第54話 ルーナからの報告。
モンスターハント大会が終わって、三日の時が経過した。
生徒たちにとって変わらぬ日常が戻って来た。そして、仲間共に苦難を乗り越えたことで彼らは少しだけ強くなり逞しくなった。
これで、いつプロテスルカが襲ってきても問題ないだろう。
「———お兄様、お申し付け通り、調べてまいりました」
俺は、聖ブライトナイツ学園のバルコニーで景色を眺めながら、ルーナの報告を聞く。
「それで、どうだった?」
彼女にはあることを調べてもらっていた。
ルーナは一礼し、続ける
「この1~2週間、変わった事件が起きていないか———調べましたところ十数件以上報告がございました」
「それで?」
「全て———黒い影に襲撃された———と」
やはりか……。
モンスターハント大会が始まる前に、バサラ・モンターノが襲撃された事件。黒いのっぺらぼうのような存在に襲われたと聞いたから、てきっきり
魔剣はその刃から、物質化した影を伸ばすことができる。
質量を持った影は硬質化も可能で、それを刃と化して攻撃することもできるし、鎧として身に
ロザリオは影を体に纏い正体を隠し———闇討ち事件を行っていたというわけだ。
その目的は———、
「強者ばかり襲撃されていた。そういうわけだな?」
俺の問いにルーナは頷きで返す。
「はい。バサラ様を含めます、四天王皆様が〝黒影〟に襲撃され、撃退に成功したのは〝剣聖王〟———ナミ・オフィリア様のみで、残りのお三方は武器を破壊されたり、負傷をされたりと、黒影に敗北した様子で御座います……」
「そうか」
「そのほか、騎士ランクAの生徒が数名、夜に一人で歩いているところを〝黒影〟に襲撃されております。お兄様これは本当にロザリオ様がやったことなのでしょうか?」
ルーナには、事件を調べてもらうにあたり、ある程度のことを説明している。
「ああ、それが魔剣の魔剣たるゆえんだ。魔剣・バルムンクの———」
これが、魔剣を所持するロザリオの仕業である———ということを。
「魔剣は人間の負の感情を増幅させ、さらに、一度見た技を記憶するという特性がある。だからだろう、強者ばかり狙っているというのは」
「ど、どういうことですか? この愚妹めにはさっぱり」
「ロザリオは強くなりたいと強く望んでいた。それは執着ともいえる感情になり、負の感情として増大させられた。その上、魔剣特有の特性により、強者と戦えばドンドン強くなる。そうなれば、強くなりたいという欲望を満たしたいロザリオは次々と強者を襲い、飢えを満たしていく。そしてドンドン強くなっていく。グレイヴも同じだった。負の感情が増幅すれば増幅するほど、魔剣は強くなる」
魔剣は負の感情に呼応して力が強くなり、欲望という負の感情は決して満たされることはない。満ちたと思えば、更に更にと欲望は増大し、果てがなく肥大してく。
アンルートのラスボス、グレイヴ・タルラントも自分を陥れた王家に復讐したいという欲望を満たすことはできず、国全てを滅ぼすまで止まることができなくなっていた———。
「グレイヴ……とは、タルラント商会のオーナーのことでしょうか? 同じ……とは?」
「あぁ……いや……」
言うべきではなかった。
現在俺たちがいる時間は「紺碧のロザリオ」で言うところの共通ルートのところ。グレイヴが本格的に本性を現すのはアンルートに入ってからだ。いわば未来のこと、それを今、言うべきではない。
「とにかく、次から次へと強者を襲うロザリオを、今のうちに止めなければならん。魔剣も取り上げねばならない」
俺は手首を捻り、これからについて思案する。
「———はい、何かがあればお申し付けください。お兄様。ルーナはお兄様のご命令であれば、馬車馬のように働かせていただきます」
「うむ……励めよ」
このルーナも、この世界の「紺碧のロザリオ」という世界のヒロインなのだ。
彼女が最後、この世界でハッピーエンドを迎えるためには、ロザリオという主人公を闇落ちから救わねばならない。
その役目は———ルートを乱してしまった俺、シリウス・オセロットにしかできないだろう。
とにかく、ロザリオに会わねばならない。
バルコニーから去ろうと一歩踏み出した時だった。
———足元の床に傷が見えた。
以前、ここで俺がアリシアと戦った時に、彼女が付けた傷だ。
モンスター大会が終わり、彼女とはしばらく会えていない。偶に学園で見かけるが俺も大会の後処理で忙しく、彼女も彼女で何か思うところあるらしく走り回っている様子だった。
「そういえば、アリシアはどのような様子だ?」
「アリシア王女?」
「その……お前は同じ学年で教室が同じだろう?」
実はルーナはアリシアと同じクラスに所属していた。ルーナとアリシアは本来あまり接点がないキャラなので、その設定はゲーム本編にいかされていなかったので知らなかったが、同じ空間を長い時間共有し続ける間柄だったのだ。
「はぁ……ときたま話しますが、お変わりない様子で……聞かれることはお兄様の様子ばかりでございます」
「
「アリシア王女も、気にかけているご様子で……僭越ながら、会ってみたらいかがでしょうか? お互いに気になさっているのであれば……」
「うぅむ……」
そうだったのか、そう思うと何だか照れくさくてますます足が遠のいてしまう。
「———わかった。
ミハエル王子はてっきりもうこの学園を去ったかと思っていた。
アリシアには手ひどくフラれ、俺にぶん殴られ、ガルデニア王国やオセロット家に抗議の一つもあるだろうと覚悟をしていたのに———全く何もない。ミハエルが殴られたなどという事実、なかったかのようにこの三日間日常が訪れていた。
「ミハエル王子……は、ずっと引きこもっておられます」
「引きこもっている?」
「はい、自室に一人きりで、使用人たちが声をかけても遠ざけるばかりで、引きこもる理由を述べることないらしく……お兄様に頬を打たれたことが相当応えている様子で」
「そうか……」
怒り狂ってすぐに復讐するかと思ったら、気落ちして自分の世界に閉じこもってしまったか……そんな弱気になられると心配してしまうが、ミハエルはそうなった経緯が経緯なので、同情する余地はない。
「……放っておけ、そのうち出てきていつもの調子で噛みついてくるだろう」
「はぁ……」
あの性格だ。どうせすぐに立ち直ってアリシアにしつこく言い寄ってきたり、俺に対して文句を言ってきたりするだろう。
そうなったら、そうなった時に対処するまでだ。
ミハエルはとりあえず放っておき———今はロザリオだ。
俺はバルコニーから立ち去り、一年生の教室へ向かった。
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