俺、魔王。今、召喚されてきた前世の親友と配下たちが修羅場ってるの。

いももち

俺、魔王。今、召喚されてきた前世の親友と配下たちが修羅場ってるの。

 俺は魔王である。

 前世は地球という星の日本という国に住む、高校デビュー二ヶ月目のピッチピチのライトなオタク男子高校生だった。



 しかし、前世の幼馴染であり親友であった「お前どこのラノベ主人公?」みたいなハイスペックイケメンと共に、モンスター捕まえて旅するゲーム買いに行く途中でトラックが突っ込んできてお陀仏になっちゃったの。

 で、気がつくとなんか魔王になってた。何を言っているか分からないと思うが、安心してほしい。俺が一番分からない……。



 死んじゃったやと思ったら、禍々しい雰囲気漂う玉座に目が潰れんばかりの美形たちに囲まれながら、ぽつんと座っていた時の恐怖。

 あれはマジで心に残るトラウマ。



 いや、一番ひでぇトラウマを抱えたのは前世の親友だとは思うけど。

 だって俺目の前で死んじまったし。



 土下座して謝りたいけど、前世の世界に魔王になっちまった俺が戻れるわけもない。

 なので、毎日心の中で親友に「許せ親友。前世に残してきた俺のギャルゲーアンド乙女ゲーコレクションやるから」と、謝罪の念を送る日々である。



 あとあわよくば、ギャルゲーとか乙女ゲーで少しは乙女心を察せれるようになって、現実の恋愛模様が充実すればいいなと思っている。

 アイツにアピってる美少女たちたくさんいたからね。全力でアピってるのに全然気がついてもらえなくて、とっても落ち込んでたからね。

 なるほどあれが鈍感系主人公。



 皆して死んだ俺の分まで青春しろよ。アオハルだアオハル。



 好きな奴できたーって、もだもだする親友の背中はもう押したくても押してやれねーし、恋の相談も聞いてやれねーのも、甘酸っぱい話を聞いてニヤニヤ笑えないのもとっても心残り。

 だからせめて楽しくアオハルやっててほしい。トラウマを忘れられるくらいに。

 おばさんとおじさんに孫抱かしてやれ。俺は親不孝過ぎる奴なので、抱かせてやれねーから代わりに頼んだわ。



 そんな感じで前世の親友のことを心配しつつも、転生しちまったもんはしゃーねーと魔王の仕事を頑張っていた。

 仕事って言っても、ひたすらに有能な魔王の配下たちを褒めて、ヨスヨスするだけだけど。



 いやぁ、ちょっとなにか言うだけで想像の三倍の成果出してくるの凄いよね。ほんと有能過ぎてこわい。

 しかもどいつもこいつも目が潰れんばかりのイケメンアンド美女だし?

 才色兼備って、アイツ等のためにある言葉だと思いました。



 ちなみに俺は異世界転生果たしたくせに、ごくごく平凡なフツメン。つまりは醤油顔。

 目の色が紅色になったのと、ちょっと顔立ちが外国人風になっただけで、ぶっちゃけあんまり前世と変わらない。

 だから、周りの顔面偏差値の高さ故にフツメンな俺は霞む。魔王なのにね。

 しかも、力は人間の頃とあんまし変わってねーんだぜ。

 ……泣けるぜ。



 そんな弱っちい魔王である俺に、どうしてこんなにも顔面偏差値高くて有能過ぎるイケメンアンド美女が付き従っているかというと、全ては彼等魔族の本能によるもの……らしい。



 なんでも魔族というのは、本能で自分たちの王たる魔王に尽くしたがるんだとか。

 たとえどれだけ無能で、脆弱で、愚かでも。

 魔王であるというだけで、命すら捧げてもいいと言えるくらいの敬愛と忠誠心を抱くんだそうな。



 なにその本能への刷り込みこわい。

 あと、どいつもこいつも反乱しようと思ったらあっさりできちゃうくらい、めっちゃ強いのもこわい。



 俺魔王になってもう数十年経ってるけど、うっかり配下の機嫌損ねて死なないよう常に気を張ってるわ。張りまくってるわ。

 だって俺の体の強さは、人間の頃とあんまし変わってねーからな! 寿命が人間だった頃より何十倍にも伸びただけで!



