調停案

アーサーさんと僕は部屋に入り、

誰も出入り出来ないように衛兵が立った。

アーサーさんが滞在中使用している部屋だ。


「大丈夫なんですか?

調停案を作るなんて、出来るんですか?」


アーサー

「問題ない。

と言うか、カルマール王は最初から、私に調停案を発表させるつもりだったんだ。

どうしても両国の利益が対立する。

新生ドバン王国側の提案をドバン帝国側が易々と了承するはずがない。

そこで、議論が停滞した時に私に調停案を出させて、それを妥協点にしようという算段だったんだ。

本当はもう少し議論を長引かせるつもりだったんだろうが、劇的な出来事があったから、それをきっかけにしたんだろう。」


「じゃあ、

調停案は事前に作ってあるってこと?」


アーサー

「なんのためにカルマール王が単身で、ここに来たと思っているんだ。

秘密裏に私に調停案を渡すためだったんだ。

後は、ここで時間を潰して、

さも、私が考えたように提出するだけだ。」


「カルマール王って頭良いんだね。

でも、

ドバン帝国側に不利益になり過ぎない?」


アーサー

「いや、許容範囲だな。

カルマール王は上手いよ。

ちゃんと新生ドバン側も譲歩するところは譲歩している。

多少、新生ドバン側が有利だが、目くじらを立てるほどではない。

絶妙なラインだな。」


「じゃあ、アーサーさんはただのお飾りってことだね。」


アーサー

「言い方にトゲがあるな。

だが、内容よりも誰が言ったのか、

それが大切な場合もある。」


「なるほどね。

じゃあ、これで丸くおさまる訳だ。」


アーサー

「いや、問題はある。」


「え? 何?」


アーサー

「うちの国内だ。

陛下が何度も調停案を出して却下されていただろ。」


「空回りしてたね。」


アーサー

「そう言うな。

国際舞台で実績を作りたかったんだ。

気持ちはわかる。

だが、うまくいかなかった。

そんな時に私が案を出して、それがスムーズに通ると、陛下の立場がない。

だからと言って、今度の調停案を陛下から発表させる訳にはいかない。

何度も却下されたせいで、陛下が案を提出したら重みがなくなる。」


「じゃあ、

調停案に反対してくるってこと?」


アーサー

「それはない。

議長だからな。

少なくとも停戦協議をとりまとめたという実績は残る。

反対して、議論がまとまらず、戦争再開なんてことになれば、議長である陛下の評価は大きく落ちてしまう。

それは避けたいはずだ。」


「なるほどね~。

政治って難しいね。」


アーサー

「アキラは気楽だな。」


「僕はただの定食屋の店主だよ。

難しい政治問題に首を突っ込む訳ないでしょ。」


アーサー

「私も本来、そういうスタンスだったんだけどな。いつの間にか、こんなことになってしまったよ。」


そんな会話をしていると、部屋の外がうるさくなってきた。


ちなみに、部屋の声は外に洩れないように僕が結界を張っているので、どんな会話をしても心配なしです。


エドワルド

「私はリズムリア王国の国王、エドワルドだぞ。そこを通せ!」


衛兵

「申し訳ございません。

何者も通すな、と陛下よりのご命令です。」


エドワルド

「ふざけるな。

私が私の家臣に会うのを邪魔するな。」


衛兵

「申し訳ございません。

ここは新生ドバン王国の王宮です。

カルマール陛下のご指示にお従いください。」


エドワルド

「ならば力ずくで通らせてもらおう。」


リズムリア王国側近

「な、なりません!

さすがに停戦協議の最中に議長である陛下が暴力行為を行ったとなれば、国際的な信用を失います。」


エドワルド

「くっ。」


アーサー

「私は国に帰られるのか?

これからが不安で仕方ないんだが、、、」


「頑張ってください。」


アーサー

「他人事だな~。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る