新たな命

「まずはお座りください。

フィオ、お茶を用意して。」


パエルモ

「かまわなくて良い。

すぐに戻るからな。

アキラ、極秘情報がある。

従業員たちも離席してもらえるか?」


「大丈夫です。

これで音は外に漏れません。」


僕とパエルモ伯爵を結界で包む。

外の音は聞こえるけど、中の音は外に漏れない。そういう結界です。


パエルモ

「すまんな。

子どもが産まれそうな時に。

私も落ち着かなかった記憶がある。」


「ザバスさんには申し訳ないことをしました。」


パエルモ

「気にしないでいい。

無理を言っているのはこちらだ。

時間も惜しい、本題に入ろう。

魔王が大軍を率いてセントラル大陸に向けて進軍を開始した。

その規模は幹部単独の時の比ではない。」


「なるほど。

それがパエルモ伯爵が慌ててらっしゃる原因ですか。

エドワルド陛下はどうされるおつもりなんですか?」


パエルモ

「まだ正式に態度を表明されていないが、援軍は出されるだろう。後はその本気度だ。」


「形式的な援軍か全力を挙げての援軍か。」


パエルモ

「その通りだ。

誰を行かせるのか、どの程度の規模になるのか、まだ情報は入っていない。

しかし、世界各国が軍を派遣する人類史上最大級の戦争になる。

アキラも無関心とはいかないと思っておいた方がいい。」


「今は魔王よりも子どもなんですけど。」


パエルモ

「アキラらしいな。

ただ、これから大人になる子どもたちの世界を守るのも大人の、親の務めだ。

産まれてくる子どもが平和な世界で生きられる方がいいだろ。」


「次世代の世界か、、、」


パエルモ

「アキラの力は異常だ。

世界のバランスを簡単に崩してしまうだろう。

だから、どこまで干渉して、どこからは干渉しないか、を常に考えて欲しい。

そして、その判断基準は、今までの好き嫌いだけではなく、子どもたちのためになるかどうか、も考えて欲しい。」


「わかりました。

子どもたちのためになるか、

それは常に頭に置いておくようにします。」


パエルモ

「それが親になる、ということだ。」


「オギャー、オギャー、オギャー」


「あっ!?」


パエルモ

「私の話は以上だ。

行ってきなさい。」


「失礼します。」


僕は2階へと駆け上がる。

パエルモ伯爵も帰ろうと立ち上がった。


僕ら4人は2階に上がった。

廊下で待っていると、


アリエッタ

「産まれたよ!

入っていいって!」


部屋に入ると、

ベッドで横になるアイラさん。

その横には小さな、小さな赤ちゃん。


助産師さんとマユラさんが傍らに立ち。

リィズは片付けを手伝っている。


「アイラさん。」


アイラ

「アキラ、

抱いてあげて。

アキラの子どもだ。」


アイラさんの表情からは疲れと晴れやかさが見える。

アイラさんのそばまで行く。


抱きたいけど、どう持ったらいいかわからない。オロオロする僕を見かねて、助産師さんが赤ちゃんを抱き上げて、僕に抱かせてくれた。


助産師

「まだ首がすわってないので、腕を枕のようにして安定させてください。」


僕は赤ちゃんを抱いた。

小さくて、軽い。

ちょっとしたことで折れてしまいそうな細い手足。

嬉しさは爆発しそうだけど、こわくて身動きがとれない。


マユラ

「フフフ。

大丈夫だよ、動いても。」


「あ、うん。」


少しだけ腕を動かす。

それが限界。


アリエッタ

「これから、

お風呂入れたり、

オムツ代えたり、

するんだよ。

そんな調子で大丈夫?」


「頑張ります。」


見かねた助産師さんが僕から赤ちゃんを受け取って、アイラさんに渡してくれた。


アイラ

「男の子だ。

アキラの次の仕事はこの子の名前を考えることだ。

良い名前を頼むぞ。」


「責任重大だね。」


赤ちゃんを腕から降ろすと、少し余裕が出てきた。アイラさんに抱かれて眠る顔をのぞきこむ。

アイラさんに似たのかな?

眼は僕より凛々しそう。

男前になる予感。

親バカかな?

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