姉の背中を見ていたからか……
「や、やっぱりお姉ちゃんは凄い……一瞬でアリシア王女と友達になってる……私とは違う……どうせ私なんか……」
イラッ。
またイジイジと刀の柄をいじりだしたナミに苛つき、その背中を押す。
「たわけが。お前にも立派な友が出来ただろう……まだ違うか……出来そうだろう!
それを姉に胸を張って報告せんか!」
「あ……」
俺に押し出され、アリサの前に躍り出るナミ。
そして、空気を読んだようにメルル・グレーンがアリサの後ろにぴとりと寄り添う。
「あ———お姉ちゃん! ひ、久しぶり、実は私———、」
「それでナミちゃん、友達100人どこいるの?」
笑顔で尋ねるアリサの言葉に、ナミは完全に固まった。
俺は、また何も正直なことを言わずに逃げ出してしまうのではないかと気を張った。
見栄を張ってしまうのではないかと思った。
だが———ナミはグッとその場に踏ん張り、
「お姉ちゃん、あのね———!」
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