第十九章 ラストダンジョン1
「こんなダンジョンははじめてだ」アストリアはつぶやいた。
まだ地上の灯りが差し込む範囲なのに異様に暗い。
東亰爆心地ダンジョンは洞窟や迷宮といったおもむきではない。
かつて地上に存在した〝学校〟が強大な魔力で地下にうずもれ複雑化したものである。
彼らには見覚えがないが、廊下が敷かれ教室があり、保健室、教員室。
そして第二校舎と体育館が不気味に合体した姿である。
千年前のもののはずなのにまったく老朽化がすすんでいない。これも呪いなのだろうか。
「おかしいぞ。地下のはずなのに窓の外は屋外の景色だ」
廊下に張り巡らされた窓の外には千年前の大破壊前のこの国の景色が広がっている。
ビルディングと不協和音を起こさない程度の緑。鳥たちや蝶の姿もある。
「これなんて読むんだろう?」
アルフレッドが見上げたのは教室の看板だった。
「1-B……。なにを意味するんだ……?」
フランクも想像し得ないことが起こっている。
アルフレッドが罠がないか慎重に調べたが教室のドアに細工はなかった。
慎重に扉を開くと空中から黒板けしが落下して彼の頭にあたった。
みなが彼を心配して叫んだが白い粉が髪の毛についただけだった。
「なんだ、このトラップは……‼」
全員が身の毛もよだつ恐怖を感じると声が聞こえてきた。
〝なんでいつもわたしばっかりこんなめに……!〟
囁き声がはっきり聞き取れた。
それは紛れもない『霊』の声。
モンスターとは異質の脅威。
霊現象は暴力的ではない。
だが暴力的な恐怖を誰もが感じている。
歴戦の戦士であるアストリアとシオンでさえ鳥肌を隠すことができなかった。
「なんなんだ……⁉ 先に進もう」
ワックスが塗られたばかりのようなつるつるの廊下のさきに階段があった。
一同は下り階段を降り、また廊下を歩きだした。
「見ろっ!1-Bだ……!元のところに戻ってきている……!」
「ループしているようだ。磁場が乱れている。恐らく時空が歪んでいるのだろう」
「こんどは階段を登って見ましょう」
一同は奥まで進もうとすると目の前に
シャドウは人型になるとしゃべりだした。
『おまえもう学校来るなよ』
『帰れ! 帰れ!』
『おまえに話しかけてねえし! 黙れよ』
シャドウの一体が襲いかかってきた!
飛び蹴りをくらわそうとする。
アストリアは剣で薙ぎ払った!
腹部を斬りひらかれたモンスターはうずくまったが、また影が集まって修復しようとする。
シオンが前に出た。
「さがっていろ。こいつはわたしが
創竜刀を抜き放つと一閃!
シャドウたちは散り散りになって霧散する。
「わかってきた……。
これは悪霊だ。千年前の大災害の原因となったいじめが再現されているのだ」
「ひどい」クレリアがアストリアに抱きついた。
「杏アリスがうけたいじめをすべて追体験しないことには最下層に辿り着けないわけだな」フランクが眼鏡をただした。
「なんにしたって戻るわけにいかないし、進もうぜ」アルフレッドが髪を整えながら先頭を歩いた。
階段を
いつのまにか特別教室のある第二校舎に移動している。
廊下は一部崩落している。この部屋を抜けるしかないようだ。
アルフレッドがドアに手をかけようとした。そのとき。
アストリアに囁き声が聞こえた。
〝その部屋に入ってはいけません!〟
その声は聞き覚えがあった。
淡い初恋を感じた年上のお姉さんの声。
「アルフレッド! 待て!」
アルフレッドは手を引っ込めた。
「なんだよ。アストリア」
「いま誰かオレに話しかけたか?」
「いや、誰も」
そのときまた別の声が聞こえた。
先ほどの声とは違い悪意に満ちて全員に聞こえる言葉だった。
〝ちっ、その部屋に入ってれば全滅だったのに〟
悪霊の声だ。
理科室の室内は酸素濃度が限界まで下がっており彼らが室内に入れば気を失い死亡していたのだ。
フランクが問うた。
「アストリア、君に聞こえた声は嫌な感じがしたか? つまり、味方だと思うか?」
「ああ、〝彼女〟は絶対にオレの味方だ。でもなんで急に声が聞こえたんだろう」
「東亰爆心地は霊的にも特異点といえる。
霊感のない人間でも魂の世界とつながることができるのかもしれない。
その声が味方ならこのダンジョン攻略のおおきな手掛かりとなる。
この部屋を迂回して反対側の道へ進もう」
アストリアは過去に汚点があり、人格も聖人とは程遠い。
だが仲間たちから信頼を得るほどに認められていた。
彼の暗殺を企んでいるフランクでさえも!彼のスピリチュアルな感性を信じることにした。
ここまで旅をしてきた彼らにアストリアの精神疾患を疑う人間は誰ひとりいない。
それが〝絆〟だった。
反対側の突きあたりには職員室がある。
アルフレッドが罠をチェックしたあと彼らは中に入った。
入り口のそばにプリンターが置かれているがそれがなんなのかわかるものはいない。
壁にはホワイトボードとミニサイズの黒板に日付と文字がびっしり白い文字で書きこまれている。
教員たちの机が立ち並び、シャドウたちが授業の準備をしている。
彼らの会話が聞こえてくる。
『
『わが校の面汚しですな』
『転校か自主退学してくれませんかねえ』
『まったくですな』
シャドウたちは襲ってこない。
ずっと杏アリスの悪口をいっている。
そして一通りいい終わるとまた最初からループ再生で悪口をいいつづける。
それが千年以上永遠につづいているのだ。
つづく
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