 魔法ある世界なのに、一応王様なのに、全然まったく強くないからな!

 魔法は補助系はともかく、攻撃系の才能は皆無と言われた時のあの絶望感!!

 武の才能も同じレベルなのですよ奥さん!!



 おかげで城内であろうとどこであろうと、頼れるつよつよ配下たちの誰かが付き添ってないと、外出許可取れねーんだよなぁっ!! 最弱と名高い魔物であるゴブリンの一撃すら致命傷となりかねないから!!

 しかも寝る時も見目麗しき護衛がベッドの脇にいるという恐怖。暗闇の中だと綺麗な顔が逆にとても怖いのね。魔王、一つ賢くなった。

 でもね、お願いだから言わせて。



 寝る時ぐらい一人にしてちょうだい!  

 俺ベッドで寝るだけで死なないからほんと!! なんかの弾みに棚とかが倒れてこない限りは!!

 ぼくは死にましぇーん!!



 もちろん、どれだけ訴えても「危険なのでダメです」と、聞き入れてなんてくれんかったが。

 しかもその時のこちらに向けてくる眼差しがね、「ひとりでねれるもん!」と、第一次反抗期迎えた幼児に向けるような感じの、すっげえ生温かいやつでね……。



 ……あれ? 俺って実は体は十五、六歳くらい、中身は永遠の五歳児だった……??



 とまあ、そんな感じでわちゃわちゃしながら元気に魔王として生きていたある日のことである。



 今日も今日とて、目覚めたら真正面にキラッキラした美女の真顔に恐怖を覚えつつ、パパッと着替えて定位置である謁見の間の玉座に腰掛けた時だった。

 転生した時からの付き合いである右腕であり、魔王城で宰相を務める配下がすすっと音も無く近づいてきた。

 そして相変わらずの無表情で、開口一番衝撃的なことを言われた。



「魔王様、人間の国で勇者召喚が行われました」

「は?」

「一応使者である使い魔を送りましたが、言葉での交渉は不可能でした」

「は?」

「あと二週間ほどでこちらに攻めてくるようです」

「は??」

「ですがご安心ください魔王様。この魔王城にも、そして魔王様にも、愚かで穢らわしい人間共は決して近づけませんので。勇者もそれに付き従う人間共も見つけ次第駆除いたします」

「うん。お前等がいつも通りに冷静に殺る気スイッチ押してることに安心したけどとりあえずちょっと今から叫んでいい?」

「どうぞ」



 色々情報がたくさん出てきてもう俺の頭じゃキャパオーバーだけど、許可貰ったしこれだけは叫ばせてくれ。



「三十五年前に結んだ『不可侵条約』はどこに家出したんだよぉぉぉぉぉぉ!?」

「人間たちは愚かな上に寿命が短いですからね。それに人間同士で何度か戦争していたようですから、その時の戦火で色々と失伝してしまったようですね。当時の友好国は全て他国に吸収されるか、滅ぼされてしまいましたし」

「嘘やん!! てか、戦争とか友好国の件まったく知らなかったんですけど!?」

「魔王様に余計な心労を背負わしたくありませんでしたので」

「嘘つけお前等は単に俺が人間と仲良くするのが気に食わないだけでしょ!」

「流石魔王様。おっしゃる通りでございます」

「あっさり肯定してくれてんじゃねーよ。お前等からの愛が重くてこわい」



 半分冗談で言ってみたことが当たっちまったよこわい。

 前世の親友並みの重さ。ほんとこわい。



 いや、そんなことより勇者攻めてくるとか一体どうしたら……!



