違和感

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勇者マサキ視点です

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違和感は日に日に強くなっていく。

勇者としてレベルを上げてから、直感が鋭くなっている気がしている。

勇者のスキルに『危険察知』というものがあるから、その影響かもしれない。


少し気持ちが落ち着いてきたのもある。

違和感の正体を突き止めてみよう、そんな気持ちにようやくなれた。


みんなのことを観察する。

拠点の中を見て回る。


すぐに違和感の正体がわかった。

もはや隠すつもりもあまり無いのかもしれない。



平田だ。

彼が特別待遇過ぎるのだ。

彼の職業は『呪術士』。


みんなが着けている奴隷の腕輪。

これを着けられると奴隷の所有者からの命令に逆らえなくなる。

だが、平田が奴隷の腕輪の命令を書き換えることで、みんなは自由に行動できるようになった。

そう聞いていた。


だけど、違う!

全然自由になっていない。

平田の命令に逆らえなくなっているんだ。

しかも、そのことに疑問すら持てないようにされているんだ。


一見すると、チームのリーダーは百田先生であり、みんながその指示に従っているように見える。

でも実際は平田だけは何の命令も受けていない。いや、百田先生の指示に見えて、裏で平田君が指示を出しているのかもしれない。


カナが奴隷の腕輪を着けてからはどんどんあからさまになっている。

もはや俺以外は全員奴隷なんだ。

隠す必要もないってことだろう。



何故、俺は奴隷の腕輪を着けられていないんだ・・・?


カナのおかげだ。

俺が意識を失っている間、ずっと付き添ってくれていたらしい。

だから平田は俺に奴隷の腕輪を着けられなかったんだ。

全部カナのおかげだ。


その後も、早朝や夜遅くに何度か平田は俺の部屋を訪ねて来た。

今思えば不自然だった。

普通なら寝ている時間だ。

俺も寝ていた。

ただ、妙な感覚があった。

危険察知のスキルのおかげかもしれない。

だから目が覚めたんだ。


最近は平田は俺に関わってこない。

不甲斐ない俺を見て、奴隷にしなくても大丈夫だと思ったのかもしれない。

情けない。。。


どうすればいい?

もちろん助けるべきだ。

でもどうやって?

説得?

・・・くだらない。

絶対無意味だ。


平田を殺すのか?

武器をまともに持てない俺が?

どうやって?


ここにいるのは平田の奴隷ばかり。

俺が平田を殺そうとすれば、全員敵になる。


いや、

そもそも俺が平田のやっていることに気付いていることがバレたら、俺も奴隷の腕輪を着けられるだろう。

最悪殺されるかもしれない。


怖い。

まわりにはクラスメートたちがいる。

でも孤独だ。

全員が平田の手先になっている。

本人も気付いていないんだろう。


観察していてわかったことがある。

元々、奴隷の腕輪は行動を強制する道具だ。

でも平田は思考を強制しているみたいだ。

痛みや苦痛で無理矢理強制するのではない。

まるで自分の考えのように、まるでそれが当たり前のように、奴隷の腕輪を着けた人の思考を誘導している。だから、誰も行動を強制されている感覚がないんだろう。


だから、当然、説得もムダだ。

そんなことをすれば、俺が気付いたことがバレてしまう。


どうすればいいか、わからないまま、悶々とした日を過ごしている。


ある夜。

ドアの隙間から見てしまった。

平田が女の子たちといやらしい行為をしているのを。

彼女たちに対して好き放題に王様のように振る舞い、奉仕をさせる平田。


カナまで!?


平田

「おいおい、のぞき見か?」


平田がドアの隙間を見ながら、ニヤリと笑った。


バレている!?


マサキ

「あ、あ~、あ~、、、」


パニックだった。

訳もわからず叫びながら走り出した。

ただ走って、走って、走って、、、


気がついた時には森の中にいた。

パジャマだけ。

何も持っていない。

裸足だ。

ボロボロだった。


もう戻ることも出来ない。

行く宛もない。

もう俺には何も無い。。。

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