2-2
「あ、ごめんなさい」
民田と目が合った女性は、頭を下げた。
「えっ」
民田はベンチにカメラを置いて、自分も頭を下げた。
「すみません、先客がいるとは知らず……」
若い女性は、ギターケースを背負っていた。茶色い髪を後ろでくくっている。
「え、いや、何かご利用? 私も別に許可を得て借りてるわけじゃないよ」
「いいんですか? わたしMV撮りたくて」
「MV? 歌手?」
「あ、いや自分歌い手で、プロとか全然そんなんじゃなくて。もう投稿者の中でも底辺も底辺で。それでせめて絶景をバックに動画を撮ろうとかそう考えてたんですがまさか先客がいるとは」
「いやお邪魔ならばしばらく外に出ておくよ」
「そんなそんな、私の方がお邪魔したので。ちょっと歌わせていただきます」
女性はいそいそとギターを取り出し、カメラをフェンスにセットした。景色がよく入る位置を探るが、なかなか場所が定まらない。
「撮ってあげようか?」
民田が言った。
「そんな、プロの方でしょ」
「いや全然そんなんじゃ。まあ、カメラの扱いは慣れてる方だけど」
「お願いしてもいいんですか?」
民田は、ビデオカメラを受け取るといろいろと操作方法を探った。最近のものは当然「ビデオ」ではない。とても小さくて、わざわざ構えるのが変な気すらする。
「どんな感じがいいの?」
「できるだけ景色メインで! 私は添え物で!」
「それでいいの? わかった」
チューニングを終えると、女性はギターを弾き始めた。とても激しい音で、民田は目を丸くした。うまくはなかった。
そして歌い始めると……音痴だった。ただ、力強い。見た目やしゃべり方とのギャップが面白い、と民田は感じた。
「あ、あの、どうでしたか」
「良かったよ。きれいに撮れたし、歌も力強かった」
「編集は友達がうまくて! その、いくつかをつなげられるので、もう一回お願いしてもいいですか?」
「何回でも」
その後女性は三回同じ曲を歌った。
「いっぱい歌った!」
「いい絵が撮れたよ」
「よかった! ここ、ブログで見てから気になってたんです。ありがとうございました」
女性は、ギターをケースにしまって、大きくお辞儀をした。
「いいよいいよ」
「あ、私
BELuBAと名乗った女性は駅の前に止めてあった原付に乗り、橋の向こうへと去っていった。
「ブログ、俺のだったりして」
帰りの列車が、近づいてくる。
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