4-2
「いい天気だあ」
自転車を止めた僕は大きく伸びをした。目の前には大きなタコのモニュメントがある。
道路を挟んで向こう側には、天鉄がある。そして、三角屋根の小さな駅舎が、上津浦駅である。
夏は海水浴客でにぎわうものの、普段はのんびりとした地域である。
「長い駅名ねえ」
僕はあたりを見回した。海と山と、時折通る車。よくある天草の風景である。
とりあえず僕は道路を渡り、向かい側にある商業施設の駐輪所に自転車を止めた。そこもよくある道の駅のようなところだったが、温泉や展望台も備わっていた。
「登ってみるか」
展望台は斜面を登っていった先にある。らせん状に登っていくもので、とても景色はいいのだが他に人はいなかった。
「遠いもんねえ」
息を切らしながら、僕はため息をついた。就職するまではあまり天草に来たことはなかった。線路はあるものの、熊本からだととても時間がかかる。車でも時間がかかるうえに、道が一本しかないので渋滞すると大変なことになる。フェリーは廃止されてしまった。飛行機はあるが、阿蘇空港まで行って天草に渡る熊本民はまれだろう。「ちょっと行こうか」とはなかなかならない場所なのである。
「きれいだけどねえ」
天草西側の海は広い。ずっと遠くまで、島がないのである。海が広ければ、空も広い。とても美しい、青が眺められる。
「あっ、来た」
その時、ガタンガタンと言いながら列車が駅に入ってきた。展望台からは駅も見下ろすことができる。ホームに人はおらず、二人、乗客が下りてきた。
「あれ」
一人は、ホームに残った。そして、取り出したカメラを固定して、話し始めたのである。
「みなさんこんにちはーBELuBAでーす。今日は天草鉄道の上津浦駅に来てるよー。本当は南阿蘇水の生まれる里白水高原駅に来たかったんだけど寝坊しちゃいましたー。ここも、日本一長い長い駅名に帰るらしいです。どんなのになるかなー?」
「ユーチューバー?」
女性はギターを取り出すと、歌い始めた。
「音痴だ」
だが、ギターはうまかった。
「私ね、天草で生まれ育ったんだけどあんまり地元のこと知らなくて。この前は前島だったけど、本当に景色良かったよね。今日は列車にも乗ってみたんだけど、楽しかったよ。まあ、三駅なんだけど。今度は、三角まで行こうかな?」
僕は結局、撮影が終わるまでずっとそこにいた。
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