 確かにうちの配下たちは事務面だけでなく、戦闘面でも超有能だし、そんじょそこらの魔物や人外に片足どころか全身ドボンしちまってる奴等にも負けはしないけどさぁ。

 数の不利有利とかもこいつ等からしたらあってないようなもんだけどさぁ。



「元人間としては、人間とのドンバチとか回避してぇんだよな……」



 けどそれは、うちの有能な配下たちには一切関係が無いこと。

 つーか、こいつ等からすれば毎度大事な大事な魔王様を殺しに来る人間たちは心底憎いだろう。



 俺の前の魔王たちは、大体人間たちの手で殺されたそうだし。自業自得な面もあるけど。



 ……前の魔王たち、才色兼備な配下たちに尽くされまくって、何をしても何を言っても許される状態だったから、世界が自分中心に回ってるみたいな考え方してたんだよなぁ。

 それで人間たちのいるとこに欲しいものあるからとか、気に入ったおもちゃがあるからとかそういう理由で、戦争ふっかけまくっていたらしい。

 これが蝶よ花よと甘やかされまくって育った、我儘ボーイまたはガールの見本市がやらかしてきた黒歴史。

 もちろん魔王様大好きマンアンドウーマンたちが止めるわけもなかったので、実態は悪化の一途を辿るしかなかった。



 そうして横暴やりまくった結果、「魔王とその配下たちは人間の敵!」という認識が人間側で広まってしまったのだった。



 んー、ほんとどこまでも自業自得。

 これをどうにかこうにか挽回しようとして頑張ったけど、全て水の泡になってしまった悲しみ。

 そして殺意が高い配下たち。しかも殺る気スイッチオン済み。

 控えめに言ってもやべえ。



「どうすっかなー。ほんとドンパチだけは嫌なんだけど」

「もう一度和平交渉を行いますか?」

「和平交渉かぁ……」



 でも使い魔送ってダメだったんだ……ろ……?



「なあ、使い魔使って人間側になんて言ったんだ?」

「偉大なる魔王様に従うのならば、命だけは取らないでやると」



 その言葉を前の魔王たちの悪行によって、だいぶ曲解した受け取られた方したとかそういう……??

 ……これが正解だろ絶対。



 くそぅ、恨むぞ俺の前の魔王たち!

 おかげで俺に全ての皺寄せが来てんじゃねーか!



 と、とにかくだ。

 なんとか和平交渉にもっていこう。話はそれからだ。

 異世界から召喚された勇者とかもう、魔王である俺の死亡フラグがビンビンしちゃってるし。

 俺弱いからな。超弱いからな。四天王の中でも最弱とか笑われるタイプの奴だからな。

 四天王じゃなくて魔王ですけど。



「宰相! 今から手紙書くから、それをもう一回使い魔出して勇者たちのいる所に――」

「魔王様。今衛兵から念話があり、勇者が今城の前にまでやって来たそうです」

「なんて??」



 え、勇者魔王城の前に来ちゃったの??

 あと二週間は余裕ある感じじゃなかったの??



 パッカーンと口を開けて唖然としていたら、凄い音を立てて謁見の間の重厚な扉が弾け飛んだ。

 次いで、転がるように謁見の間へと入ってくる筋肉ダルマ……ではなく、魔王城の警備隊長。



 彼はダイナミック入室を決め、俺の方までゴロンゴロンとローリングしてきて玉座の前でぴたりと停止し、ガバッと立ち上がってビシッと敬礼をした。



「ご報告いたします! 勇者が城内へ侵入いたしました! 部下たちが応戦しておりますが、足止めにすらなりません!」

「えっ」

「あと数十分もすれば謁見の間へと辿り着くでしょう! 魔王様、親衛隊を連れて今すぐお逃げください!!」

「え??」



 早過ぎる展開についていけない。



 まって、勇者城内に入っちゃったの?

 しかもこっちに来てんの?

 え、死ぬじゃん。これ俺死ぬやつじゃん。

 あと親衛隊ってなぁに? 俺そんなの知らない。誰がいつの間にそんなの作った。

 宰相か? それともダイナマイトボディが目を引く色気たっぷりな文官長様か? もしくは小悪魔悪戯っ子双子の兄妹財務官長たちか?



 大混乱して固まる俺を「失礼します」とプリンセスホールドをしてくれる宰相。

 あれ、もしかしてお前が親衛隊のメンバーだったりする?



