<駅長>

6-1

 国鉄天草線は最初、松島町駅を終着点としていた。今では交換駅となっており、駐車場も広めである。ここから三角や本渡に通勤、通学する者が多い。

 そんな松島町駅の入り口には低い棚が置かれており、その上には小さな<駅長>がいる。

「行ってくるよ、コロンブス」

「今日も毛並みがいいな、コロンブス」

 彼に声をかけていく利用客も多い。

 朝、二本の列車がすれ違うと、一気に駅は寂しくなる。通勤、通学時間の列車は、上り、下りともに7時40分発の急行のみである。急行とは言っても止まらないのは二つの展望駅だけだった。

「お、起きてるな」

 客のいなくなった駅でコロンブスに声をかけたのは、本物の駅長である。

「ニャー」

 コロンブスはご機嫌そうに答える。

 三年前、やせ細ったコロンブスを温かい待合室に導きいれ、ミルクを与えたのがこの駅長である。彼にコロンブスという名を与えたのも、<駅長>という役職を与えたのも、この野島駅長だった。

 野島はコロンブスにスマホを向けて、何枚も写真を撮った。「今日のコロンブス<駅長>」のブログに載せるためである。

「いまいちだなあ。まあ、リアルなのがいいよね」

 野島は写真を撮るのが上手くない。だが、そういうところが「素朴でいい」という評価もあり、ブログはそれなりに人気だった。わざわざ遠くから、コロンブスに会いに来る人もいる。

「ニャー」

「ふふ。今日も駅長頑張ってね。……こっちはわからないんだよなあ」

 コロンブスの仕事はかわいいことだったが、野島にも駅員としての仕事があった。ただ、それが先行き不透明になっていた。

「ニャ?」

「無人駅になるかも」

 ローカル線はどこも厳しい。天草鉄道も赤字で、このままいけば存廃の議論が出てくる可能性があった。それを避けるべく、まずは人員削減を、という話になっている。

「ニャア」

 コロンブスは、野島の右腕に額をこすりつけた。

「今度は俺が野良になるかもなあ」

 野島はコロンブスの頭を撫でた。

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