意外な相談者

ある日の午後。

営業時間を終えて、片付けをしているとイリーナさんとヒメレスさんのご夫婦がやってきた。


イリーナ

「こんにちは、今少しだけいいかしら?」


「もちろん。

こちらへどうぞ。」


イリーナ・ヒメレス

「「失礼します。」」


店内の空いているテーブルに案内する。


「今日はどうされたんですか?」


ヒメレス

「以前ご依頼を頂いた杵と臼の件でご相談がございまして。」


「何かあったんですか?」


ヒメレス

「お預かりした木材が硬くて、刃が負けてしまうんです。のみも刃が欠けてしまいまして。残念ながら私には加工出来ませんでした。」


「それなら、新しい仕事道具を作りませんか。あの木材に負けない素材を用意しますよ。ガンズさんなら作ってくれるかな~。」


イリーナ

「ベルン王国のガンズ氏に依頼するつもりですか!?」


「そうだよ。

僕の知り合いの中だと一番刃物作るの上手だし。」


頭を抱えるイリーナ。


ヒメレス

「有名な方なのか?」


イリーナ

「世界的に有名な武器職人よ。

その武器を手に入れたい人間は山のようにいるわ。」


ヒメレス

「やめた方がいいのかな?」


「でも、そこら辺にいる武器職人じゃオリハルコンの加工は無理だし。」


イリーナ

「オリハルコンでのみを作るつもりなの!?」


ヒメレス

「オリハルコン?」


普通の人はオリハルコンなんて知らない。


イリーナ

「伝説的な武器、神話に出てくるような武器に使われる素材よ。オリハルコンなんてめったに出回らないし、発見されれば間違いなく国宝級の扱いになるわ。」


ヒメレス

「なっ!?」


「大丈夫だって。

オリハルコンは前にもガンズさんに渡したし。ガンズさんなら加工出来るよ。

今度ヒメレスさんを連れて行っていい?」


イリーナ

「・・・もう好きにして。」


何かを諦めたみたい。


「のみだけじゃ仕上げられないだろうから、道具一式持っていこう。

それでガンズさんに仕上げてもらおうよ。」


ヒメレス

「わかりました?」


なんかヒメレスさんも疑問形になってる。



そんな話をしていると、

「失礼致します。

宜しいかしら?」


女性の声。

入口を見ると2人いた。

タチアナ様とザバスさんだ。


タチアナ様はパエルモ伯爵の長女だ。

そしてザバスさんはパエルモ伯爵に仕える執事。そんな2人がいきなりお店にやってきた。どうしたんだろう?


「お店の営業時間は終わりましたけど?」


タチアナ

「今日は食事ではございません。

アキラ様に相談したいことがございまして。」


「では、そちらの席へどうぞ。」


イリーナ

「じゃあ、私たちは失礼しますね。

スケジュールはまた今度打合せしましょう。」


ヒメレス

「すいません。

宜しくお願いします。」


イリーナさんとヒメレスさんはそそくさと帰っていった。さすがに領主様の娘を待たせる訳にはいかないもんね。ヒメレスさんのスケジュールは後で調整しよう。



タチアナ様とザバスさんが待っている。

タチアナ様は座って、ザバスさんは斜め後ろに立っている。


「すいません。お待たせしてしまって。」


タチアナ

「いえ、アポイントも無しに伺ったのですから当然です。先ほどのお2人にも気を使わせてしまいましたね。」


「大丈夫ですよ。

ご近所さんなんでいつでも会えますから。

それで今日はどうされたんですか?」


タチアナ

「折り入ってアキラ様に相談したいことがございます。

聞いて頂けますか?」


「聞くだけなら。」


ザバスさんが少し嫌そうな顔をした。

仕方ないじゃん。

用件もわからないのに安請け合いは出来ないよ。


タチアナ

「実は孤児についてです。

現在、パエルモを含め、大都市には孤児院がございます。孤児院は領主や有志による寄付によって運営されています。

パエルモは他の都市に比べて、食糧が豊かなので、孤児たちも比較的困窮せずに生活が送れています。

ですが他の都市は悲惨な状況にあるんです。

そこでなんとか出来ないかお父様に相談したのですが、他領に口出しは出来ないし、パエルモでも、孤児院を保護し過ぎて、あまり孤児が増え過ぎるのも困る。

どうにかしたいのなら、孤児たちが生活に困らなくなるシステムを考えよ、とお父様はおっしゃいました。

そのシステムが良く出来ていれば、それを広めることに協力することはやぶさかではない、とのことです。」


う~ん。

話が重い。

しかも何故僕に相談に来たのかわからない。

どういうことだろう?

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