エピローグ1 癒しの女神セレナ

「終わったな。すべて」フランクが近づいてきた。


 黒塗りの刃であるヴォーリアを布で包んで掴んだ。


 フランクは最後の神器を手に入れた。


「クレリア、祈りを捧げろ。

 これで私たちの旅の目的は達成された。

 みなご苦労だった。十分な褒賞を与える。

 さあ、クレリア!」


「ヤダヤダーッ! わたしは、こんな結末はいやだ!

 こんな結末になるくらいなら、貴方のプロポーズ受けるんだった!」


 クレリアは彼の遺骸に縋りつき大声で啼いた。洟をハンカチで抑えている。


 ついにこの時が来た。


「なにをいっている。ベストエンドじゃないか。さあクレリア、祈りを!」


 傭兵さんやアルフレッドさんにお別れする日。

 マスターの命令コードには逆らえない。

 物語のバッドエンド。

 癒しの女神を復活させれば彼は生きかえる。

 胸が張り裂けそう。

 これでいいの。



〝いいの? クレリアちゃん。

 本当のこと伝えなくて。

 わたしみたいに一生後悔しちゃいますよ〟



「誰?」クレリアはキョロキョロとかぶりをふる。



〝わたしのことわかりませんか。

 ヒントは隣にいる男性が忘れられない女性です〟



 その囁きはくすくすと笑うかのような口調だった。



「まさか、セレナさん?」


 フランクが舌打ちした。予想外の展開である。


「どうしてセレナさんの声がわたしに聴こえるの?」



〝にゃああ~〟



「その声はアゼル‼」


 クレリアは潤った瞳で左右を振りかえる。



〝この場所は霊場。

 冥界とも天界とも近しい場所です。

 一時的に天界からわたしの声が届くようになったのです〟



「やっぱりセレナさんなんだね!」



〝アゼルの魂はこちらにきています。

 ケガも治って、元気にしています。

 わたしととっても仲良しなんですよ〟



「本当に⁉

 アゼルは天国に行けたんだね!

 アゼル!」



〝にゃあああ!〟



〝もちろんです。アッシュ……

 目を開けて〟



 その言葉にアストリアがゆっくりと開眼すると光が戻っていた。

 息吹を取り戻した心臓が力強く全身に血液を運ぶ。



〝この世界最後の癒しの魔法です。

 癒しの魔法はこれで地上から完全に消滅しました〟



「見えるの⁉ 傭兵さん! ああ、神様」

「セレナ、やっぱり君なんだね」生命と呼吸を取り戻したアストリアは皺ができるほど目を強く閉じた。



あのとき・・・・は心ない言葉を吐きかけてごめんなさい〟



「もういいんだ。いいたいことがたくさんあるのに、いざとなるとでてこないや。

――ずっと、囁いてくれたのは君なんだろう」



〝わたしを失ったあとのあなたの人生を心苦しく思っていました。

 本当はね、アッシュ。

 わたしはあなたのことを殺そうとさえ思っていました。

 奴隷にされたわたしはいつも怒っていました。

 いつかこの家族を破滅させてやる……!

 優しい人生を送りたいと思いながらいつも怒っていた。自分を奴隷にしたこのセカイに。

 でもあの瞬間ときあなたを抱きしめたらそんなことはどうでもよくなった。

 少年アッシュに優しくするときだけ、自分が価値のある人間のような気がして、自分を慰めていた。

 君で自慰してたの。

 あの事件のことは報いを受けたと思っています。


 あの事件のあと冥界に旅立ったわたしを癒しの女神イシュメリアが天界に召喚したのです。

 癒しの女神は肉体を失っています。

 わたしは魂の世界で次代の癒しの女神として生まれかわるために修業を積むことになりました。

 その間、天界から地上のあなたのことを見守っていました。

 自分から危ないことばかりして死に近づこうとするあなたを見ると涙がでました。

 その涙が空間と次元を超越していのちを危険にさらすあなたに癒しの奇跡を起こしていたのです。

 先ほどの癒しの魔法は限界を超えた治癒でした。

 もう奇跡は起きません。

 次世代の癒しの女神が誕生する1万年後まで〟




「なんだってー!

 食事と栄養のバランスに気をつけて野菜も食べるようにしているからからだが丈夫なんだと思ってた」


「いや、そんなわけないでしょ。少しは疑問に思って!」クレリアが手を振った。


 クレリアはスカートを掴んだ。


「わたし……本当のこという。そのせいでマスターに殺されてもいい」


 不穏な発言に視線がクレリアとフランクに集まる。


「傭兵さん、聞いて?

 わたし研究所ラボで生まれたの。

 ふつうの人間じゃない。それどころか人間ですらない。

 魔導生体素子研究所3番目の被検体コード=C

 自動人形オートマタクレリア・リンリクス。

 それがわたし。

 わたしは生体素子を組み込んだ自動人形オートマタなの」

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