第29話 ベタなラブコメのような雰囲気
モンスターハント大会の概要はこうだ。
それぞれの班に与えられた『黄昏の森』内の三つのチェックポイントを通過し、最終ポイントのボスを討伐し———その体の一部を採取し、スタート地点に戻ってくる。
実際バサラがこなしていたような討伐クエストと何ら変わらない。ただ、その中で出会った魔物を倒し、倒した証明に一部を採取し、持って帰る。
その対峙した魔物の討伐ランクごとにポイントを振り分け、高かった班が優勝となる単純なルールだ。
だだ、
そして、俺たちは地図を持ってじめじめした森の中を進んでいく。
「湿気が凄いな……まったく僕がどうしてこんなことを……」
手ぶらで後方から二番目を歩くミハエルが文句を言いながら手で顔を扇ぐ。
「気持ち悪い~……帰りたい~……」
うるさく文句を言うミハエルを、先頭から二番目を歩くアリシアがチラリと、彼をゴミを見るような目で一瞥した。
その視線にミハエルは気づかず、
「おい庶民‼ 道は合っているんだろうな⁉ さっきからずっと歩きとおしだぞ⁉」
先頭のロザリオを問い詰める。
「合っていますよ。安心してください。第一のチェックポイント、
彼は振り返り、ミハエルに対してニコリと微笑む。
「全く、何がもうすぐだよ……んな場所行きたくないっつーの……」
自分で聞いておきながらぶつくさ文句を垂れるミハエルだが、ロザリオはニコニコと、
「それにしても光栄だな~、王女様と王子様と一緒の班になれるなんて……それに会長も一緒。こんな豪華な班に割り当てられるとは思ってもみなかったですよ」
まるでピクニックに来ているように会話を振る。
その言葉にアリシアが反応してくれれば、多少二人の仲は進展するものだが、アリシアはロザリオの言葉に応える様子なく、ただまっすぐ前を見つめている。
やっぱりまだ他人の距離感だ。
「………たわけ、何を弾んでいる。厳正な
仕方がないので俺が応える。
予告で通知した内容をそのまま言う。
他の班についてはその通りだ。学園が設定した騎士ランク・実戦経験の豊富さに合わせて班員を割り振っている。だが———この班に関しては違う。ロザリオとアリシアを引き合わせ、ミハエルにアリシアから手を引かせる目的の班構成にしている。
だから、俺の言葉は嘘なのだが、ロザリオは納得した様子で、肩をすくめる。
「なるほど……俺の騎士ランクはFですからね。〝弱い〟からここにいるわけですね」
「その通りだ。わかっているのならせいぜい励むがいい……」
ガシャリ……。
ロザリオが肩をすくめた瞬間、やけに重い音が響いた。
音がしたのはロザリオの腰からだ。
聖ブライトナイツ学園の騎士候補生は鉄の片手剣を支給されて、全ての生徒はその剣を腰に携えている。だが、ロザリオはそれだけではなくもう一本、〝剣〟を携えていた。
黒い柄に青い宝玉が埋まっている、何というか……禍々しい剣。
それが——妙に気になった。
生徒は各々の判断で支給された剣以外の武器を装備する。個人個人の才能によって得意な魔法や技能は違うので、バサラやアンのように自分の特性に合ったエモノを使うのは全くおかしなことではない。
だけど、どうにも……。
「ロザリオ……お前、双剣を使うようになったのか?」
「……? ええ、修行してみたら、俺にはそっちの才能があるとわかったので———」
こともなげに答えるロザリオ。
確かに———そのとおりではある。
彼には双剣の才能がある。
『紺碧のロザリオ』の最終パートではロザリオは双剣使いとして戦う。アリシアから王家に伝わる剣を授かり、真の王としてふさわしい戦闘スタイルになるのだが、それはだいぶ先の話。
既に双剣使いになっているのが、俺は腑に落ちなかった。
「お兄様」
「ん?」
最後尾を歩くルーナに声をかけられ、歩調を緩め彼女に追い付かせる。
ルーナは背中に〝ギャラルホルンの杖〟を背負い、目を赤く輝かせていた。
現在———鉄仮面と化した
歩きながら。五十体以上の古代兵を同時に動かして、モンスターハント大会の参加者を見張らせている。
「私たちの班より先行しておりました第18班のうち1名がコボルトに襲われて負傷。右腕に切り傷を作っておりますが、鉄仮面を向かわせますか?」