 俺の疑問を感じ取ったらしい宰相は、普段通りの無表情で「大正解です」と答えを教えてくれた。

 そうかよ……大正解かよ……。



 もうされるがまま、とりあえず安全圏までよろしくと頼もうとした時だった。

 謁見の間に凄まじい轟音が響き渡ったのは。



 ふと感じた結界の気配に、さぁっと顔から血の気が引く。

 俺を担ぎ上げている宰相が、短く舌打ちした。城外へと転移できなかったらしい。



「魔王、みぃつけた」



 完全にセリフチョイスがホラーです。ありがとうございません。



 ギギギと錆びついたブリキ人形みたいに顔を動かして、声が聞こえた方へと顔を向ける。

 背中を冷や汗が伝う。もうもうと舞っていた砂塵が収まってきて、侵入者の姿が見えるようになった。



 金色の髪に宝石を嵌め込んだかのような美しい紫の瞳。

 顔は恐ろしく整っていて、老若男女問わず見惚れてしまうような美男子だ。

 たぶん彼が勇者だろう。



「……あれ?」



 暫く勇者らしき美男子を見つめて、思わず声を上げた。



 え、あれ、こいつ親友じゃね??

 ちょっと記憶よりも身長伸びてるし、目のハイライトがさよならバイバイしちゃってるけど。



 いや、うん?? え?? どういうことなの??



 大混乱しながらもじいっと親友の姿を見つめていたら、宰相へと向けられていた視線がこちらへと向いてばっちりと目が合ってしまった。

 そしてあちらも信じられないという表情を綺麗な顔に浮かべ、時が止まってしまったかのように固まる。



 暫くそうして見つめ合っていると、わなわなと親友が震え出した。

 そしてゆっくりと上げた手の人差し指をこちらに向けて、口を開いた。



「まー、くん?」

「……えっと、えーっと……久しぶりだな親友!」



 なんと言えばいいか分からず、ありきたりな挨拶をすれば綺麗な色をした目にじわりと涙が滲む。

 そして気がつくと、宰相に担ぎ上げられていたはずがいつの間にか親友に抱きしめられていた。



「ま"ーく"ん"!!」

「ちょ、おま……くるし……」

「ま"ーく"ん"、ま"ーく"ん"、ほ"く"の"ま"ーく"ん"!!」

「「「貴様のではなく、我々の魔王様だぞ(よ)!!」」」



 いや、そんなことより助けてくれ親友に絞め殺される。

 あと、いつの間に主力の配下たちが全員集まったんだよ?




 *




 まさかの前世の幼馴染の親友と再会し、感極まり過ぎてうっかり絞め殺されかけた後。

 親友が魔法でちゃちゃっと治してくれた謁見の間は、北極かと思うほど恐ろしく体感温度が低かった。

 そして玉座に座って震える俺の前には、親友と俺の配下たちがお互い背後にブリザードを背負いながら睨み合っている。



 なるほどこれが修羅場。

 二股バレた男が陥る状況ですね。こんなにも寒々しくて恐ろしい修羅場はなかなか無いだろうけど。



 勇者と魔王の配下たちは敵同士らしく正に一触即発の雰囲気漂っている。

 まあ奴等が争っている理由は、どっちが俺に相応しいとか、俺の親権取るとかという、本来の勇者と魔王の配下たちの争いとは程遠いものなんだけど。



 つーか俺の親権って……やっぱり俺は中身永遠の五歳児だった……?



 違う違う。今は親権とかそんな話してる場合じゃねーんだ。

 勇者である親友様と和平交渉をしなければいけないんだ。頑張れ俺。



「な、なあしん、」

「まーくんは僕の幼馴染で親友なんだ! 生まれてから十六年も一緒だった大親友!! まーくんを養って、けーくんを幸せにする役目は僕のものなんだ!!」

「さ、さい、」

「たかだか十六年一緒にいただけ? 笑わせないでください。私たちは魔王様がこの世界にお生まれになってから八十年も共にいたのです。ですから、魔王様を養い幸せにする役目は我々のものです」

「ねえ、俺の話をきい」

「でも魔王は生まれた時からこの姿なんだろう? じゃあ君たちはまーくんの子どもの時のことなんて知らないよね。まーくんってばすっごく可愛くてカッコよかったんだから!」

「おやおや。幼い時の姿を知らぬからなんだというのです? 我々はこれからも魔王様のそばにずっと、それこそ死ぬまで共にいます。けれど貴方は? 人間の短い寿命では共にいられる時間など限られる。残念ですね、魔王様と生涯共に過ごすことができなくて」

