勝利の花火

「2時間後でいいんだね?」


アーサー

「そうだ。

想定していたよりも魔王討伐が早い。

もう少し、兵士が疲れてきたところで魔王討伐の知らせを聞かせたい。」


「わかった。

じゃあ、行ってくるね。」


アーサー

「任せたぞ。」


アーサーさんは僕から離れて、再び本陣の業務に戻った。


レズン

「今のは商人のアキラ殿。

何をしていたんだ?」


アーサー

「秘密だ。

だが、悪い話じゃない。」


カルマール

「楽しみにしておきましょう。」






僕が魔王と戦った場所に戻ると、グエンさんとフレデリカさんが縦横無尽にモンスターと戦っていた。

本当は結界の中でゆっくりしててもいいんだけどね。

やっぱり戦いたい人っているんだね。


フレデリカ

「うりゃー。」


グエン

「ふん!」


2人がモンスターを吹き飛ばす。


フレデリカ

「戻ってきてどうしたんだ?」


「アーサーさんから魔王討伐の花火を上げてくれって頼まれてね。

もう少し待ってから、花火を上げる予定。」


グエン

「なるほどな。

戦意高揚になるだろうな。」


「これってどれぐらいかかるのかな?」


フレデリカ

「ここまでの規模の戦闘は初めてだ。

ドリャァ!

想像も出来ん。」


グエン

「モンスターは人間と違い、最後の1匹まで戦意を失わん。

ハッ!

注意が必要だ。」


「確かにね~。」


モンスターが多いよ。

ゆっくり話をしている時間もない。

僕は結界でガードしているから大丈夫だけど、2人はモンスターと戦いながら会話をしている。


そりゃ、自陣から遠く離れた敵陣で孤立してたら集中攻撃されるよね。


でも、2人は結界にはこもらない。

さすがです。



そろそろかな。


待っている間に何度か特大の魔力のぶつかり合いを感じた。

おそらく、僕の従魔たちと魔族の幹部が戦ったんじゃないかな。遠いからよく見えなかったけど。


僕は花火を打ち上げる。

昼間でも明るく見える。

空に大輪の花が開く。


それは戦場全域から見える。

美しい光だった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



アーサー

「見えたぞ!

魔王討伐の合図だ!

勇者が魔王を倒したのだ!」


カルマール

「間違いないのか!?」


アーサー

「間違いない。

各国に伝えよ!

魔王は討伐した、と。

このままモンスターの数を減らしていくぞ。」


伝令たちが一気に駆け出す。


レズン

「誤報でしたは許されんぞ?」


アーサー

「魔王は死んだ。

間違いない事実だ。」


カルマール

「揺るがない自信。

それがアーサー殿の強さの源か?」


魔王討伐。

その情報は戦場を駆け抜けた。


各国の軍は大いに奮い立った。

魔族の強さを知る者ほど、その情報に驚き、また歓喜した。


長期戦で疲弊した兵士たちの心に、再び活力が満たされた。

ここからも地味な消耗戦が続く。

陣形を整え、攻めてくるモンスターを迎え撃つ。

モンスターが攻めて来なくなるまで、延々と続ける。


モンスターが多過ぎて、倒しても倒しても減っていないように感じる。

それでも気持ちを切らさずに、戦い続けなければならない。



戦況は連合軍に有利に進んでいる。

魔王は倒した。

幹部による被害も出ていない。


幹部以外の魔族による被害は出ているが、

想定よりも被害は格段に少ない。



戦闘は延々と続いた。

日没を迎えても戦闘は続いた。

戦闘がおさまったのは深夜だった。


各地で明かりを灯しているが視界は悪い。

それでも戦闘の音がどんどん減っていった。


その後は残党狩りの様相となっていった。



そして、夜明け。


視界が明るくなった時、

連合軍は勝利を実感した。

戦場中に散らばるモンスターの死体。

そして、襲ってくる存在はもういない。


勝利。


戦場中にいる兵士が生き残ったことに涙した。


モンスターの死体の山。

しかし、そこには兵士の死体も沢山まぎれ込んでいる。


激戦だった。

誰が死んでいてもおかしくない。

そう思える戦いだった。


この後、戦場から逃げてしまったモンスターを退治していく。

だが、それは余力のある部隊の仕事だ。

生き残ったけれど、ギリギリの部隊はそのまま撤収作業に移る。


各国、特に最前線で戦った国の消耗は激しい。その様相は勝ったのか、負けたのかすらわからないような状態だった。

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