万が一死人が出ないように健康状態の管理も任せて、誰か生徒が怪我をするたびに報告させるようにしていた。
「その班は治癒薬はまだ所持しているか?」
「はい」
「ならば救助に向かわせる必要はない。その程度ならば自らで何とかするだろう。その方法も思いつかずに諦めているようだったら、鉄仮面を使ってそれとなく治療を促してやれ」
「どのように?」
「荷物を暴いて、治療薬をわざとらしく取り出すとかだ」
「了解しました。では第十八班を注視し、その状況に応じて対処いたします」
ルーナが頷き、
その頬を一筋の汗が流れる。
「…………お兄様?」
「あ」
思わず、俺はハンカチを取り出して、彼女の汗をぬぐってやった。
やってしまった。
徹夜した上に行軍、
「どうされたのですか? そのようなお優しい行為……」
「だ、黙れ。貴様が倒れられると面倒になる。だからこの程度はしてやる……! 貴様は
シリウス・オセロットらしい言い訳は全く思い浮かばなかったので、ぶっきらぼうな態度でごまかそうとする。
だが、そのルーナはやはり微笑を浮かべ、
「感謝いたします。お優しいお兄様」
礼の言葉を述べる。
まずいなぁ……せっかくヘイトを買うって決めたのに……。
「だから、この程度のことを気にするな……と」
ふと、足元に人影が落ち、前に人が立ってることに気が付く。
アリシアだ。
何だか拗ねたような顔で俺たちを見ていた。
「随分と仲がいいんだな」
「な、仲良くなどない!」
なんだ? アリシアはいきなり何を言い出しているんだ。
「君たちは兄妹なんだってな。初めて知ったぞ、師匠。君に妹がいるなんて話」
「まぁ普通は言わないからな……」
「ふぅ~ん……似ていない兄妹なんだな」
「そ、そうでしょうか……?」
ルーナが頬に手を当てながら俺を見る。
確かにシリウスとルーナの顔は全然似ていない。
腹違いの兄妹で母親が違うと言うのもあるだろうが、目つきの悪いシリウスと違ってルーナは虫も殺せないような柔らかな顔立ちをしている。
そんな俺達をアリシアはジト目で見続け、
「師匠は彼女には自分から話しかけるんだな。ボクにはそんなこと全然してくれないくせに。いつもボクの方から話しかけるばかりで……」
唇を尖らせた。
「アリシア……お前……」
嫉妬してるのか?
確かに俺からは彼女に全く話しかけたことがない。だって、彼女と仲良くするべきなのは俺ではなく、ロザリオなのだから、俺から話しかけるのはデメリットしかない。
だけど、そのことに対して拗ねるとは……。
好感度の高さに疑問を抱いているとアリシアはキッと眉を吊り上げ、俺を睨んだ。
「だから、アリシアじゃなくて〝ビッ——、」
あぁ……! 呼び方か……!
まずい———!
このパターンはマズい。
近くに人がいるときに、それも静かな森の中で言ったら、絶対に聞かれる。
王女に〝ビッチ〟と呼ばせているなんて、絶対にここに居る人間に聞かせてはならない——!
「———ッもが?」
———だから、俺は慌ててアリシアの口を手で塞いだ。
「……お兄様? 王女様の口を手で塞ぐなどと」
流石のルーナもこの行為には引いた。
「もが、もが!」
ルーナの言葉に同意するように、口を抑えられたまま、アリシアが抗議の目で俺を見る。
「あ~~~~~~~‼ 何をやってんだ! お前エェェェ‼」
ミハエルが直ぐさま俺たちの元へやって来て、アリシアに触れていた手を払わせる。
「ボクのアリシアに、何手を触れているんだ⁉ それも唇に手を当てるなんて! 彼女は僕のだぞ!」
「プハッ……別に君のモノじゃないよ」
「な、何だその態度は! 婚約者に向かって! アリシア! おい、アリシア!」
ミハエルが来たことで一気に不機嫌になったアリシアは口元を自らの手で押さえながら歩を進める。
ミハエルはすがるように彼女に追い付いて話しかけるが、ことごとく無視されていた。
全くもって前途多難だ。
こっちがラブコメしてどうするんだ。
何とか彼女とくっつけたい男は別にいて、前の方でこっちを見ながら静かに微笑んでいるし。
ロザリオ……せっかく美人の王女様にアプローチをかけるチャンスなんだから、お前は少しは自分から向かっていくぐらいしろよ……。
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