ブラックキャットのテオ
ある日、ディオンさんから食事に誘われた。
ディオンさんはBランクの冒険者で『翼竜の一刺』のリーダーだ。
たまにランチを食べに店には顔を出してくれるけど、食事に誘われるのは珍しい。
何か話があるのかな?
誘われたのは少し高めの居酒屋。
高級店と言うほどじゃないよ。
誘われたお店に行くと、既にディオンさんが待っていた。
そしてディオンさん以外に2人。
ロイズ
「お久しぶりです。」
僕
「ロイズさん。
お久しぶりです。
相変わらず忙しそうですね。」
ロイズさんはパエルモの冒険者ギルドのギルドマスター。とにかく仕事が忙しい人だ。
ロイズ
「ギルドは慢性的に人手不足ですからね。」
ディオン
「こっちは、はじめましてだろ。
Cランク冒険者パーティー『ブラックキャット』のリーダーやってるテオだ。」
テオ
「ブラックキャットのテオです。
よろしく。」
体格が良くて、短髪の頼れるお兄さんって感じ。ディオンさんに比べるとかなり若い。もちろん僕よりは年上だけど。
僕
「よろしくお願いします。」
初対面の人にはちょっと緊張してしまう。
ディオン
「こっちはアキラだ。
満腹亭って定食屋知ってるか?」
テオ
「ええ。
評判のお店ですよね。
まだ食べに行ったことはないですけど。」
ディオン
「アキラはそこのオーナーだ。」
テオ
「へぇ~、
その若さでオーナーか~、
すごいね。」
面と向かって誉められると照れくさいね。
僕
「ありがとうございます。
ぜひ食べに来てください。」
テオ
「ええ、ぜひ。
でもディオンさんとギルドマスターがそろって、俺たちを引き合わせた理由はなんですか?
ただただ美味しい定食屋を紹介するのが目的ってことはないでしょ。」
ディオン
「そうだな。
だが、その説明の前にアキラに状況を説明しとかないといけないな。
テオは今、俺のところに弟子入りしているんだ。」
僕
「えっと、、、
ワイバーン狩りを教えているってことですか?」
ディオン
「そうだ。
実はそろそろ俺たち『翼竜の一刺』も冒険者を引退しようかと考えているんだ。」
僕
「えっ!?
引退しちゃうんですか?」
ディオン
「現役冒険者としては俺たちはかなり高齢だぞ。冒険者は歳取ってまで続ける仕事じゃねぇよ。冒険者を辞めて、商人のお抱え護衛とか、街の衛兵や自警団、になるってのもあるな。」
僕
「ディオンさんはどうするんですか?」
ロイズ
「彼にはギルド職員として働いてもらいたいと考えています。」
ディオン
「そうなんだ。
ロイズさんから声をかけてもらってな。
有難い話なんで受けさせてもらったよ。」
僕
「ギルド職員になるってどんな感じなの?」
ディオン
「冒険者としては大成功の部類だな。
直接戦闘をすることはないから、商人の護衛なんかよりも安全で長く続けられる。」
ロイズ
「ディオンさんはパエルモの冒険者たちの間でも有名で人望がありますからね。ギルド職員になれば冒険者たちも言うことをよく聞くでしょう。」
僕
「おめでとうございます。
じゃあ、ディオンさんたちの後任がテオさんってこと?」
ディオン
「その通りだ。
安定してワイバーンを狩れるようになるまで育てるつもりだ。それが終われば、晴れて俺も引退だ。」
僕
「でも後任の育成までしてから辞めるなんて、ディオンさんも面倒見が良いですね。」
ディオン
「いやいや、どちらかと言うとロイズさんの策略って感じだな。
ギルド職員として雇う条件が後任の育成だったんだ。」
ロイズ
「人聞きが悪いですね。
ただ、『翼竜の一刺』が急に抜けるとパエルモ支部の損失が大き過ぎるので、必要な手を打ったまでです。
『翼竜の一刺』が狩るワイバーンの素材はパエルモの名産品となっていました。それに慢性的に高ランク冒険者が不足しているパエルモでディオンさんたちに抜けられると、大きな問題が発生した時に頼れる人がいなくなりますからね。
なので、テオさんをBランク相当まで鍛えてもらってから、ギルド職員として働いて頂くことをお願いしたまでです。」
僕
「なるほど。
テオさんも大変ですね。」
テオ
「大変は大変だけど、
非常に有難い話だよ。
Bランクパーティーから指導を受けながら、絶好の狩場を譲ってもらえる。
こんなチャンス、まずないからね。」
僕
「そうなんだ。」
テオ
「それに、そろそろ俺たちもどこかの街に根を下ろそうって話をしていたところなんだ。
結婚するメンバーもいて、定住を考えていたところだから、本当に良い話を頂いたよ。」
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