第十四章 エンディング

第5面  古代闘技場ステージ

5面ボス 禍神かがみ



 第5面の攻略は熾烈を極めた。


 敵の弾の数がいままでのステージとは比較にならない。とてつもない数の敵弾。


 いわゆる弾幕系シューティングに様変わりしたのだ。


「無理無理! これはクリアできるゲームじゃないよ!

 シールドやオートボムを入れていたらとても敵の処理がおいつかない。

 このゲームはクリアできない!」


 アルフレッドは音を上げてしまった。

 4面までノーミスで進められることがあったフェイとアストリアだったが言葉がでなくなってしまった。

 5面中盤までにライフがゼロになってしまう。


 弾幕系シューティングゲームは、西暦1997年当時から歴史に出現した。


 それまでのシューティングゲームとは一線を画すゲーム性。


 圧倒的な弾幕が千年のときを超えて蘇った。最盛期の弾幕シューティングには幾分も劣るが、ゲーム初心者のアストリアたちはお手上げだった。


 この壁は超えられないように思えた。マシンの表示能力の限界を超えた弾幕でときに処理オチして画面がスローになるほどである。


 クレリア、アルフレッドは5面まで到達できないこともしばしばで、あきらめムードが漂った。


 残り日数は3日。

 フランクは口出ししないことを決め込んでいたがあきらかにあせりが見える。


 シオンもわれ関せずを貫いていたが、ここで旅が終わってしまうのだとしたら……面白くなさそうである。


 フェイだけは違った。もくもくとなにかを考えている。

「できるか? いや無理か……」


「どうしたんですか、シャオさん」クレリアがのぞき込む。暁はフェイの本名である。


「4面までは敵が出現してからアドリブで対応してもなんとかなった。

 5面の敵を処理するためには出現パターンを完璧に暗記すればあるいは……。

 大量の敵を処理するためには火力の強いバルカンを最大までレベルアップして、うち漏らした敵はオプションショットで倒す。

 あとひとりはボスに特効を持っているキャラで編成する。

 でも出現パターンを暗記するのはいまからだとちょっとキツイかも」


「……いや、できるかもしれないぞ。

 膨大な魔力が必要だが、私がみんなのプレイをこの眼で見て記録しよう。録画とでも呼ぶか。

 それを通信用水晶に映し出すことは容易だ」


 フランクが眼鏡の位置を調整した。

 皆に歓声が上がる。


「ただし!

 私は視力を酷使する魔法は苦手だ。録画できる時間は30分程度だ。

 今日と明日。

 最善のプレイだけを記録する必要がある。

 4面までノーミスで進めるのはアストリアかフェイだけだ。

 頼むぞ」


 一同の視線がアストリアとフェイに集まる。

 アストリアはゆっくりとフェイを振り向くと瞳をまっすぐ見た。


「フェイ。5面の中盤までいけるのはあんただけだ。

 オレはこの旅の行く末をフェイに託したい」


「本気⁉ わたし部外者だよ」


「責任放棄じゃない。少しでも可能性があるほうにかけたい。

 オレはフェイのことを家族だと思っている。結果がどうなろうと文句はいわない。頼む」


「わたしからもお願いします。

 わたし、家族がいないんです。でもこのパーティにいる人たちを家族だと思っています。シャオさんのことも!」

 クレリアがフェイを直視する。眩しいくらい真っ直ぐな瞳だった。


「家族か……。負けたわ。君たちには」フェイはずれてもいないのに眼鏡に触れた。


「弟くんと、妹ちゃん」アストリアとクレリアを見る。


「背の高いお兄さんと頭のいいお兄さんのふたり」アルフレッドとフランクを交互に見る。


「美人の姉妹」最後にシオンを見た。


「ってことでいいかしら」


 フェイは不敵に微笑む。すがすがしい笑顔だった。

 みんな笑顔を返した。

 フランクでさえも。



 フェイが全力の集中力でゲームをプレイした。

 フランクは目に映ったものを脳内に圧縮して焼き付ける魔法録画レコーディング(recording)を使いながら画面を凝視する。


 本来録画の魔法は5分程度の想定で使用する魔法だ。

 視力を使う魔法が苦手なフランクにとって限界を超えた挑戦である。


「フランク! 血が……!」


 フランクが鼻血をハンカチで抑えた。


「静かに。黙っていてくれ」


 フェイは本番に強い女だった。

 いままで突破できなかった5面の中盤まで進んだ。

 だれもが息をのんで見守った。

 敵の出現がなくなり、背景が消えた。


 5面のボス 禍神かがみの登場である!


 頭がオオカミ、からだはクマ、角はヤギのキメラのように見える。

 禍神の青玉に、フェイは惜しみなくボムを投入した。

 正しい判断である。禍神に有効な攻撃はわかっていない。正攻法で倒すしかないのだ。

 どんなことをしても5面ボスを倒してラストボスの情報を得る必要があった。


 ボムを使い切って、のこりライフ1つで禍神を撃破することができた。

 

 5面ボスを倒したあと画面が暗転した。

 操作できないムービーシーンがはじまった。

 禍神を倒した主人公たちは仲間がいる本拠地に戻った。


 すると、次々とあがるサンプリング音声の悲鳴。


 画面が明るくなるとプレイヤーとして選んだ以外の仲間たちが血まみれで倒れている。

 その中央に仲間であるはずのメノウがたっていた。


『ごめんね。お姉ちゃんたち。

 わたしが人類を滅ぼすために古代遺跡からモンスターを復活させて操っていたの。

 全員なにも知らずに死んでいくはずだった。

 でもみんなわたしの予想を超えて生き延びてしまったの。

 だからわたしが終わらせる』


 そのセリフは生声のフルボイスだった。


 みんなあまりのことに画面に心奪われた。


「ゲームがしゃべった……!」


「フェイ! 操作!」


「え……? ああ!」


 ムービーシーンが終わり正体を現したメノウとの対決ステージがはじまったのだがコントローラーから手を放してしまったために一瞬でゲームオーバーしてしまった。


「無念!」

 フェイは仰天した。


「いまの凄くないですか⁉ ゲームから声がしましたよ! 紗良さらさん!」


 後ろに控えている紗良はコメントを禁じられているので、はにかんで答えた。


「うん、凄い、凄かった!」

 みんなムービーシーンに感動していた。


「ゲームオーバーしてしまったが、収穫はあった。次は勝てるんじゃないか」


「そうね! 問題はボスに有効な攻撃だけど」


「それをいまから探すより正攻法で倒したほうがいいんじゃ……」


「それなんだけど、わたしに考えがある。

 まずは録画映像研究。

 のこり1日でクリアする!」


 フェイは眼鏡を外し、つるの一端を口に咥えて不敵に微笑んだ。


 つづく


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