第22話 ルート修正不可能⁉
「弟子に……だと?」
王女———アリシアに弟子入りを志願された。
が、今の俺はそれどころではなかった。
「リオは先週までは弱かった! だけど、師匠を見つけ、『黄昏の森』にこもって修行しまくったそうだ! それでも一週間でこんなにも強くなるなんて凄いよな!」
「はは……それほどでも……」
「「「すごぉ~い!」」」
中庭はまたロザリオの話題で一盛り上がりしている。
早く、あそこに行ってロザリオに何があったのか話を聞きに行かなければいけないのに———。
「シリウス! よそ見をするな! ボクは真剣な話をしているんだぞ!」
「…………ッ、グ……」
今は、目の前のアリシアをどうにかしなければいけない。
「アリシア王女、悪いが
「アリシア王女はやめろ! ボクは君の弟子になるんだ。呼び捨てでいいと言っただろう。それに君の言った事ならもう全部実行した。平民の子に決闘を挑んでみたり、仲間に入れてもらうように話しかけたりもした。だけど、なんか違った。やっぱり、皆ボクのことを凄いというし、皆ボクに対して壁を作ってる。君だけなんだ。手加減容赦のない、鬼畜外道に、徹底的に、ボクを打ち負かしてくれる人間は———」
違う、そうじゃない。
『紺碧のロザリオ』のメインヒロインのアリシアが頼るべき相手は今、中庭で喝采を受けているあの少年、ロザリオ・ゴードンなのだ!
それ以外の人間に師事を乞うても、仲を深めても全く意味がない。
「あのですねぇ……王女殿下……人には適材適所というものがありまして、」
「王女はやめろと何回言わせるんだ! アリシアと呼べ!」
「……そういうわけにも」
「よ・べ!」
怒り眉毛でにじり寄ってくる。
なるべく呼び捨てにはしたくない……『紺碧のロザリオ』ではそう呼ぶのはロザリオが初めてで、この学園の誰も彼女を呼び捨てにはしないのだ。
初めてアリシア・フォン・ガルデニアという存在を、王女ではなく、一人の女の子として見るのは———ロザリオ・ゴードンなのだ。
それを奪いたくはない。
「……うぅ~む」
「どうした? 君もやっぱりボクが女王だからって差別するのか? お姫様扱いするのか? 他ならない君が! 鬼畜外道の君が!」
すごい剣幕でグイっと更に顔が寄ってくる。
近い。
大きい輝くエメラルド色の瞳が迫ってくる。
この瞳に見つめられると、彼女の言葉に従いそうになってくる……、
「俺はこのリオと天下を取る! 『予言の魔王・ベルゼブブ』が復活しようと、俺たちが倒して見せる~~~~~‼」
「「「おおおおおお~~~~~!」」」
また、中庭の歓声が聞こえる。
「—————ッ!」
ハッとする。
そうだ、このまま流されてはいけない。
なぜかロザリオはヒロインの誰ともくっつかずに、親友ルートに行こうとしているが、まだ遅くない、ここで突き放して彼女とロザリオの中を取り持たねば。
「黙れ、
「————ッ」
思いっきり
何故か、彼女は俺との距離を縮めようとしてくる……そうなってしまった心当たりが全くないのだが、ここはひどく罵倒し、改めて俺が鬼畜外道の悪役貴族であるところを見せつけ、彼女に嫌われなければならなない。
「この
言ってやった。
普通、王女に対して言ったら殺されるようなことを、処刑されるのも覚悟で言ってやった。
ここで思いっきり罵倒しておいて嫌ってもらい、一人で泣いているところをあのロザリオに慰めてもらう……それでいこう。完璧な計画だ。
例え、俺の言葉が行き過ぎて、「処刑だ」「オセロット家おとり潰しだ」なんだと言われても、それならそれで俺はシリウス・オセロットとして最後まであがき続け、この国家の敵となり、反乱を起こし、ロザリオに殺してもらおう。
ルーナには少し悪いことをしてしまうが、何とか彼女は幸せになれるように頑張ってフォローしよう。
そんな覚悟を持って言った俺の罵倒に対して、アリシアは全身をプルプルと震わせた。
おっ———泣き出すか? それとも怒り出すか?
