日本一長い駅名
4-1
「町田君さあ、なんか考えた?」
「えっ」
「駅名よ駅名」
奥から声をかけてきたのは坂村先輩である。今日は先輩と交代だったのだが、この人は寂しいのかなかなか帰らない。
「そういえばそんな話ありましたね」
「今年の目玉だぞ」
ローカル線は生き残りのためにどこも必死である。天鉄はこれまで、愛称を「夢イルカ線」にしたり、観光特急「海に刻む風」を走らせたりしてきた。そして今回企画しているのが、「日本一長い駅名」である。
正直、これまでに比べてあんまり盛り上がっていない気がする。お金もかけていない。だいたい長い名前ってなんだ。
「上津浦でしょ? やっぱタコですかねえ」
「だよなあ。けど、タコは二文字なんだよなあ」
「煮だこ茹でだこたこ焼きおいしい上津浦海岸駅とか」
「さすがにタコ推しすぎるかなあ」
「タコ突破は無理な気がするんですよねえ。やっぱ温泉とか名水とか山とか、そういうのですよねえ」
「それか学校だよな。『聖天草四郎高等学校上津浦キャンパス前駅』とか」
「そんな学校ないですよね」
「学校の改名からかあ」
二人が駅名をあきらめたころ、改札に一人の女性が現れた。肩にはギターケースを担いでいる。
「すみませーん」
「あ、はいはい。なんでしょう」
僕は窓から顔をひょいと出した。
「あの、ここから南阿蘇鉄道の切符って買えますか?」
「いやあ、それが買えないんですよ。三角駅で買ってもらっていいですか? 申し訳ありません」
「そうなんですか……あの、南阿蘇水の生まれる里白水高原駅って行ったことありますか?」
「え、ないですねえ。先輩、あります?」
「俺はあるぞ。ログハウスみたいな駅舎がある」
「なるほど。本日行かれるんですか?」
「うーん、結構時間かかりますよね? 明日の朝行こうかなあ。日本一長い駅名の前で動画撮りたいんです」
「そうなんですか。あ、でも今日本一そこじゃないですよ。富山の方にあるみたいです」
「え、そうなんですか。知りませんでした。どうしよっかなー。あ、勉強になりました。ありがとうございます」
女性は頭を下げると、駅を去っていった。
「先輩、日本一長いと需要あるかもしれませんね」
「女の子との出会いもね」
二人は神妙な表情をしてうなずき合った。
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