延伸計画
5-1
架空の鉄道を考えるのが好きだ。
ついに僕は、憧れだった天草本渡駅にやってきた。しかも、列車を使わずにである。
列車に乗るのはもちろん好きだ。だが、それ以上に路線を妄想するのが好きだ。まだ線路が敷かれていない場所を走り、妄想のための調査をする。
今日の調査対象は天草上島の南側だった。北側には天草鉄道が走っているうえに、高速道路の計画もある。それに対して、南側には道が一本と、フェリーがある。鉄道の計画は皆無だ。
景色が美しかった。時間があったので龍ヶ岳に登り、そこから有明の海を眺めた。九州と天草に挟まれた海は、湖のようでもある。陸地に目を動かし、新幹線や、オレンジ鉄道の走っているであろう場所を確認していく。さすがに九州の西側には、新路線を妄想する余地はないように思われる。ただ、東側へと抜けていく路線の可能性はあると思った。阿蘇から高千穂へと抜ける路線はトンネルが掘り進めるまで行ったことがあったが、湧水があふれ出したことにより建設が中止になった。そして今では、宮崎側の路線が廃止になってしまった。八代から人吉に向かい路線はあるが、水俣からはどうだろう。昔の計画には存在していたのだが、それは南の方に行く感じだ。それよりも北側に突っ切って……
いけない。つい、予定とは別の場所の路線を妄想してしまう。視線を足元に戻す。天草下島に新路線を通すとすれば、南側しかありえない、と思う。最初の駅は牟田になるだろうか。次は姫戸。ここにはキャンプ場があるし、龍ヶ岳に登る道も分岐している。次は……
と、島を眺めて路線と駅を妄想しながら一時間ほどを過ごした。考えるのは自由だが、やはり実現もしてほしいところだ。残念ながら天草上島南路線はまず敷設されないだろう。
それに対して、明日訪れる下島には大いなる可能性を感じている。
宿に車をおいた僕は、天草本渡駅にやってきた。「現在の」天草鉄道終着駅である。併設しているカフェに入り、窓際の席を選ぶ。ここからはホームや線路、そして車庫が見える。車庫には、野菜などの絵が描かれた物産販売列車、通称「動く道の駅」が止まっている。中で地元のものを売っており、明日は熊本へと帰っていく。昼間のローカル線はどうせ人が少ないので野菜を運ぼう。運んでいるなら売ってしまおう。あれもこれも売ろう。そうやって成長してきた列車である。見られてよかった。
線路の先には車止めがある。これ以上先には行けないことの象徴である。僕の妄想する延伸計画では、当然ここの車止めはなくなる。「これで見納めかもしれないな」と、現実には存在しない計画に基づいてしみじみとする。
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