「は?」

「あ?」



 お、俺の話まったく聞いてくれねーんだけど……。

 つーか宰相以外の配下たちも、まったく止めてくれる気配がない。

 それどころか。



「そうですそうです。魔王様はわたくしたちがお仕えすべき尊きお方なのです。人間なんてお呼びではないのですよ!」

「生まれた時から魔王様は我々のもの。そして我々は魔王様のもの。余所者が入る隙などありはせん」

「ぼくたちのほうが君よりもずぅーっと、魔王様が大好きだしねー」

「あたしたちの方があんたよりも、ずぅーっと魔王様が大好きなんだからね!」



 全力で煽りやがるんだよなぁ、うちの配下たち。文官長様も、警備隊長も、双子財務官長たちも。

 ああそのせいでほら、親友の額にピキピキと青筋が……。



「いいよ。分かった。君たち全員殺せばまーくんを取り返せるってことだね」

「物騒。発想がやべえくらいに物騒。お前ほんとは日本出身じゃなくて、修羅の国出身だろ」

「いいでしょう。そちらの方が話が早い。勇者といえどたかが人間一匹。三分で駆除してくれましょう」

「三分間だけ待ってやるの逆バージョンですね分かります」



 やめて! 俺のために争わないで!

 ネタではなくガチで!!



 マジでこんなとこで暴れられたら俺死んじゃう。

 嘘でも冗談でもなく、この中で最弱な俺はお前等の小手調べ程度の一撃で死んじゃう。



 でも逃げようとしたらしたで、示し合わせたようにこいつ等足止めしてくるんだわ。

「どこへ行くの(行くのですか)?」って。ぐりんと顔をこっちに向けながら。

 どこのホラー映画のワンシーンかな??



 おかげで逃げようにも逃げられない。

 俺がいる意味ねーじゃんと言おうものなら、審判役がいないと困ると言われた。

 あと、言葉にはされなかったけどどうやら俺に自分たちの活躍を見てほしいらしい。



 その前に俺の安全策を講じてくださらないかしらん?

 え、俺が今身に付けてる装飾品全部に魔王城を一撃で吹き飛ばすような攻撃でも耐えられるような結界を仕込んでるって?

