第21話 親友——バサラ・モンターノ

 『紺碧のロザリオ』の親友キャラ———バサラ・モンターノ。


 聖ブライトナイツ学園最強の四人———四天王と呼ばれる人間の内の一人で「守護王しゅごおう」と呼ばれている。


 成人男性の体ほどもある巨大な〝盾〟が武器という中々他に見ないキャラで、彼の持つ最硬の障壁魔法は破られたことがない———という破られるフラグにしか聞こえない設定を持つ。


 『紺碧のロザリオ』ではゲーム開始当初から名前が出ており、ちょくちょく最強の四天王として劇中に登場するのだが、ロザリオと絡むのはゲームの後半、大抵ルートに入った後だ。


 ミハエルもシリウスも倒したことで彼はロザリオに興味を持ち、決闘を挑むが、覚醒した彼の力であっさりと障壁魔法を破られ、盾も砕かれる。

 その後、ロザリオの実力を認め、ロザリオのことを「リオ」と呼び慕う親友となり、日常では彼の気の許せる男友達、戦いでは彼他ヒロインを守る頼れる守護騎士となり、あまりにもいい奴過ぎる彼の性格は、ネットのギャルゲーユーザのファン投票で『今年のベストヒロインランキング』で、第三十位にランクインした。男なのに。


 そんな彼とシリウス・オセロットの接点はほぼない。


 作中で描かれていないところで多少なりとも会話をしているのだろうが、シリウスはバサラのことを「平民の野良犬」と見下し、バサラもシリウスのことを「才能に胡坐あぐらをかく馬鹿」と嫌い、互いに絡もうとしなかった。


 そんな犬猿の仲の片方が、今中庭で多くの生徒の声援を受けている。


「よぉ~し……俺の今日の冒険の話、聞きたいかぁ~~~⁉」


「「「聞きたぁ~~~~~~い」」」


 バサラ・モンターノは黄色い声援を送る生徒たちに囲まれ、「よし!」と言って、冒険の話をし始めた。


「凄いでヤンスよね……モンターノさんの人気は……」

「ああ、でも話聞きたくなるよなぁ……毎回SかAランクの討伐クエストをこなしていくんだもん。大人でも入れないような魔境に入ってモンスターを退治してさ。やっぱり憧れちゃうよなぁ……一流の冒険者って感じがするよなぁ……」


 バサラは常に強敵を求め、大人の冒険者がやるようなクエストを学生の身でありながら引き受け、次々とクリアして報酬を貰う。

 その報酬は孤児院の運営に寄付し、クエストで行った秘境の話を帰るたびに披露するのだから、人気が出ないわけがなかった。


「今度のモンスターハント大会……モンターノさんがいる班が優勝するに違いねぇでヤンスねぇ……モンターノさん以外の四天王はマイペースでやる気がないでヤンし……」

「最有力候補だろうなぁ……あのドラゴン……『黄昏の森』の奥地にいるって言うサファイアドラゴンだよな? あんな大物既に狩ってるんだから……もう優勝してるもんじゃないか?」

 ティポとザップが噂をしあう。


 どうしたものか……。


 バサラが優勝するかどうか、これは別にどうでもいい。好きにしてくれという感じだ。


 問題はロザリオの行方なのだ。


 彼がアリシアとくっつく方が重要なのだ。だが、彼が行方不明のままではくっつけるものもくっつかない。


「あいつにワンチャン聞いてみるか……」


 バサラを見つめながらつぶやく。


 のちの親友キャラなのだ……もしかしたら行方を知っているかも……。


「あいつ? ワンチャン?」

「会長は何を言っているでヤンスか?」

「何でもない! まだ貴様らこんなところにいたのか! 思考の邪魔だ! とっとと消え失せろ!」

「「ヒ、ヒィ~~~~~~~!」」


 ティポとザップが近くにいてはまとまる考えもまとまらない。

 強い言葉で追い払うと、彼らは脱兎のごとく逃げていった。


「ロザリオめ、一体どこにいると言うのだ……」


 バサラに頼るのは、やっぱりなしだ。


 バサラは強い人間にしか興味がないバトルジャンキー。この時点ではロザリオなんて歯牙にもかけていないし、そもそも名前すら知らないだろう。


「……でな。『黄昏の森』の奥地に〝水晶の森〟って言う緑色の綺麗な鉱石が埋まっている洞窟があるんだよ。大きな鍾乳洞の中なんだけど……碧色がキラキラと瞬いて、星空の下にいるみたいだった」


 バサラは相変らず生徒たちにドラゴン討伐の時の話を語っている。

 そうだ、彼は彼で討伐に忙しく、ほとんど学園にいない生活スタイルなのだから、一生徒のロザリオのことを尋ねたところで知るわけがない。だからやっぱりなしだ。

 ならばどうするか……。


 『スコルポス』を頼るか?


