第二十一章 違法転生者
「来たか。アンデッド=アストリア。待っていたぞ。
貴様を血祭りにあげるこのときを」
黒騎士シャフト卿のカメラアイは紅光を発した。
「おまえは何者だ⁉」叫んだのはアストリアではなくシオンだった。
「貴様のつるぎが黒塗りの刃であることは明白。
ヴァルケインなのか?
答えてもらうぞ」
シオンはソードマスターの里から
天魔刀は黒塗りの刃。
そして黒騎士シャフト卿は黒塗りのバスタードソードを愛用していた。
だが、天魔刀は刀であってバスタードソードとは特徴が異なる。
その疑問点は置き去りにされていた。
また、暗殺集団ヴァルケインの暗殺者たちは黒塗りの武器を使用していた。
天魔刀との関係が疑われていた。
「ふふ。ソードマスター・ルクシオンか。
その答えにはYESにしてNO。
ヴァルケインを設立したのは
この謎かけがわかるかな?」
場が沈黙したが、彼女は抜刀してまえに進み出た。
「シオン!」
「やらせてくれ。こいつの化けの皮を剥ぐのはわたしの役目だ」
決意が見て取れた。
星詠みのアークメイジの言葉が頭をよぎる。
『この旅であなたはこのセカイの混沌と悪意の元凶と対峙する。死闘になるでしょう。いのちを失うかもしれません。
その代わりにあなたは人生でもっとも望むものをこの旅で手に入れるでしょう』
このセカイの悪意の元凶と対峙する。
そのときが来たと、はっきりとわかった。
ピシャン!
グラスファイバーの壁が突然出現した。シャフト卿の魔力だ。
「シオンさん!」
クレリアが壁を叩いたが軋むだけで傷ひとつつかなかった。
「おまえの手品か」
シオンはシャフトを見据えた。
「神聖エルファリアの王ビルギッドは
シャフトはゆっくりと
「アンデッド=アストリア。この顔に見覚えはないか?」
その素顔に全員が驚愕する。
素顔はタコ糸で縫い合わせたかのような継ぎ目だらけ。
口もまぶたも縫い痕で覆われている。
アストリアは既視感を覚えた。
かすかに顔立ちに面影があるのだ。アストリアはかつて暗黒傭兵部隊
自分以外の
01番 ゴースト
02番 グール
03番 ワイト
05番 ファントム
07番 レイス
08番 シェイド
09番 イービル・スピリット
10番 レギオン
11番 デス・ブリンガー
12番 ヴァンパイア
それぞれ少しずつ面影があって
「ばかな。貴様らはオレが殺したはず」
アストリアは信じられないものをみて自問自答する。
「そうだ。わたしだよ。アンデッド=アストリア。
貴様に殺されかけた
貴様が不死鬼の隊長を皆殺しにしなければ、戦争が拡大し極大魔法が開発され、この星は
貴様のせいでわたしの計画は台無しだ。生かしてはおけんよ」
シャフト卿は死体を継ぎ合わせたアンデッドモンスターだったのだ。
「貴様はいったい……⁉ 計画とは?」
「わたしはこの遺跡で生まれた。
人間の悪意の結晶。
それが
このセカイに悪意をふりまくもの。
永遠に生まれ変わって人類を破滅に導くもの。
そしてわたしの計画とはこの惑星を生物の存在しない死の星にすること」
シャフト卿の耳障りな声が響く。
「貴様に殺されたわたしは次の転生を待つしかなかった。
だが
かりそめのいのちを与えてな」
「ライナス・バストラル……!」アストリアは戦慄した。
「そうだ。やつはいった。
『僕は人間が自らの愚かさゆえに滅ぶならそれでも構わない。
君を使って試したい。
このセカイに存在する価値があるのか。そうでないのか。
君が野心を達成するならそれでよし。
誰かが君を滅ぼすならそれでもよし。
見たいんだ。
このセカイの終末を』
蘇生に必要な臓器はほかの死体から奪い取った。
わたしは不死鬼全員の亡霊。おまえの背中に傷をつけたのはわたしだ。肉体が完全ではなく殺しきれなかったが。
アンデッド=アストリア。
おまえのことは気に入っていた。眼をかけてやっていた。
生命の死滅した惑星の唯一の生存者にしてやってもいいとさえ思っていた。
だが! 貴様の裏切りでわたしの計画は20年先延ばしになった!
貴様は殺すぞ?
その前にけなげに
その言葉は自らが
だが、シャフト卿はシオンが伝え聞いた容姿とはあまりにも異なる。
「種明かしが必要だな。
享祗朧はわたしの前世。
ソードマスターの里から天魔刀を盗んだわたしはこのセカイに悪意を振りまいた。やりすぎたな。
当時のアークメイジに目をつけられ追い詰められ自害した。
だがアークメイジはわたしが違法転生の秘術を修めていたことまでは知らなかった。
違法転生の秘宝によって生まれ変わったことは彼らにも感知できなかったというわけだ。
生まれ変わったわたしは暗黒傭兵部隊
混沌のアークメイジ ダルダスタン・グレイナルなどとっくに暗殺しておるわ」
その言葉にやっと合点がいったというふうにフランクがつづける。
「違法転生者……!
聞いたことがある。
前世の記憶を持ったまま転生を繰りかえす人間を違法転生者といい神界関係者に忌み嫌われているという」
「話がはやいな」
シャフト卿、いや
「貴様らがいうところの魔剣ヴォーリアは神がつくりたもうたつるぎ。
自らの意思をもち、分身をつくった。
その一本が天魔刀。
神剣は自らの意思を持ち時空すら超越するちからを持つ。
時空を超えてソードマスタ―の里に辿り着いたのだ。
分身を続けたヴォーリアは黒塗りの刃としてヴァルケインの装備となった。
享祗朧のひとつ前の人生で暗殺集団ヴァルケインを設立した張本人もわたし。ヴァルケインを使って巫女のちからを持つ人間を暗殺した。
癒しの魔法など存在されては困るからな。
エルファリアでおまえたちの存在を知ったときは驚いたよ。
女神を復活させる巫女の血は途絶えたと思ったがまさか人工的に巫女をつくりだしていたとは。
ヴァルケインはセカイを混沌に導くための手駒として使っていたが役に立たなかったな。東方ではアークメイジ
おまえたち全員皆殺しだ! その後もう一度このセカイを破滅させる計画を立てる」
まさにすべてがこのセカイの悪意の集合体のような存在であった。
「おしゃべりはもういいだろう? ぼうや」
シオンが人差し指を立てて挑発した。
最後の闘いがはじまろうとしている。
つづく
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