牙の戦士

役人

「陛下。

ご自重くださいませ。」


ガウル

「ふん。

わかっておる。

半分冗談だ。」


・・・ってことは半分本気じゃん。


ガウル

「私との手合せは気が向いたらで良い。」


「わ、わかりました。」


なんか、これ以上ここにいると本気で戦わされそうなので、早々に屋敷を退散する。



まずは腹ごしらえかな。

その後、ダンジョンに行って、一度パエルモに帰ろう。ダンジョンマップでいつでも来られるようにしてから、モンスターたちと一緒にダンジョン攻略を楽しもう。


美味しそうなお店を探して入店。

パウロはダンジョンがあるため肉が豊富。

海に囲まれているから海産物もある。

更に農業も盛んらしく、野菜もある。

かなり食糧に恵まれた島だった。


入ったお店の名物はガオマンガイみたいな料理だった。鶏肉が柔らかく、その旨味が全体に広がっている。

追加で頼んだ料理は白身魚の素揚げに野菜たっぷりの甘辛いあんがかかっていた。ふんわりとした白身魚にトロッとしたあんがよく合う。


美味しい!

この島は当たりかもしれない。

やはり食糧が豊富な場所ほど、美味しい料理がある。食糧難の場所じゃあ、美味しさにこだわる余裕なんてないんだろうね。


そんなことを考えながらランチを満喫していると1人の男性が近付いてきた。

細身の羊っぽい獣人だ。

垂れた耳が不安げに動いている。


羊獣人

「お食事中に申し訳ございません。

少しだけ、少しだけでいいので、話を聞いて頂けませんか。」


「えっと、、、あなたは?」


羊獣人

「失礼しました。

先ほど王宮でお会いしましたテッドと申します。」


確かに役人っぽい雰囲気がする。

王様のインパクトが強くて他にいた役人の顔は全然覚えていない。


「すいません。覚えてなくて。」


テッド

「当然です。何人もいた役人の1人ですから、いちいち覚えられませんよ。」


「それで、どうしたんですか?」


僕がお願いした野菜や果物の種や苗を集める上で、何か問題でもあったのかと尋ねると、全然違う話だった。


テッド

「実は私の個人的なお願いなんです。

『牙の戦士』であるアキラ様のお力をお借りしたいのです!」



テッドさんは王宮に勤める役人。

そんなテッドさんがあのガウル国王の娘、キララさんと親しくなった。

そして結婚をしたいと申し出たところ、ガウル国王から、戦って勝てたら結婚を認めると言われたらしい。


テッドさんは非戦闘職。

レベルも低い。

ガウル国王は若い頃からダンジョンで鍛えた肉体派。普通に戦えば勝てるはずがない。

なのでテッドさんはダンジョンに入ってレベル上げを行いたいらしい。ただダンジョンで効率的にレベルを上げる為には上級者にサポートしてもらうのが定石だ。

しかし、この国の冒険者たちはガウル国王を恐れて、テッドさんの依頼を受けてくれないらしい。そこで島外から来た『牙の戦士』である僕に頼ってきた、とのことだった。



テッド

「陛下には悪意はないんです。

あの方は単純に強い男と娘を結婚させたいと考えてらっしゃるだけなのです。

キララ様は次女なので、キララ様と私が結婚しても政治的には大きな影響はありません。」


あのガウル国王なら、単純に戦いたいだけって気がする。深い考えはないだろうね。


「その依頼を受けても僕にメリットがありません。別にお金に困ってませんし。」


テッドさんの提示してきた金額は、ダンジョンでのレベル上げのサポートとしてはかなり高額だ。普通の冒険者なら割の良い仕事になると思う。

でも僕にはあまり魅力がない。

ダンジョンの奥深くに行けば、いくらでも稼げるからね。


テッド

「そんな、、、

それではお金以外に欲しい物はございませんか?種や苗をご所望でしたよね。他にあれば用意致します。」


「この島の料理人が料理しているところを見せてもらって、質問とかも出来ると嬉しいんだけど。それも何人か。」


テッド

「えっ? そんなことでいいんですか?」


「お金は自分で稼げるけど、この島に知り合いなんていないし、初めて入ったお店で厨房見せてなんて頼んでも断られるでしょ。」


テッド

「なるほど。

王宮の料理人は友人ですので可能だと思います。他にも2~3軒なら頼めると思いますよ。」


「それなら、種や苗が準備出来るまでの間、そうですね、、、5日間ダンジョンに一緒に入りましょう。

明日の朝から入るので、泊まり込みで入れる準備をしてきてください。

お礼の厨房見学は私と私の仲間、数人で、日程は後日、希望日をお伝えします。」


テッド

「ありがとうございます。

よろしくお願い致します。」


深々と頭を下げるテッドさん。

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