第16話 貴族・使用人としての義務
俺が『
だから、一人で適当に作って食べようと思っていたが、何の連絡も家には入れていなかったので使用人たちがすでに夕食を作り、ホカホカな状態に保ってくれていた。
いつ主人が帰って来てもおいしい夕食を食べられるようにと、温め続けてくれたらしいが、そのおかげで炎魔法を使用し続けていたであろう、メイド二人が額にびっしり玉の汗を作っていた。
使用人の筆頭である執事のジイさんは「貴族の家に仕える者として当然のことであります」と誇らしげに胸を張っていたが、負担をかけすぎる。
流石に申し訳なく思った。
「いちいちそんなことまでする必要はない。
「な、何をおっしゃいますか⁉ オセロット家の使用人としてそのような
「不敬でも何でもない、帰宅時間を連絡せず、遅れた
シリウス・オセロットを待って料理のクオリティを使用人一同でリソースを裂いて保ち続けるなんて効率が悪すぎる。
それに下手をしたらシリウス・オセロットが帰らないこともあるかもしれないのだ。そうなるとせっかく保ってくれた料理が、食材が無駄になる。
そんな
執事の頬から一筋の涙が流れた。
「な———⁉」
ギョッとする。
〝俺〟の享年の二倍は歳をとっている老齢の紳士が、涙を流している。
「ど、ど、どうした?」
内心ものすごく動揺する。
昔から年上の涙というのには弱かった。どうやったら泣き止んでくれるのかわからないし、何故泣いているのかわからない。それもジイさんに泣かれているのだから、全く持って対処の仕方がわからない。そんなことしたことがない。
「お~い、おいおいおい……! お~い、おいおいおい……!」
「うわぁ……テンプレみたいな泣き方……どうした? 何故泣くのだ?」
「ジイは……ジイは嬉しゅうございます……坊ちゃまがそこまで人を気づかえるようになったのだと……昔はあんなにお優しく、花も虫も愛でられていたお坊ちゃまが、大人になるにつれてすっかり変わり果ててしまったと思ったのに……いつの間にやらまた大きくなられて……我ら使用人のことまで考えていただけるとは……ジイは、ジイは、嬉しゅうございますぅ~~~~~~~~!」
ついには声を上げて泣き出してしまった。
奥に控えている使用人たちもウッと泣き出しそうになっている目元を抑えている。
「…………そうか」
当たり前じゃない?
自分の身の周りの世話をしてくれた人間に対しては礼節を尽くす。
日本ではそう教えられてきたし、ヨーロッパでも
そんな当たり前のことをやって泣かれるなんて、どんだけシリウス・オセロットは家でわがままに振舞っていたんだ。ジャイ〇ンか。
褒められるのに慣れていないからこんな時にどんな顔をすればいいかわからない。
ただ嬉し泣きする使用人たちを眺め続けることしかできなかった。
そして使用人筆頭のジイさんはある程度泣いて満足したようで、ハンカチで目元をぬぐい。
「坊ちゃんのお優しい心に我ら胸を打たれました。それでこそ仕え甲斐があるというもの……これからも、お坊ちゃんの帰りを、温かい食事を用意して待ち続けます!」
「いや、それをやるなと言ったんだが……」
「お坊ちゃんは使用人に対する、農家に対する〝礼儀〟とおっしゃいました。我らはその
「えぇ……」
にっこにこでこのジイさんは言ってるけど、それはあんたが使用人の代表だからそう言っているだけだろう。
実際に労働をさせられるのは他の使用人なのだから、彼らにしてはとんでもないことを言っているんじゃないか?
と———思って使用人の顔を見渡す。
皆、
わからん……。
主人の前では嫌な顔を見せずに笑顔でいようとするだろうから、彼ら彼女らが何を考えているのかさっぱりわからん……。
「…………
進んでやってくれる人間に対して、無理強いすることはできなかった。
だけど、いずれは辞めさせないといけない。
少なくとも四か月後までには。
その時にはこのシリウス・オセロットはこの世にいないのだから———。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます