6-2

「はい、ではこれが返す分ですね。お願いします」

 野島は、空のケースをお店列車に積み込んだ。

 11時8分、お店列車は松島町駅を出発し、本渡へと向かっていく。

 「走る道の駅」と呼ばれるお店列車は好評なのだが、一つ問題があった。停車時間中に買えない人が出てくるのである。そのため、何を買うか決まっている人のために取り置きができるようになった。野島が商品の入ったケースを受け取り、待合室に運ぶ。そこで購入者がきたら商品を渡すのである。

 利用しているのは数人だったが、皆「助かった」と言う。車がないとなかなか遠くまで買い物に行けないので、一人暮らしの高齢者には特に喜ばれた。

「これもいつまで続くか、だな」

 無人駅になったら、取り置きは難しくなる。松島町駅でのお店列車の販売自体がなくなるかもしれない。

 取り置きを渡したら、早めの昼食をとる。

「ニャア」

 コロンブスが駅長室の中に入ってきた。

「お前もお昼の時間にするか」

 コロンブスはかためのキャットフードが好きだ。もりもりと食べている。

「ニャ」

 野島の視線に気が付いたのか、一瞬だけそちらを見て、すぐに食事に戻る。

 駅員がいなくなったら、誰がコロンブスに餌をあげるのだろうか。誰が松島駅に気まぐれで下り立った観光客に、おすすめの場所を紹介するのだろうか。野島は考えた。

「すみません」

「はいはい」

 列車のない時間だが、来客があった。茶色い髪の、ギターケースを担いだ女性だ。

「猫駅長っていますか?」

「いますよ。ただ、今は食事中で」

「ニャア」

 自分の話題だとわかったのか、コロンブスが待合室に戻ってきた。

「わあ、かわいい。動画撮っていいですか?」

「いいですよ」

 スマホを向けるのかと思ったら、結構大きなカメラを取り出した。コロンブスが「おや」といった様子でそちらを見上げる

「駅長さん、おとなしいですね」

「ん? ああ、そうですね」

 「駅長」だけだと野島のことかコロンブスのことかわからない。ただ、コロンブスが有名になってから、松島町駅の駅長と言えば猫というのが一般的なイメージである。

「かわいいよー、駅長かわいい」

 そんな彼女の様子を眺める人もいた。

「やっぱりBELuBAちゃんだ!」

「あ、どもー」

「写真撮っていいですか?」

「いいよ。せっかくだから三人で撮る?」

 野島はカメラを構えるジェスチャーをしてみせた。カメラを渡される。若い女性二人が楽しそうに構えると、コロンブスもちょこんと座ってレンズの方を見た。

 こんな日が、何回も訪れればいいなと思いながら、野島はシャッターを切った。


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