第40話 探索者——ミルカ・ロード
第三チェックポイントである古代遺跡は、毒蛇の巣が点在してる湿地帯の中心部にある。
ヴェノムスネークという毒を持つ危険な蛇が生息している地域。だがその毒蛇は、討伐ランクは低く、騎士候補生でも充分に倒せるレベルの魔物だ。
そして、俺達が向かう目的地はその毒蛇のボスともいえる大蛇が巣にしている場所。
討伐ランクBでヴェノム・ナーガと名付けられた紫色の大蛇———古代遺跡に巣くい、牙から発する溶解液で何人もの冒険者を屠ってきた厄介な魔物ではある。そうではあるが、その魔物が巣くう古代遺跡には『
いずれロザリオはそのヒロインと共に、その遺跡を目指さなければならない。
なので、今のうちにヴェノム・ナーガという障害を取り除いておこうと思い、俺はこのコースを設定した。
ぬかるみを避けながら、背の高い草むらがおいしげる湿地帯を行く俺達。
黙々と。
誰も言葉を発そうとしない。
一晩明けて、疲れは回復したはずだが、ピリピリとした雰囲気に包まれ、なんだか険悪なムードが立ち込めていた。
「ロザリオ」
「はい?」
あまりにも気まずすぎる。
ロザリオとアリシアとの仲を取り持つためのイベントだと言うのに、こうも会話がないと仲良くなるも何もないだろう。
「何か面白い話をしろ」
「……は⁉」
地獄のネタ振りをする。
ロザリオには本当に申し訳ないと思う。
この空気を壊したいが、シリウス・オセロットから話題を振って盛り上げるわけにはいかない。シリウスとはそんな親しみやすいキャラではないのだ。
だから、ロザリオに何とかしてもらうとパワハラ上司のような振る舞いをしてしまった。
「あの……う~ん、そうですねぇ……こないだ武器屋に行ったんですよ。新しい剣を買おうと思って。いい剣はいろいろあって、こんな作りをしているのかと勉強になったんですが……お金が足りなくて結局何も買わずに帰りました」
「……それのどこがおもしろい話なんだ?」
「〝
「………」
ダジャレだ。
剣と見学をかけた。寒いダジャレ。
「たわけ」
「はい」
あんまり面白くはなかったので、言葉少なにやり取りをし、再び沈黙が俺達を包む。
結局、気まずい雰囲気を解消できないまま、しばらく進む。
と———、
「うわああああああああああああああああああああああああああああ‼」
唐突に、ガササササッ! と音がして目の前の草むらから人が飛び出してくる。
突然のことで俺も流石に内心ビックリし、アリシアが「きゃあああ!」と悲鳴を上げた。
「ハァ……ハァ……あれ? 会長さん⁉」
飛び出してきた人影は、女生徒だった。
「お前は……」
茶髪で、サイドテールの髪型をした元気っ娘———。
「ミルカ・ロード………」
『紺碧のロザリオ』のヒロインの一人で、探索者のキャラ———ミルカ・ロードと、出会ってしまった。
「ありゃ、あたしの名前知ってんの?」
彼女とはここが初対面だが、ヒロインなので俺は名前は憶えていた。
ミルカは一番シリウスとは関係性が薄いヒロインだ。
彼女は探究心があり、ロマンや冒険が好きで、『
そんなシリウスと関係性が薄い彼女ではあるが、後々アリシアの善き女友達となるキャラクターなので無視はできない。
「……せ、生徒会長だからな。生徒一人一人の名前ぐらいは把握している」
ヒロインだから覚えているとは言えないので、一応生徒会長の立場を利用した嘘をついた。
「そりゃ光栄」
そして、ミルカは特に嬉しくもなさそうに、俺へジト目を向ける。
初対面ではあるが、やはりこの時点ではシリウスに対する好感度は高くなさそうだ。
まぁ、いずれこっちは殺される身なのだから別にいいが……。
「それよりも……ん?」
クイ……と袖を引かれる。
ミルカを問いただそうと腕を上げようとしたが、何者かに掴まれていた。
「アリシア王女……?」
「え? あ……!」
何故かアリシアが俺の袖をつまんでいた。
そのことは完全に彼女は無意識だったようで俺に見られると顔を赤くして手を放した。
「きゅ、急に大きな音がしたから……びっくりしちゃって……」
「そうか……」
アリシアの様子も今朝からずっとおかしい。というか大人しい。
昨日までの元気な様子はどこへやら、今日はずっと借りてきた猫のように縮こまっていた。
後で詳しく問いただすべきなのだろうが、今はミルカだ。
「……ミルカ・ロード。どうして貴様がこんな場所にいる?」
彼女に向き直る。
この湿地を進むコースを設定していたのは俺達だけで、他の班は近づかないようにしていたのに。
問われたミルカは頭の後ろに両手をやり、
「ア、 アハハハハ……ッ! ちょっと地図を失くして、道に迷っちゃって……ぇ」
「本当か?」
「ほ、ホントだよ……?」
ツーッとミルカの視線が横に泳いでいく。
明らかに、嘘をついている。
「ま、待つでヤンス! リーダー‼ まだティポ様が追い付いてな……か、会長⁉」
ガサッと草むらをかき分け、ノッポのいじめっ子———ザップが現れた。
こいつ、ミルカと同じ班だったのか……。
俺の顔を見た瞬間、ザップは全身を震わせた。
「……ザップ、ミルカ。お前らはここで何をしている? コースを外れているだろう? それにさっきの悲鳴は何だ?」
「えぇ~……とぉ……それは……」
ミルカは指を突き合わせて気まずそうにするだけで答えない。
そうこうしているうちにまたガサッと音がして、草むらからティポと二人の男女が現れた。恐らくミルカの残りの班員だろう。
「ぜぇ~ぜぇ~……早いよォ、リーダー……!」
汗だくのティポが全身で息をしながらミルカを責める。
リーダーと呼ばせているのか……いったいどういうやり取りをしたのか気になるが、それよりもこいつらがここに居る理由だ。
「おい、ティポ、ザップ。これはどういうことだ? いい加減に答えろ。お前らは何故ここに……そして、何やら必死の様子だが、逃げているのか?」
何者からか———。
「そんなやりとりしてる場合じゃないよ! いいから逃げるよ!」
ティポが追い付きいたことで、再び逃げなければと、パンと手を叩いて走り出すミルカ。他の班員たちも彼女に続いて走りだす。
「そ、そうでヤンス……!」
「逃げなきゃ!」
ダッシュで草むらへの中へと入っていく。この湿地帯はぬかるみが至る場所にあり、ヴェノム・スネークの巣穴も点在していく危険な地域だと言うのに。
それをわかっていないのか、わかっていながら、逃げなければならない何かがいるのか……?
————シャアアアアアア……!
鳴き声が上から聞こえる。
「し、師匠……」
アリシアが再び俺の袖を引く。
上を見上げる。
「な———⁉」
そこにいたのは、金色の瞳を光らせる紫色の大蛇だった。
———ヴェノム・ナーガ。
牙から溶解液を滴らせ、俺達を見据えている。間違いなく、俺達を敵と認識していた。
これから向かう古代遺跡で対峙する予定のボスと、その道中で遭遇してしまった。
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