ロックの春

ある日の夕方。

ロックさんが女性を連れてやってきた。


ロックさんはコーラル商会の護衛チームの一員だ。気さくなお兄さんって感じの人で、パエルモにいる時は時々ご飯を食べに来てくれたりしていた。


ロック

「よっ、今いいか?」


「もちろん、大丈夫ですよ。」


僕はちらりと女性を見る。


ロック

「まぁ、気になるわな。

こちらはクリス。

俺の結婚相手だ。」


自慢気ににっこり笑うロックさん。


「えっ!?

ついに結婚ですか!

おめでとうございます。

でも、クリスさんってけっこう若いですよね?」


ロック

「俺より11歳、下だな。」


「どこで騙したんですか?」


ロック

「コラコラ、人聞きの悪いことを言うな。

騙してなんかいないからな。

なぁ。」


クリス

「ロックさんにはとても親切にして頂いて。

それで、この人に一生ついていこうって。」


「うぉ、のろけられた!

でも、おめでとうございます。

まぁ、座ってなれそめでも聞かせてくださいよ。」



このクリスさん。

元々、バレティア近くの農村で産まれたらしい。そして、ある程度の年齢になった時にバレティアの商人に売られたらしい。


これは田舎だとよくある話だそうだ。

で、売られた先の商人も決して悪い人ではなく、5年間住み込みで働けば、その後、継続しても、出ていってもいいと言ってもらったらしい。


そこでクリスさんは憧れていた冒険者になることにした。たまたま戦闘職だったことも大きかったらしい。

ただ、バレティアは冒険者の仕事がない。

バレティアはゴーレムに挑む冒険者ぐらいしかいない街だ。


ダンジョンのあるヒルギスではなく、初心者でも最低限の仕事は確保しやすいパエルモに来た。

そして、新人冒険者向けの研修に申し込み、指導してくれたのが、ロックさんだった。

という出会いだった。


ロックさんはたまたま数日仕事が空いたので小遣い稼ぎにギルドの仕事を受けたらしい。


ロックさんは面倒見が良いからね。

それでクリスさんはコロッといっちゃったみたい。



ロック

「それで、今度、結婚報告の宴会をするんだが、参加してくれないか?」


「もちろん、喜んで。

って言うか、宴会なら料理はうちで出そうか?」


ロック

「すまん。

金が足らんのだ。

新婚生活はなにかと出費が多くてな。

アキラに料理を頼むだけの金がないんだ。

だから、宴会と言ってもコーラル商会のメンバー中心に会長に使用を許可してもらった倉庫で、みんなで食べ物と酒を適当に持ち寄って騒ぐだけなんだ。」


「そういう感じね。

じゃあ、僕も料理とお酒を持っていくよ。

多めにね。」


この世界では、庶民は結婚式を開かない。

基本的には周囲に報告して終わり。

ロックさんのように宴会を開くのもお金に余裕がある人だけなのだ。



ロック

「そう言えば、マユラさんも妊娠したらしいな。」


「そうなんだ。」


ロック

「おめでとう。

良かったじゃねぇか。

でも、妊娠してたら酒を飲めないな。

誘うかと思ってたんだが、酒を我慢している人間を宴会に呼ぶのは申し訳ないからな。

宜しく言っといてくれよ。」


「わかりました。」


ロック

「アイラさんはどうなんだ?

前に会った時はかなりお腹が大きくなっていたけど。」


「もう、いつ陣痛が始まってもおかしくない感じなんだ。

だから、タイミング次第では行けなくなるから、その時は誰かに料理とお酒だけ持って行かせるね。」


ロック

「そんなのは気にしなくていいよ。

アイラさんについててやんな。

アキラがいれば頼もしいだろうから。」


「モンスター相手なら全然平気なんだけど、今はアイラさんがちょっとしんどそうにしているだけでオドオドしちゃうよ。」


ロック

「俺も未経験だからアドバイスはしてやれないけど。元気な子どもが産まれることを祈ってるよ。」


「ありがとうございます。

たぶん1週間以内には産まれそうって言われたんだけど、初産だから、予定よりも遅れるかもって。」


ロック

「楽しみだな。

まぁ、俺たちの結婚報告会はまだ先だから、落ち着いてたら来てくれよ。」


「わかりました。」

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