宇宙図書館

クロノヒョウ

第1話



「わあっ! すごいねパパ!」


「ああ、どうだ、すごいだろう?」


 父親の職場である宇宙図書館の見学に来た男の子。


 綺麗に美しく並べられたたくさんの本の棚。


 幼い男の子の目にはどの本もキラキラと輝いて見えていた。


「ここには宇宙中の本が集められているんだよ。だから毎日たくさんの宇宙人がお目当ての本を探しに来たり勉強しに来たりするんだ」


 広い館内を歩きながら父親は息子に図書館の中を案内していた。


 たくさんの宇宙人が皆静かに座って本を読んでいた。


「ボクも後で本借りてもいい?」


「もちろんだ」


「やった!」


「児童書はこの渡り廊下の先だ」


 親子は児童図書館へと向かっていた。


「あれ、パパあれは何?」


 渡り廊下から外を見ていた男の子が指さしたのは大きなドーム型の建物だった。


「あれは俺たちライトリード星人の本を管理している建物だよ」


「ボクたちの本?」


「ああ。ライトリード星人の一日が一冊の本になるってことは学校で習っただろ?」


「うん、習った」


「俺たちの毎日が一日の終わりに本になって、ちゃんとひとりずつ保管されてるんだ」


「じゃあボクの本もあそこにあるの?」


「もちろんさ」


「へえ~、すごいね!」


 男の子はガラス窓に張り付いてそのドームの建物を興味深そうに見ていた。


「でもさパパ。一日一冊だったらすぐに本がいっぱいになっちゃうよ?」


「ん、いいところに気付いたな。本がいっぱいにならないように一年分、常に三百六十五冊にしてあるんだよ」


「そうなの?」


「それがパパの仕事さ。毎日ひとり一冊ずつ一年前の本をデータ化していくんだ。だから常に三百六十五冊なんだよ」


「へえ、パパすごいね!」


「はは。どれもみんな大切な想い出だからね。大事に保管するんだよ。要望があれば貸し出せるしな」


「借りれるの?」


「借りれるけど許可がいるぞ。役所に申請してな」


「ふーん」


「なんだ、お前も借りたかったのか?」


「ううん。だってボク、この一年特に何もしてない気がするもん」


「そうか?」


「そうだよ。この前なんか一日中寝てたよ? それも本になったの?」


「そうだよ。寝ていようがちゃんと本になる」


「そんなの恥ずかしいよ」


「恥ずかしいことなんかないさ。一日中寝ていてもちゃんとご飯は食べただろ? ママとおしゃべりもしただろうしお風呂も入った。少しくらいはネットも使っただろう」


「そんな本、ちっとも面白くないよ」


「面白くなくちゃいけないなんて誰が言ったんだ? それにそんな一日の本でも面白いと思ってる人だっているかもしれないんだぞ。どう感じるかは人それぞれだ」


「そうかな? でもそれじゃあボク、いつまでたってもベストライトリード星人にはなれない気がする」


「なんだ、お前ベストライトリード星人になりたいのか?」


「そりゃあなりたいよ。選ばれて、ボクの本もこの宇宙図書館に置かれるんだ」


「そうか、お前がな」


「パパみたいにベストライトリード星人になってボクもここで働くよ」


「そうかそうか。じゃあ俺からアドバイスだ」


「えっ、何?」


「特別なことは何も考えるな。自分がやりたいことをやれ。人がどうこう言おうと楽しければそれでいい。以上」


「えーっ」


「はっはっは。さあ、本を借りて帰るぞ。本はたくさん読めよ」


「はぁい」


 親子は楽しそうに渡り廊下を歩いて行った。



 毎日ここに住む人の一日が勝手に本になるライトリード星。


 彼らの三百六十五冊の本は毎日更新され新たな物語を紡いでいく。


 何一つとして同じものはなく、時が経ってもこの宇宙図書館に永遠にその物語は保管されているのだった。


 おっと失礼。


 興味がある方はライトリード星にある宇宙図書館へぜひお越しください。


 首を長くしてお待ちしておりますよ。



              ライトリード星 クロノヒョウより






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