 アンに頼み込んで、『スコルポス』の人員を借り、ハルスベルク中を探してもらうか……だが、相手はあくまでマフィアだ。既にモンスターハント大会運営でかなりの借りを作っているのに、更にその上人探しなんて……。


「……だが、頼れるアテは他にはない」


 一方で、中庭ではまた話が人盛り上がりしていた。


「サファイアドラゴンの鱗が硬くてさぁ! 俺は防御力はあるんだけど、攻撃力はないから中々決着がつかなかった!」

「すごいなぁ~……」「かっこいいなぁ……」「あこがれちゃうなぁ……」


 生徒たちは羨望のまなざしでバサラを見つめている。

 俺もあいつほどに人望があれば、一人の生徒を探すのにここまで頭を悩ませないだろう。


 バサラがロザリオを探すとなれば、それを聞きつけた全校生徒が彼を探すための捜索隊と化す。

 それだけの人気者。

 かたやこっちは皆からの嫌われ者。

 本当に、バサラとシリウスは正反対の人間だった。


「羨ましいのか? シリウス」


 話しかけられる。

 ふと、声のする方を見ると、真紅の髪にみどり色の輝く瞳———王女、アリシア・フォン・スターダストが立っていた。


「これはこれは、王女殿下」

「王女殿下はやめろ。君にそう呼ばれると腹が立つ。呼び捨てでいい。ボクは君に負けたんだ」


 いや、呼び捨ては良くないだろ……仮にも一国いっこくの王女相手に……。


「それよりも、羨ましいのか? モンターノが」


 アリシアは俺の隣に並び、中庭の光景を一緒に見下ろす。


「い、いや、羨ましいわけでは……」

「それにしては随分と熱心に見つめていたじゃないか。君とは違って彼は人気者だものな?」


 フッ、とアリシアは鼻で笑って、挑発的な笑みを俺に向けた。

 な、なんだ……?

 何だか、雰囲気がすごく柔らかい。

 俺は、一週間近く前に決闘で彼女のプライドをバキバキに折ってやったというのに、彼女の方からこんなに気軽に話しかけて来るなんて……。


 何かがおかしい……。


 また俺、ルートから外れるようなことしたか?

 何でアリシアは俺に対してこんなに気を許している?


「あ~……それよりも、アリシア王女。ロザリオ・ゴードンを知りませんか?」


 彼女が気を許すべき相手は他にいる。


「ロザリオ?」


 知るわけないとは思うが、もしかしたらと思い、行方を尋ねる。

 アリシアは眉根をひそめる。


「ロザリオ・ゴードンか?」

「ええ」


 このリアクション、やっぱり知らないか……。


「彼なら———〝あそこ〟にいるじゃないか」


 アリシアは中庭を指さした。


「そこで! 突如現れたこいつがサファイアドラゴンの首を一閃! 俺だけではどうにもならなかったサファイアドラゴンを見事に討ち取ったんだよ!」


 バサラが一人の少年の手を取り、上に掲げた。


「紹介しよう! 俺の親友、ロザリオ・ゴードンだ!」


 その手を取られた少年こそが———ロザリオ・ゴードンその人だった。


「何ィィィ⁉⁉⁉」


 探していたロザリオ・ゴードンが、すぐ下の中庭にいた。

 肌のいたるところに小さな生傷を作り、少し体格ががっしりとしているが、確かにロザリオだった。

 群衆の中に紛れていて全く気が付いていなかった……それにしても、バサラは何て言った? ロザリオがサファイアドラゴンを討ち取ったって言ったか?


「実は、今回ばかりは俺だけの力じゃなかったんだよぁ……ロザリオが来てくれなかったらどうしようもなかった。本当にありがとな、リオ」

「それほどでもないよ……バサラ君」


 照れながら、バサラと拳を突き合わせるロザリオ。

 そして、バサラはロザリオの手を再び取り、掲げ————、


「リオに拍手を———‼」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ‼


 喝采かっさいが二人を包み込む。


 何だ、何が起きている?

 どうしてこの時点で、ロザリオとバサラが親友になっているんだ⁉ 


 まだ、ロザリオはヒロインの誰とも知り合っていないのに……!


 事情を聴かねばと俺は窓に背を向け歩き始めた。


「ちょっと、シリウス! どこに行こうって言うんだ⁉」

「中庭だ。ロザリオ・ゴードンに話があるのでな!」

「ちょっと待て! それは急ぎか⁉ ボクも君に話がある! 重要な話だ! すぐに聞いてほしい!」

「何?」


 そんなことを言われたら立ち止まらざるを得ない。

 振り向いてアリシアを見ると、胸に手を当てて、どこか恥ずかし気に視線をそらしている。

 やがてその瞳の焦点が俺に合い———、


「シリウス・オセロット! ボクを君の弟子にしてくれ‼」


 そう———言った。


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