 なるほどそれは安心……できるわけねーだろ。目の前で大怪獣戦争が勃発してるようなとこで、誰がのんびりまったりできるって言うんだよふざけんな。

 あと結界もこれ強力な分回数制限あったろ確か。それ全部使い切ったらデッドエンドなんだよ。



 しかし悲しいかな。そんな俺の必死の訴えは誰も聞いちゃいねえ。

 勝手に全力でヒートアップし、どちらからともなく魔法をぶっ放したり、剣から斬撃飛ばしたりしてる。



 白熱したバトルはぶっちゃけ外野として見るなら、迫力満点で素晴らしいけど当事者となるとなぁ。

 すごいじゃなくて、こわいという感想しか出てこないですはい。



 あと、審判役任せるとか言われたけどどう審判しろと言うのだ。

 俺には全く奴等の動きが見えんのに。



「僕は今度こそ死ぬまでまーくんを守って、可愛いお嫁含めて養ってあげるんだ!」



 とか言いつつ、お前俺の意見聞いてないよね。

 時々そういうことあったけど、今回はマジで酷いわ。



「彼は王なのです! 我々と共にあり、そして最期も共に! 一心同体である我等の間に貴方ごときが入る隙など無い!」

「まったくもってその通り!! とっととくばりやがれ勇者!!」

「わたくしたちの魔王様をお前如きにくれてやるものですか」

「魔王様のお嫁さんはぼくたちが幸せにするんだから!」

「魔王様のお嫁さんはあたしたちがちゃんと養うんだから!」



 珍しく宰相ってば熱くなってんなー。他の皆もエキサイトしてんなー。でもってやっぱり俺の話なんぞ聞いてねーなー。

 ま、アイツ等はいつも俺の話なんて聞いてるようで聞いてねーけど。



 俺のことが発端で争ってたはずなのに、既にアイツ等の目に俺は映ってない。

 過保護なのかそうじゃないのかほんと分からなんなアイツ等。



 はあと溜息を吐き、壁に空いたどでかい穴から魔王城の外を見る。

 すると、空に見慣れた姿が見えた。



「お、タマ」



 名前を呼べば、こちらの存在に気づいたタマ――俺の愛竜が優雅に飛んでやって来た。

 空中に滞空し、壁に空いた穴から中の惨状を見て呆れたようにふんと鼻を鳴らした。



「そうだタマ。俺を背中に乗っけてくれない? 初めての二人っきりの空中散歩と洒落込もうぜ!」

「くるるる」



 そう言えばタマは嬉しそうに俺の腹に頭を擦り寄せた後、くるりと回って背中を向けてきた。

 そこにひょいっと飛び乗って、そのまま二人っきりの空中散歩へレッツゴー!



 なんか背後から「まーくん!?」「お待ちください魔王様ぁぁ!!」という声が聞こえたけど、知らねー。

 そのまま勝手に喧嘩してろ。



 そうして暫くタマと空中散歩を楽しんだ後魔王城に戻れば、壁に空いた穴は全て綺麗に塞がっていて。

 謁見の間に行くと、親友も配下たちにも揃って土下座された。

 一斉に頭下げた姿は圧巻というよりも怖かったです。

 もちろん許しました。圧が強い。



 こうしてなんだかぐだぐだしつつも勇者と配下たちの争いは一応終わり、親友の一声と俺による全力無害アピールによって人間たちとの戦争もどうにかこうにか起こさないようにできた。

 これでとりあえず一安心。親友も元の世界に帰すための方法があるから、アイツを召喚した人間の国に帰そうとしたんだが……。



「僕もまーくんと住むんだからぁ! 死ぬまで一緒にいるんだからぁっ!!」

「何を言っているのでしょうねこの人間は。魔王様、即刻この人間を排除いたしましょう」

「あらあら、ゴミ掃除のお時間ですか? わたくし、ゴミ掃除はとっても得意です!」

「不穏分子の排除ならば任されよ。警備隊隊長としてしっかりと対処しよう」

「財務担当としては、余計なものは締め出さないとねー」

「いらない子にあげれるものはないからねー」



 そうしていい年した青少年が、床に転がって全力でただこねてやがる。

 配下たちはそんな奴の姿を冷ややかな目で見ていて、一色触発の雰囲気再びである。

 殺る気スイッチをそんな簡単に押すなよ。



 でも、まさか親友が元の世界に帰らずこっちに残ると言うとは予想外も予想外。

 確かにコイツは俺に対する愛が重かったけど、それにしたって迷うことなく向こう捨てるとか……。

 おばさんとおじさんに申し訳なさ過ぎるんだが。



「あのな、親友。おばさんとおじさんのこともあるんだし、ここは帰った方が……」

「嫌だ! そもそも僕あの二人嫌い! まーくんのこと陰で悪く言ってたし、まーくんのママさんとパパさんのことも見下してたし! 女の子たちに囲まれるのもうんざり! 髪の毛とか血とか入ったお菓子とか渡されるのももう嫌だ!!」

「お、おぅ……」



 そ、そうか。

 つか、俺おばさんなおじさんにあんましよく思われてなかったのか……。優しい人たちだって思ってだんだけど。

 あと髪の毛とか血とか入れてた女の子たちって、もしかしてコイツにアピールしまくってた美少女たちじゃ……え? 大正解? 嘘やん。



「だから僕はずっとまーくんと一緒にいるんだぁ! まーくんを養うんだぁっ!!」

「ちょ、おま、くるし……」

「「「魔王様に気安く触るな!!」」」



 ねえ。誰か一人でも俺が親友にうっかり絞め殺されかけてることに突っ込んでくれる人いねえ?



 こうして、勇者と配下たちが血で血を洗う戦いに発展したもののどうにかこうにか収めて、しょうがないから親友も一緒に魔王城で住めるよう全力で説得して、親友を召喚した国にも承認を得て、魔王城で一緒に暮らすようになった。

 そうして暫く一緒に暮らすうちに、親友と配下たちは段々と打ち解けていった。



 けれどやっぱり俺の親権を争って、それからも何度もわりとくだらない喧嘩(周囲の被害甚大)が繰り広げられたりするのだった。

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