雨と海。

A7

貴方が、散った。

好きってなんだっけ、

なんで愛したっけ。


机に挿さる花を見てふと思った。

なんで買ったっけ。


危急、雨足。

側溝に投げ捨てた。

それでも家は嫌だった。


何かがほんの髪を揺らす気がして。

流れるそれを追っていった、

車が過ぎ去って、潮のツンとしたのが鼻を刺して、

赤い傘、78億の花弁のひとつを赤に染めて。


カラカラなる自転車

水を飛ばす自動車

唸る暗転の照明


僕が捨てたそれは。

海に流れた。

暫く立ち尽くしていた。

君をも捨てたら、君はここに行き着くのか


広い海で低迷するのだ。

海から上がれず、もがくほど沈むのか。


海に走った、それを持って、ちぎった。

ばらばらにして、足を濡らして、持ち帰った。


道路に滴る後悔と歩いた。


鍵がかかっていない家に帰って、

机の水の中にちぎれたそれを浮かべる。


思い出した。

たたきに並ぶ白い靴、


捨てられなかったんだ

捨てたくなかったんだ


「久しぶり。」なんて言った君の声。


体の奥で何かが動いた、鳴っている

乾き始めた足の水と、目のその下を濡らした。


「ごめん。」

言葉が滑った。

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雨と海。 A7 @a2u

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