第53話 モンスターハント大会、終了

 ———古代遺跡。

 現代で言うとマヤ神殿のような台形の巨石建造物。

 「紺碧のロザリオ」のゲームの設定では古代人の神殿であり、地下には『空渡そらわたり箱舟はこぶね』というファンタジー世界にあるまじき、宇宙にまで到達できる船がある。 

 その頂上部に、紫色のとぐろを巻いた大蛇がいる。


「あれだな……さっきのボスモンスターは」


 アリシアとロザリオはその大蛇———ヴェノム・スネークを発見すると剣を抜いて戦闘態勢に入る。

 

 ————シャアアアアアアアアアアアア!


 縄張りに人間が入ってきたことによってヴェノム・スネークは威嚇をし始め、遺跡の上から降りて来る。

 戦闘が、始まる。 


「———申し訳ないけど、討伐させてもらうよ。モンスターは存在自体が危険だからね」

 ロザリオがそう言いながら、剣に魔力を込め———下から上へと斬り上げた。


「———衝波剣ショック・ブレイド!」


 ロザリオの剣先から衝撃波が大地を抉りながらヴェノム・スネークまで———走る。

 彼の得意な基本斬撃魔法だ。大地を走る斬撃を放つ技。

 あくまで基本の技なので威力はそこまでない。だが、大蛇の表面上に傷をつける。ジャブの役割は果たした。


 —————シャアアアアアアアアアッッッ‼


 ロザリオの攻撃を挑発と受け取った大蛇はロザリオに向かって襲い掛かり——彼は華麗なバックステップで大蛇を引きつけ、


「アリシア王女!」

「ああ———創王気そうおうき‼」


 側面からアリシアが蒼い魔力のオーラを纏った剣でその首を斬りつける。

 青い刃は大蛇の皮膚を貫き———、


 バチンッ……‼


 弾かれた。


「チィ————!」

「え?」


 大蛇はダメージを与えられ、苦悶の声をシャアと再び上げるも、目の前のターゲットロザリオから狙いを外すことなく、彼に向かって何度も噛みつき攻撃を行う。ロザリオは余裕でその攻撃を躱しきっているが、アリシアが仕留めきれなかったことに驚きの表情を浮かべている。


「アリシア王女! 倒せなかったんですか⁉ 創王気そうおうきで⁉」

「ああ! すまん! 創王気も魔力だから、強い魔力を持つ相手には耐性がある。ヴェノム・スネークの強い魔力で弾かれる。どんなものでも斬り割ける万能の力じゃないんだ!」


 だけど、次は仕留めると、アリシアは剣を握り締める。


「———なぁんだ」


 だが、ロザリオはつまらなそうにつぶやくとピタリと足を止め、


創王気そうおうき……!」


 唱え、アリシアと同じ、青いオーラを全身に纏う。


 ————シャアアアアアア!


 迫るヴェノム・スネークを、


「うるさいよ」


 横薙ぎに一閃した。


 ———シャアッッッ⁉


 それでも仕留めきれていない。

 まるで殴りつけるようにヴェノム・スネークは横に弾かれ、古代遺跡に体をぶつけた。


「切れ味……悪いな……何だ、リタさんが言うからどんなものかと思えば、結局この程度の力か……」

 ロザリオは鉄の剣を収める。


 アリシアはロザリオのつぶやきが聞こえていないのか、


「いいぞ! ロザリオ、流石だな。このまま二人であいつを倒しきろう!」


 隣に立ち、明るい様子で健闘を称える。


 が———、


「いえ、二人ではなく———、一人です」

「え?」


 ロザリオが、黒い柄の剣———魔剣を抜いた。


「俺には、この力がありますから……とっとと終わらせます」


 心底失望したように肩を落とすロザリオ。すると、その負の感情に共鳴するかのように魔剣から黒い影がロザリオの腕にまとわりつき右腕全体を覆う。


「ロザ……リオ……? それは……?」

「ああ、怖がらないで大丈夫———これは———、」


 心配するなと戦闘中にも関わらずロザリオはアリシアに微笑みかけ、

 

 ———シャアアアアアアア‼


 隙ありとばかりに、体制を立て直したヴェノム・スネークの身体が跳ね、ロザリオに向かって飛び掛かる。


「———正義を成す、力です」


 ————ッ。



 一瞬だった。

 ロザリオは、襲い掛かる大蛇を一瞥もせずに黒剣を振るった。

 すると、大蛇が上下に分かたれた。

 口が裂けたような亀裂が、綺麗に尻尾まで伸び、完全に体が断ち切られていた。


「ロザリオ……それは……」

「終わりましたね☆」


 ロザリオの右腕から伸びているものがある。


 影だ———。


 黒い影が地面に伸びている。いや、どんどん縮んていた。彼の手から伸びているのではない、どんどん、今、縮んでいる。

 ロザリオは一瞬で黒剣から発生する影を伸ばし、その影でヴェノム・スネークの身体を断ち切ったのだ。


「さて……これで俺たちのモンスターハント大会は終了☆ ヴェノム・スネークを討伐した証しを……いや、その部位はもうさっき会長が戦った時に破壊した牙で事足りますね……てことは、別にここで戦わなくても良かったのかも、しれませんね。ハハッ☆」

「あ、あぁ……そうだな……」


 敵を倒した高揚感か、ハイテンションで冗談じみたことを言うロザリオだったが、アリシアの手はしばらく震え続けていた。


 やっぱり———ロザリオは魔剣に飲まれている。


 俺は草葉の陰から見守りながら、そう確信した。


 ◆


 かくして———第三チェックポイントのボスを倒したことで、俺達の班のモンスター大会の行程は終了した。


 その後、特にトラブルもなくロザリオとアリシアは『黄昏の森』の入口へ戻り、二人で帰還を祝った。俺とルーナはそこで二人を迎え、アリシアから途中離脱したことに対して文句を言われたが、シリウスとして大手を振って労うわけにもいかなかったので、「たわけ。あの程度の苦難、貴様らなら乗り越えられると信じてのことだ」と我ながらツンデレじみた言葉をかけるにとどまった。


 そして、大会の優勝は〝剣聖王〟ナミ・オフィリアが所属する———第23班が勝ち取った。 


 それは別にいい。


 この大会は俺がみんなの前で勝ち誇り、ちやほやされるためではなく、ロザリオとアリシアの仲を接近させ、ロザリオに創王気そうおうきという力に目覚めてもらうためのイベントだったのだから。


 その目的は達成された。


 だが、新たに———魔剣という問題が浮上してしまった。

 それを———これから何とかせねばならない。

 この大会で幸運なことに死人はでなかった。

 だが、大怪我けがをした人間はいた。

 その中にはティポとザップがいる。

 彼らは崖から落ち、首や手足の骨を折る重傷で『スコルポス』の治癒魔導士があと一歩遅れていたら命がなかったほどの傷を負ってしまっていた。


 ———彼らはいまだ、意識を失ったまま目覚めていない。

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