石川舞

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今回は石川舞視点です。

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少し時間を遡る。


私は魔拳士という職業だった。

拳に火属性とか、雷属性とか、そういう魔力を纏わせて攻撃する上級職だ。


他のクラスメートと同じように奴隷として売られた。

そして、、、出遅れた。

私の攻撃手段は拳。

モンスターを殴らなければならない。

そんなこと普通の女子高生には無理でしょ。

私は職業は悪くないけど、実際には戦闘に使えないし、レベルも上げられない。


結果としてすぐに転売された。

何度かの転売を繰り返して、私も戦えるようになった。

戦わないとご飯を食べさせてもらえない、なんてこともあったからね。


そして、アカツキ王国に流れついた。

悪くない国だった。

食事とかの味付けが元の世界に近かった。

カネキ屋の店主は強欲だけど、無駄なことはしない男だった。

奴隷にも必要な食事や最低限の環境は用意してくれた。

それは優しさではなく、奴隷の価値を下げないためという損得勘定だ。




そんなある日。

急に店主から呼ばれた。

荷物をすべてまとめろ、という指示だ。

この指示は『売られた』という合図だ。

まぁ、奴隷に時間をかけてまとめるほどの荷物はない。

すぐに動ける。


連れていかれた場所には意外な顔があった。


マイ

「北条くん!?」


マサキ

「石川さん。」


確かに街中でそれっぽい顔を見かけたことはあった。たぶん北条くんだと思っていた。


マイ

「どうして、、、」


トードー

「細かい話は店を出てからにしましょう。」


アキラ

「そうですね。」


北条くんと一緒に参加のは、、、

確かクラスメートだったと思う。

あんまり接点がなかったから、名前はすぐに出てこないけど。


店の外に出ると、


トードー

「それでは、私はここで失礼致します。」


アキラ

「トードーさん、

ありがとうございました。」


トードーと呼ばれた男が去っていった。


アキラ

「マサキ、

これからどうする?」


マサキ

「まずは石川さんと落ち着いて話をしようと思う。」


マイ

「出来れば状況を説明してほしいんだけど。」


アキラ

「じゃあ、うちの店を使いなよ。

営業時間は終わっているはずだし。」


マサキ

「アキラ、いいのか?

助かる。」


うちの店?

どういうこと?


連れてこられたのは満面亭。

大人気のラーメン屋だ。

デジーマにいれば誰でも知っている。

もちろん、奴隷の私が食べられるはずはないから、食べたことはない。


ドアには『準備中』とかかっているが、

アキラがドアを開けて入っていく。

店内には数名の客。

たぶん最後の客なんだろう。


店員

「あれ、アキラ様、

どうしたんですか?」


アキラ

「ごめん、ちょっとテーブル借りたいんだけど、いいかな?」


店員

「もちろん、大丈夫ですよ。

そちらの席をどうぞ。」


キュ~~~


マイ

「あっ」


お腹が鳴ってしまった。

北条くんの前で。

恥ずかしい!


アキラ

「ラーメン食べる?

今回は2人とも無料にしとくよ。」


マイ

「いいの!?」


マサキ

「何から何まですまない。」


アキラ

「チーランさん、

何か用意出来ますか?」


チーラン

「醤油ラーメンならスープがまだあるよ。」


アキラ

「じゃあ3人前で。」


しばらく待つと、


良い香り!

最高!

こんなに美味しいラーメンが食べられるなんて!

熱々のラーメンを一心不乱に食べ続けた。

知らない間に涙が流れてきた。


泣きながら食べたラーメンの味は人生最高の味だったと思う。


食べ終わったところで北条くんが状況説明をしてくれた。

なんか昔とは雰囲気がかなり変わっている。

某アイドル事務所にいそうなキラキラオーラはなくなって、本格派俳優のような感じ。

少し陰もあって、それはそれでカッコいい。


そして、名字ではなく、この世界風に、「マサキ」、「マイ」と呼び合うことになった。


さっきまで奴隷として、なんの変化もない毎日を送っていたのに、いきなり世界が動き出した。マサキの訪問は私の人生を大きく動かす出来事だったんだと思う。

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