第十一章 イレヴンナイトメア

「魔術師殿のエル・ファレル魔導学院卒業証のペンダント照合には数週間かかる。その間この城を自分の家だと思ってくつろいでくれい」



 翌日、神凪かんなぎマハルは微笑とともに宣言した。別室にいたアルフレッドも合流した。彼女は基本ポジティブな人間である。フランクの東方に仕えるという宣言も、癒しの魔法復活も肯定的にとらえている。

 

「それは少々困ってしまいます。われわれは一刻もはやく東亰爆心地へ向かわねばなりません」

 フランクは眼鏡の位置を調節した。


「それはなぜですか?」

 東方のアークメイジ紗良さら・ファーレイが問いただす。


「癒しの女神復活には星座配置が重要になります。

 3つの月が新月になり星座配置が完璧になるのはあと2週間後と3日後の聖歴1021年3月15日しかありません」


「紅歴でいうといつになる?」マハルが紗良に問う。


「紅歴20年になります。月日はかわりません」紅歴は東方の暦である。


「安心しろ。

 古代図書館での話のつづきだ。おぬしたちが探している東亰はイスタリスではない。ここより東の地、封印都市アザナエルがかつて東亰と呼ばれた。そこに建っている譲羽ゆずりは神社の巫女が東亰爆心地の封印を護っている。

 この城に地下に転送魔法陣が存在する。その魔方陣は東亰爆心地の中心部につながっている。紗良の転送魔法で送ってやろう。どうだ?」


「それは幸いです」


「ただし、条件がある」


「条件?」


「その前にこれを見ろ。なんだと思う?」


 マハルは応接間の一角の四角くて黒い箱や床に置いてある弁当箱みたいなものを指さした。一同は顔を見合わせたが即答できるものはいなかった。


 マハルは口角があがっている。


「なんだろう。私にもわからない」フランクが答えた。


「へっへっへっ」マハルは女王らしからぬ笑い方をした。魔術師のフランクにわからなかったことがよほど嬉しかったらしい。


「これはモニタとゲームハードのレプリカだ」


「モニタ? ゲームハード?」


「大崩壊以前の文明にはテレビゲームというものがあった。モニタにゲームハードを接続してソフトをプレイする遊びじゃ」


「??」みんななにをいっているのかわからない。


「やってみるが早い」


 マハルはゲームカートリッジを本体にプラグインした。カチャっと小気味よい音がした。


 電源を点けるとモニタに画像が映し出された。


「おおっ!」感嘆の声が上がった。


「かつての昔、この国はゲーム大国だった。だが大崩壊後、ゲームハードもソフトもそのほとんどが失われた。

 もともとハードもソフトも何百年も保つものではない。それらを発掘し、解析し、技術を注ぎ込んで再現されたものがこれだ。

 一部魔法的な装置でエミュレートしている。

 動力はエメリウム・ランプ鉱石を使っている。

 前世界にはeスポーツというものが存在した。

 eスポーツとは要するにゲームを使って対戦するスポーツだ。eスポーツは世の中が平和なことが前提の遊びだ。われはこれが大好きじゃ。

 eスポーツを復活させ、全世界に発展させることで平和に貢献したい」


「モニタ、ハードやソフトの普及によって経済発展も期待できます」

 紗良さらが補足説明した。


「いまそれくらい政治にちからを入れればいいのにって思ったろ!」

 マハルは振り向きざまにアストリアを睨んだ。


「なんでわかるんですか! 思ってないですよ」図星をつかれた。マハルは超能力が使えるわけではないが、異常に洞察力が高いのだ。


「このレプリカは有志を募って開発されたものだ。説明はもういいじゃろ。やるぞ」

 マハルは咳払いしてハードから伸びた紐がついた四角い板のようなものをアストリアに持つよう促す。それにはボタンや十字型のボタンがついていた。


「結論をいおう。

 われが開発したゲームをクリアしたら魔方陣を使わせてやる!

 はい、どや!」


「ば…!」

 フランクが眼鏡のつるを強くつかむ。


「バカげていると思うか? われは正気ぞ」


「理由はなぜでしょうか?」


「われはゲームのプレイには人格が出ると思っている。

 われが開発したゲームに真剣に取り組める人間なら信用しても良い。

 投げ出すのならそれも自由。

 爆心地の所在も自力で探すと良い。呪文の国際特許の話もなしだ」


 フランクが歯ぎしりにしているのが背中からでもわかるようだった。

 自分の計画が突拍子もないかたちでとん挫するかもしれないのだ。


 アストリアにしてみれば癒しの女神が復活しようとどうだろうとどうでもよいことだった。

 それはアルフレッドにしても同じことである。


 シオンも腕組みした。


 フェイはニヤニヤして髪の毛をふさをもてあそんでいる。ハプニングが嬉しいのだ。


 クレリアに袖を掴まれたアストリアは彼女の表情を見た。

 彼女はくちびるを噛んでことの次第を見守っている。


「大丈夫だって。なんとかなるよ」


 アストリアの声掛けはまったく届いていないようだった。

 この回答に自分の人生がかかっているとでもいいたげである。


「クリアするゲームとは?」フランクは屈辱とともに唾を呑んだ。


「そうこなくては。

 われが開発したシューティングゲーム『イレヴンナイトメア』!

 シューティングゲームとは自機を操作して玉を撃ち、敵を打ち落として進むゲームだ。

 ステージごとにボスが登場する。

 マニュアルやトレーニングモードもあるから自由にしてくれ。

 期間はさっき魔術師殿が自らいっていた2週間でどうじゃ。

 ダンジョン攻略には2日もあれば十分だろう」



 つづく



※『イレブンナイトメア』は実際には存在しないゲームです。

突然はじまったeスポーツ編! 作者は正気です。eスポーツ編はクライマックス前の息抜きですのでお楽しみください。

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