パーティーが苦手な商人

僕が逃げ出すことを決めて動き出そうとした時、不意に声をかけられた。


カミラ

「アキラ様、

申し訳ございませんでした。」


「え?」


カミラ

「今までお会いした商人の方はパーティーの参加を喜んでらしたので、アキラ様にも喜んで頂けると思ったのですが、こういった場はお嫌いなようですね。」


「すいません。

あまり、知らない人と話をするのは得意じゃなくて。」


カミラ

「では、一緒に抜け出しましょう♪」


イタズラっぽい笑顔は魅力的だった。


会場から庭に向けて歩き出す。

庭も手入れされていて美しいが誰もいない。


「でも、主役が抜けたらまずいんじゃないですか?」


カミラ

「大丈夫ですよ。

主役は父です。

私の誕生日はパーティーの口実です。

誰も私の誕生日を祝うつもりなんてないですから。」


「そうなんですか、、、

貴族って大変ですね。」


カミラ

「そうですか?

生まれてからずっとですから、何も感じないですね。

商人の世界も厳しいのでは?」


「厳しいらしいですけど、、、

僕は運良くいい人に囲まれているから、それほど苦労はなかったですよ。

あっ、

そうだ。

プレゼントをお渡ししてもよろしいですか?」


カミラ

「まぁ、プレゼントを用意してくださったのですか。

有難うございます。

もちろん有りがたく頂戴致します。」


僕は果物の宝石箱を差し出す。


カミラ

「まぁ、有難うございます。

開けてもよろしいですか?」


「もちろん。」


宝石箱を開けると、


カミラ

「まぁ!?

なんて美しいの!

信じられないわ!

こちら、すべてフルーツで出来ているのですか?」


「そうです。

生のフルーツですので、傷む前に食べてくださいね。」


カミラ

「こんな芸術品のようなデザートは初めてです。崩すのがもったいないわ。」


「でも、せっかくなので美味しい間にお召し上がりくださいね。」


カミラ

「わかりました。

さすが飲食が本職ですね。

デザート1つでこれほどの驚きと感動を生み出すのですから。」


「そこまで褒められると恐縮してしまいます。」


カミラ

「専門家のアキラ様から見て、我が家のパーティー料理はいかがでしたか?」


「とても豪華で美味しかったですよ。

ただ、、、」


カミラ

「ただ、なんでしょう?」


「温度と提供時間はもう少し工夫してもいいかな、って思います。

工夫の方向が『冷めても美味しい』だけなんです。『温かくする』とか『冷めにくくする』とか、そういう工夫もあると、もっと美味しくなると思います。」


カミラ

「でも立食パーティーの料理って、そういうものなのでは?」


「そうでもないですよ。

その固定観念を捨てて、色々試すと出来ることはありますよ。

1品、2品でも温かい料理や冷たい料理があると全体のバランスが良くなりますよ。」


カミラ

「どんな工夫が出来るんですか?」


「それは教えられないですね。

本人が創意工夫するしかないですよ。」


カミラ

「なるほど、おっしゃる通りですね。

勉強になりました。

アキラ様も本職の料理の話になると、よくしゃべられるんですね。」


「あ、す、すいません。」


カミラ

「申し訳ございません。

悪い意味ではございません。

ご自分のフィールドの話をイキイキとされるお姿はとても素晴らしいと思いますよ。」


真っ正面から褒められると照れちゃうね。

その後も2人で話をした。


カミラ様は会話が上手い。

僕が話しやすい話題を選んでくれる。

まぁ、そうなると料理とか食材の話がメインになるんだけどね。


誕生日パーティーで本人が会場を抜け出して、庭で魚の捌き方や傷みやすい魚介類の扱い方の話なんかをしているのは異常事態だと思う。

でも、調子に乗ってしゃべっちゃいました。

相づちや質問が上手だと、ついついしゃべり過ぎてしまうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る