第3話

 本家の門戸をくぐり抜けるとすぐに探し人が目の前に現れた。

 あまりにもタイミングがよくて、鳴は自分がここに来訪することを本家の誰かに伝えてあったかと自分を疑った。

 しかし探し人である鳴の父・彼岸宗純の表情からは、そういった様子は見受けられなかった。


「……あ……父さん」


 鳴は久し振りの父子おやこの時間に妙に緊張していた。何から話したらいいのか分からず、俯いてしまう。そんな鳴の心境を感じてか、宗純から会話を切り出した。


「ああ、鳴。今聞いたよ。晴は大丈夫か?」

「はい。安静にしていれば時期に回復すると。あの、その間の御神送りについて父さんに相談があって……」


 言い淀んでいく鳴の言葉に、彼なりの勇気が込められているのを感じた。鳴の気持ちを汲んだ宗純はゆっくりと近づいて、彼を安心させるように頭に優しく触れた。突然の父の行動に鳴は驚いた表情で宗純を見た。


「父さん……?」

「大丈夫。御神送りについてはこちらに任せなさい。……鳴」

「はい?」

「本家に頼ることに後ろめたさを感じてくれているのなら、少し頼まれてくれないか?」

「え……?」


 思わぬ父からの提案に鳴は思わずその目を見開いた。宗純は苦笑しながら次の言葉を紡いだ。そしてその言葉に鳴は二度驚くことになる。



「——久し振りに、としての仕事をお前に頼みたいんだ」



 ◆◇◆◇◆


 その父の依頼こそ、この広島への遠征だった。


 御神送りの対象は、厳島神社に祀られている四季神の一柱ひとはしら市杵島姫命いちきしまひめのみこと』が神使しんし烏橙うだい


 市杵島姫命がもたらした秋訪神事の際、彼女らは思わぬ強襲に遭い、その時彼女を庇った烏橙が負傷した。

 療養のために彼だけが彼岸屋に留まっていたが、この度療養期間が終了したため、こうして広島の厳島神社へと御神送りに向かっていた。


 しかし、不慣れな一人旅であることと、頼みの綱であった目的地までのルートが書かれたメモを失くしてしまった鳴は、人の世に詳しくない烏橙の言葉を頼りに歩いていたのだが、あれよあれよと『市杵島駅』という目的地に似た音の駅に辿り着き、現在に至ったというわけであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る