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 14時28分の列車が到着する。冬の平日、人は少ないはずだ。

 現代、田舎は特に車社会である。列車の利用客は減る一方である。天草鉄道は様々な工夫で乗り越えようとしているものの、単純に移動する人が少ない時間にはどうしようもないところがある。

 それでも絶景を走るおかげか、観光客や撮り鉄と呼ばれる人たちの姿もちらほらと見える。

 で、たまに。「ザ・旅人」という人もいる。大きなリュックを背負って、目深に帽子をかぶっている男性。手には小さなビデオカメラを持っている。改札を抜けると、時刻表を確認している。帰りの時間を調べているのだろう。

「あの」

「はい」

「この近くに、漫喫ありますか?」

「漫画喫茶ですか。それならば前の道を左に行って、橋との交差点を越えたあたりにありますよ」

「ありがとうございます。やっぱり、宿は高いですよね?」

「まあ、いろいろとありますよ。これが案内です。どうぞ」

「ああ、ありがとうございます。へえ、いろいろとあるんですね。あ、レンタサイクルもあるんだ」

「はい。すぐ出せますよ」

「え、駅員さんが?」

「はい。僕が担当なんです」

 驚かれることも多いが、ここのレンタサイクルは駅が運営しているのである。大変と思う人もいるだろうが、僕がこの仕事を選んだ一番大きな理由が「自転車が好きだから」なのだった。

「人員削減の波が来てるんですねえ」

「えっ? ま、まあそうかな」

「ローカル線はどこも大変ですもんねえ」

「そ、そうですね」

 確かに駅員が自転車管理もしているので、人員削減と言えなくもない。ただ、改札が忙しいわけでもないのであまりそういう風に考えたことがなかった。しかも僕は、自転車メインで就職したのである。

「頑張ってくださいね」

「はい」

 大きく手を振りながら、その人は自転車で走り去っていった。



「あ、昨日の人!」

 朝、旅人が再び駅にやってきた。

「おはようございます」

「いやあ、実は次にどこ行くか決めてなくて。おすすめとかあります?」

 こういう旅人はたまにやって来る。何も決めずにふらふらと様々なところに行けるのはうらやましい。

「列車じゃないとだめですか?」

「いや、バスでもフェリーでも」

「それだと、この後牛深行のバスがありますよ」

「牛深?」

「ここからずーっと先です。1時間半ぐらい。明日はそこからフェリーで鹿児島に渡るのがいいんじゃないですか」

「なるほど。ありがとうございます」

 旅人はバスセンターに向かっていった。

 実は僕は、牛深に行ったことがない。業務として島内の観光地に詳しくなっただけである。もともとそんなに旅をしてきたわけでもない。天鉄も、就職するまでに2回しか乗ったことがなかった。

 旅もいいものだなあ。

 今日は帰りに、自転車で少し遠出をしてみるか。そう思いながら、列車を迎える準備をする。

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