陣痛

翌日。

満腹亭の営業中。


アリエッタが駆けてきた。


アリエッタ

「アイラ、陣痛始まったって!」


「えっ!

ついにきたの!

どうしよう?」


マユラ

「アリエッタは助産師さんを呼んできて。

リィズはお湯とタオルを用意して。

私はアイラのそばにいるね。

他のメンバーはそのまま営業に集中。」


マユラさんが仕切ってくれた。


アリエッタさんがそのまま店の外に飛び出していった。

僕はそのまま店の手伝いなんだけど、全然落ち着かないよ。そわそわして何も手につかない。


見かねたカミラさんが、


カミラ

「アキラ様は2階に行ってください。」


この世界では基本的に夫は妊婦の隣ではなく、部屋の外で待つものだ。

僕も助産師さんから立ち入り禁止と言われているので、部屋の外で待つしかない。


マユラさんとアリエッタさん、リィズが出入りして、手伝っている。

あんまり大人数はダメだけど、出産の時の段取りとか様子を知っている人が複数いる方が今後のことを考えるといいらしい。




部屋の外でフラフラしながら待ち続ける。

どれだけ時間が経過したかわからない。

まだ赤ちゃんの泣き声は聞こえない。


部屋から出てきたアリエッタさん。


アリエッタ

「ちょっと長丁場になりそうだって。

今のところ危険な兆候はないから不安になる必要はないらしいわ。

初産ではよくあることなんだって。」


「わかった。

ありがとう。

何かあったら、すぐに呼んでよ。

僕の魔法ならたいていの事態は乗りきれるから。」


アリエッタ

「大丈夫。

落ち着いて。

そんな調子じゃ、アキラ君が先にダウンしちゃうよ。

じゃ、戻るね。」


アリエッタさんが部屋に入っていく。





まだかかるのかな?

そんな時、下からルーシュさんが上がってきた。


ルーシュ

「アキラ様、ザバス様がいらっしゃっています。急ぎの話のようです。」


タイミング悪いな。

ザバスさんが来たってことはパエルモ伯爵関係だよね。無視も出来ないか。



お店に降りるとお客さんは誰もいなかった。

もう営業時間が終わっていたのか。


ザバス

「アキラ様、お忙しいところ申し訳ございません。伯爵が至急お会いしたいと仰せです。ご一緒に来て頂けませんか。」


「申し訳ございません。

今、ここを離れられません。

後にして頂けませんか。」


ザバス

「緊急事態とのことなのです!

何卒!」


「くどい!」


ザバス

「うぐっ」


ルーシュ

「アキラ様、落ち着いてください。

威圧が漏れています。

それ以上は危険です。」


「すいません。

ちょっと神経質になってました。

ただ、もうすぐ子どもが産まれそうなんです。誰の依頼であっても、今ここを離れるつもりはありません。

ご理解をお願いします。」


ザバス

「そのような時に失礼致しました。

伯爵には事情を説明致します。

ただ、かなり急ぎの話だとのことです。

落ち着かれましたら、何卒お越しくださいませ。」


「すいません。」


ザバスさんが帰っていった。

残された僕たち。


カミラ

「アキラ様、少し落ち着きましょう。

椅子に座ってください。」


フィオ

「まずはこちらのハーブティーをお飲みください。少し気持ちが和らぎますよ。」


「ダメだね、落ち着かないと。

僕だけナーバスになってちゃダメだよね。」


ルーシュ

「まずはハーブティーと甘いお菓子。

それから深呼吸です。」


僕、ルーシュさんとカミラさん、フィオの4人で席に座って待つ。

気になって仕方ないけど、席を立たないようにたしなめられた。


パエルモ

「すまんな、こんな時に。」


赤ちゃんよりも先にパエルモ伯爵が来ちゃったよ。馬車から急ぎ降りてきたパエルモ伯爵。時間から考えて、大慌てで来たんだろうね。

こっちも大事件が発生しているのかな?

非常事態が重なってパニックだよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る