第十五章 トゥルーエンド

挑戦最終日


 クリア直前ということでマハルも立ち会うことになった。


 フェイは指をぽきぽきと鳴らしてモニタの前に座った。


 1面から4面まで滞りなくノーミスで進行する。ステージ道中の攻略に有効なキャラクターとボスに有効なキャラクターはすべてわかっていた。


 みんな固唾を飲んで見守っていた。


 EXチップを取ると個別にレベルアップするのだが、余剰に取ったチップは控えのキャラクターに分配できるのがこのゲームのミソである。


5面。

 フェイはチームにソード使いのユキを入れて編成する。

 みんな真意がわからなかった。


 一番攻撃のリーチが短いユキは使い勝手が悪い。


 早々にスターティングメンバ―から外されるのが定石だった。


 そして余剰EXチップをすべてユキにまわすとMAXレベルまで投入する。


 極限まで研ぎ澄まされたフェイはオートボムもシールドもなく青玉を躱しつづける。息をのむプレイだった。


 5面ボス 禍神かがみ相手に1ダメージ受けてしまい、一同は落胆しかけたがフェイは調子を崩さなかった。


 5面クリア後はチーム編成がない。


 ムービーシーンがはじまる。

 一同緊張した。

 ラストボスであるメノウを撃破できるかに旅の命運がかかっているのだ。


 対決ステージがはじまるとフェイは操作キャラクターをユキに切り替えボスにはりついた。


 最大レベルのソードで攻撃するとボスのライフはぐんぐん減っていく。


 ボスの攻撃動作のそぶりを見せると冷静に回避し、いままで温存したボムを使ってなんなくライフを削っていく。


 メノウがサンプリング音声で断末魔をあげ、ライフメモリをふたつも残して撃破するとエンディングがはじまった。


 これもムービーシーンだった。


『どうしてわたしたちを裏切ったの?』


『人類は世界を悪いほうに導こうとしている。

 星が悲鳴をあげているのがわたしには聴こえた。

 それももういい。わたしは負けた。

 みんなが正しかったんだ』


 メノウは血を吐いて死んだ。


『どうして……! どうして⁉ 大好きだったのにメノウ!』

 画面暗転してスタッフロールが流れる。



 ほとんどがMAHARU KANNAGIで埋め尽くされてる。女王の手前味噌なゲームであった。

 GAME OVERの表示がでる。



 アストリアが開発者のマハルを振りかえった。

「これって、本当にクリアなんですか⁉」

 

「われはバッドエンドが好きなのじゃあ! メリバじゃ!」マハルは最高に満足げの顔である。


 全員ずっこけた。マハルはつづけた。


「どうしてユキがラスボス戦の切り札であることに気づいたのか教えてくれないか?」


 フェイは眼鏡に触れた。


「どのキャラにもボスに強かったり、道中で活躍したり、見せ場がありました。

 でもソード使いの子・ユキだけはいまいち使い勝手が悪くてそれがなかった。

 最初は攻略をミスリードするハズレキャラだと思いました。

 でも最大レベルまで上げたときの攻撃力はナンバーワンだった。わたしの勘がユキがラストボスに有効と告げていました」


「お見事。あっぱれですね」紗良さらが拍手する。


 

「これで東亰爆心地へ行ける」フランクも安堵し眼鏡を外して目元を抑えた。


「泣いているのか」


「いや、目が疲れた」


「ちなみにメノウちゃんを入れてパーティを組んでたらどうなるんですか? めっちゃ気になる」 

 クレリアはエンディングを見た興奮も冷めやらぬ様子で質問した。


「ふむ、その場合はノーマルサッドエンド。

 誰も死なないが謎は解明されない後味の悪いエンディングになる。

 そちらでクリアしても合格にするつもりであったぞ。

 われはこのゲームを一般家庭向けに販売するつもりじゃ。

 われわれ開発者はこのゲームをやりつくしているので難易度の感覚を失っている。

 ゲームシロウトのぬしらにテストプレイさせて感想や難易度に対する意見をもらう、どうじゃ、われは天才であろう」


「はい、気づいてました」フェイは椅子に腰かけたまま答えた。


「タイトルの由来はプレイヤーキャラクターが十一人。

 バッドエンドで終わるから十一人の悪夢イレブンナイトメアですね」


紗良さら~!」一般人に思惑を看破されたマハルは紗良に泣きついた。


「はいはい。

 ただクリアすればよいというものではなく、プレイ中の様子も観察させてもらいました。

 ゲームハードを破壊しようとしたり、物にあたったりしていれば合格は与えないつもりでした。

 ゲームのプレイには人間性がでるからです。

 マハル様はあなた方がゲームから悪影響を受けるような人間ならば、癒しの魔法を復活させたところで世のためにならないことになるだろうと判断しておいででした」


「そこまで……!

 マハル様、オレは感動しました。

 ノリの軽い姉ちゃんくらいに思ってました」


「こらこら」


「ゲームの声は誰の声なんですか?」


「わらわじゃ!」ムービーシーンの生声はイスタリスの女王マハル自らが声優として吹き込んでいた。

「実はムービーシーンに容量を使い過ぎて全11面から全6面に変更したのじゃ。

 暇な王様だなって思っただろう!」


「……はい」


「ゲームって、面白いな。これが普及して世の中が平和になったら素晴らしい」


「われも同じ気持ちじゃ。

 さて、今日は休んで明日旅を再開すると良いだろう。

 『扉』は封印されているがぬしらのために解放する。

 転送魔法はとても高度な制御が必要なものだが、幸いなことにここにアークメイジ紗良・ファーレイがおる。

 紗良がゲートを開いて東亰爆心地までぬしらを転送する。

 譲羽ゆずりはの巫女にはもう話を通してある。今晩はささやかながら宴を催すつもりじゃ。 

 楽しんでくれたもう」


   つづく

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