第52話 強さの秘訣

 ロザリオは創王気そうおうきをあっさり習得した。あまりにもあっさり過ぎて何だかなぁ……と思ってしまうが、これであとは経験を積めば、真の力が覚醒してロザリオはラスボスを倒すだけの力を得ることができるようになる。


 が———、


 その前に一つ片づけないといけない問題がある。


「どうやって、あの魔剣を取り上げるか……」


 古代遺跡まではあともうすぐという段階。

 ロザリオとアリシアは、随分と打ち解けて、和気あいあいと話しながら第三チェックポイントへと向かいつつある。


「魔剣を……取り上げる……? どうして……?」


 隣で枝を掴んで潜んでいるリタが反応する。


「リタ、貴様まだいたのか?」

「まだ……いた……暇だから……」

「フ……ッ、貴様ら『スコルポス』は余計なことをしてくれたものだ。あの、ロザリオに魔剣を渡すなど……あんなもの、一学生が扱えるものじゃないだろう」

「そう……なの……?」

「そうであろうが。魔剣は負の感情を爆発させる。所有者の持つ恨みや怒りを増幅させて魔力を活性化させる。魔力は感情に呼応するからな。それにより絶大な力を得る反面、制御ができない。現にアンルートでは……」

「アン……ルート……?」

「あ、いや……」


 「紺碧のロザリオ」のストーリーをそのまま口に出してしまい、口を塞ぐ。


「よく……知ってる……ね……魔剣のこと……でも、大丈夫……オヤジはロザリオが〝正しいこと〟のために使ってくれると信じてあの剣を渡した……ロザリオには強い意志と使命感が……ある。だから……大丈夫……」

「随分とロザリオを買っているな……『スコルポス』でのあいつの様子はどんな感じだったのだ?」


 彼は学校に来ていない間、知らないうちに強くなっていった。

 彼女はその空白期間を知るこの場では唯一の人間で、とても俺が記になる情報を持っているのかもしれなかった。

 リタは懐かし気に微笑み、


「最初は生意気な餓鬼だった……強くなりたいから勝負しろってゲハルに挑んできて、ゲハルが叩きのめしてすぐに帰るかと思ったら、見返したい奴らがいるって言って……そいつらを見返すためになら何だってやるって……必死に私たちに勝負を挑み続けていた。私たちの訓練は実践的で、ほとんど毎回殺し合いをするような形で、ロザリオは何度も死にかけた。それでも結果的に生き残って、短期間であれほど強くなった。だから、私たちはロザリオを家族だと認めている。自分の信念と確かな強さを持つ彼を応援したいと思ってい……る」


 急にペラペラしゃべりだすやん。ちょっとびっくりした。

 リタは本当にロザリオのことを仲間———弟のことのように思っているらしい、彼女の話口調は優しく、心の底から応援しているようだった。


「それで———結果として魔剣を渡してしまうと言うのは……」


 いかがなものかと俺は眉をひそめるが、リタは心配いらないと首を振る。


「ロザリオには信念がある……だから……魔剣に振り回されたりしな……い……元々の魔剣の所持者、ウチのオヤジですら……彼を認め……た……だから……絶対に大丈夫……」

「しかし……」


 ———その魔剣の元々の保有者、グレイヴ・タルラントでさえ、負の感情が増幅し、現ガルデニア国王とアリシア王女を含む王家を皆殺しにしようという計画を企て実行に移してしまう。


 ロザリオがアンルートに入るとそんな未来が待っているのだ。


 その未来の可能性を知っているからこそ、リタの大丈夫という言葉を容易に信じることはできない。


「——それにしてもロザリオ、君はどうやって強くなったんだ?」


 ふと、アリシアとロザリオの会話が耳に入る。


「———何です? 突然」

「以前、君を見た時は本当に弱弱しくてなよっちくて……本当にボクの嫌いなタイプの男だったんだ……あぁ、だけど、今は違うぞ。今の君は男らしくて、とても好感を持てる男性だと思っている」

「そうですか? いやぁ~……光栄だなぁ……王女様にそこまで思ってもらえるなんて……」


 照れた様に頭を掻くロザリオ。


「勘違いするなよ。好意と言ってもあくまで親近感を持ったと言う話で、別に君に惚れたとかそう言うのじゃないからな」


 一応と釘を刺すアリシアに対して、ロザリオは「わかってますよ」と肩をすくめた後、言葉を続け、


「だけど……強くなる秘訣ですか……う~ん……」


 腕を組んで悩んでいるような仕草をする。


「何かないのか? ボクも強くなりたいんだ。誰にも縛られないほど強くなって、自由になりたいんだ……」

「自由になりたい……ですか……すいません、アリシア王女。強くなって自由になると言うのが、俺にはピンと来ないんですが……強くなると自由になれるんですか?」

「そうだろう? ボクが今結婚する相手を王である父上に勝手に決められるのも、ボクがこの国から自由に外に出歩いていけないのも、ボクが弱いからだ。ボクは強くなって……そうだな。冒険者になって、いろんな場所を旅したいんだ……!」


 ハッとアリシアが何かに気が付いたように目を見開く。


「———だからかな。何にも縛れていない彼がカッコいいと思えるのは」


 ボソッとそうつぶやき、ロザリオはアリシアの言葉の意味を察しているように微笑んだ。

「……そうですか。そうですね……そのためにボクが言えるアドバイスと言えば……何もないんですよね」

「何もない……そうか……」


 お手上げというようにロザリオは両手を広げ、アリシアはがっかりしたように肩を落とす。


「アリシア王女、厳しいことを言うようですが……俺はあなたがそんな自分勝手な気持ちを持っている限り強くはなれないと思います」

「……本当に、厳しいな」

「ええ、俺が強くなれたのは自分のためじゃなくて、自分以外の弱者のため。この世界に生きている弱い人間を救いたいと思ったから強くなった。強くなれた———〝正義〟のためになら、人は普段発揮できないような力を発揮できて、短期間で強くなれるんです」

「〝正義〟。それが———君が強くなった秘訣というわけか」

「ええ! 悪を滅ぼす、絶対的な正義の守護者。俺は多分そう成るために生まれてきて、そうならねばと思って生きています」


 ロザリオが魔剣の柄を握り締め、


「〝正義〟のためになら———僕はなんでもやりますよ」


 力強く、答えた。


「そうか……人のために自分を捨てる……確かにボクが強くなるための目的とは相反するな」

「ええ。俺の正道せいどうには自由がない。人のために尽くすということでがんじがらめになっているんです。でも———だからこそいい。その道は俺しかあるけない。なら、俺はその道を行く。そう——思うと自信がついて、どんどん力が湧いてくるんです。王女様もいつかはそういう道を見つけられるといいですね」

「ああ、そうだな……ありがとう、ボクの夢を否定しないでいてくれて……」

「……はい?」

「君はてっきり、「そんな自分勝手だから強くなれないんだ」とボクの自由になりたいという夢を最後には否定するんじゃないかと思ったぞ。だけど、いつかは自分なりの道を見つけられるといいと肯定してくれた。それに少しだけ安心したんだ」

「ああ……別にお礼を言われるようなことじゃないですよ———興味がないだけですから」

「え———?」

「ほら、第三チェックポイント、古代遺跡が見えてきましたよ!」


 立ち止まり、驚いているアリシアに気づいてか気づかずか、ロザリオは遠くに見えてい来たピラミッド状の遺跡を指さし、足を速めた。

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