「———そ、」
「そ?」
「それで……いいっ‼」
アリシアは満面の笑みを浮かべていた。
「————は?」
「やっぱり君はそうでなくっちゃな、シリウス! 君だけだよ……ボクにそんな対等な口を利いてくれるのは!」
本当に嬉しそうな笑みを浮かべるが、俺が利いた口は対等ではない。アリシアを対等以下に貶めている口の利き方だ。
「何を言っているのだ? 王女陛下」
「違うだろ。〝ビッチ〟だろ?」
「は?」
「ボクを呼ぶときは〝ビッチ〟。君が今つけてくれたんじゃないか。あだ名……ってやつなんだろ?」
「あぁ………いや……」
違うわ、たわけ。
頭を抱える。
ダメだ、この王女、何をどう言っても俺の言葉を好意的に解釈してしまう。
「あのな、アリシア王女」
「〝ビッチ〟!」
そう呼べと視線で訴えかけてくる。
コイツ
絶対わかってないだろうな……。
「……
「うわあああああああああああああ‼ あの
メチャクチャ説明的な歓声に俺の言葉を遮られる。
くそ———何だあの説明台詞は! どうしてあんなに盛り上がっている⁉
……待てよ。ロザリオに関してはこのままでいいのではないか?
ヒロインとの接点がないだけで、彼は彼でしっかりと強くなっている。
ならもう仲を取り持つだけ。
既に強くなっているのだから、ロザリオ真の力覚醒イベントまでもうすぐのはずだ。
なぁんだ。道のりは遠のいたと思っていたけど、なんだかんだと前に向かっている。
なら、あとはアリシアとロザリオをくっつけるだけ、そして俺が殺されるイベントを
このルートのまま進んでも問題ないじゃないか。
「あのな……〝ビッチ〟、
「やだ! 君がいい! シリウス……君もボクに壁を作るのか? ボクの頼みを断るのか? ボクの師匠になってくれないのか?」
少し、落ち込んだ表情を見せるアリシア。
そうだ———ここはなんとしても突き放さなければ、
「俺とリオはこれから二人で生きていく! 聖ブライトナイツ学園を辞めて! 冒険者として世界を
「「「うわああああああああああああああああああああああああ!」」」
「———違う! そうではない‼」
中庭で何やらとんでもない宣言が行われ、思わずそちらにツッコミをいれてしまう。
ロザリオが退学する?
そんなルートはない。
そもそも、ギャルゲーでよくある、「ヒロインと誰とも結ばれなかった結果の親友ルート」というものが『紺碧のロザリオ』には存在しな……、
「…………あ」
ハッとする。
親友ルート……あるにはあった。
以前に読んだ『紺碧のロザリオ』の開発者インタビューで、元々『紺碧のロザリオ』はただのギャルゲーではなく、ダンジョン探索要素もある、RPGとして企画されていた。
毎期ごとに課題が出せられ、主人公がそのクエストこなしながら、ヒロインとの仲も深めていくというゲームコンセプト。ただ、予算の問題でダンジョン探索の要素を廃さざるを得なくなり、結果今の———俺がプレイしたテキストゲーの形に収まった。
その企画段階のRPGの時には、ダンジョン探索にばかりかまけて、ヒロインの好感度を上げていないと、最後は誰とも付き合うことができず、親友と二人で冒険の旅に出る……という親友エンドがあった。
その、企画段階にあった親友エンドに———ロザリオが向かおうとしている。
どうしてそんな隠しルートに向かってしまったのか!
誰か、バグ技使ったか⁉
バグでも起きたのか⁉
今すぐにもあの中庭に飛び出していって、全てをうやむやにしなければと窓枠に手をかけた———、
「違う……今違うって言ったな? そうじゃない……ってことはOKっていうことか?」
え———?
ああ……そうだ、アリシアがいた。
さっきのバサラの衝撃発言で頭からすっ飛んでいた。
えぇっと……何の話をして言ったっけ?
「シリウス……君、「ボクの師匠になる頼みを断るのか?」 って聞いたら「違う、そうじゃない」って……ってことは……! OKってことなんだよな⁉」
やったーと、両手を上げて喜ぶアリシア。
まずい。
ロザリオだけじゃなく、アリシアもとんでもない方向へ向かおうとしている!
「え、あ、いや、そうじゃな、」
「これから頼むぞ! 師匠! 早速、今日の放課後、稽古をつけてくれ! 放課後裏庭で待ってるからな! 必ず来いよ! 師匠!」
「ちが、人の話を……!」
「そうだ、急いでるんだったな、呼び止めて悪かった師匠。じゃあな! 今日から弟子として……いや、ビッチとしてよろしくな!」
彼女は全く俺の話を聞いてくれず、そのまま笑顔で手を振りながら、廊下を歩いていってしまう。
「あ………」
まだ……こちらに笑顔を向けながら遠くなっていく彼女に、俺は手を伸ばすしかできなかった。
「「「うおおおおおおおおおお、すげぇぇぇぇ‼ モンターノさん! ロザ―リオ! モンターノさん! ロザ―リオ!」」」
中庭から沸き立つ謎の歓声を聞きながら、俺は茫然と固まっていくことしかできなかった。
これもう、ルート修正不可能じゃね……?
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