第三十章 死闘
陽光に草むらが輝いているのん気にも見える光景。
その中で
お互いが死の宣告を行った以上、数分後にはどちらかが全滅する。
「フランク、クレリアを頼む」
アストリアはフランクに目配せする。
「ああ、それは任せたまえ」
フランクが眼鏡をただした。
「クレリア、お股はだいじょうぶか?」
「ヘンないい方するな!
こんな人たち、やっつけてよ。
わたしはひとりも欠けることなく東方へ行きたいの」
クレリアは魔女といわれても気丈に振舞った。
魔女と呼ばれて泣きべそをかいていたあの頃の彼女はいない。
「任せろ。クレリア。
これから起こることから目を背けていてほしい。
戦闘が終わるまで、オレの
こいつらは
殺戮と闘争、暴力。そういう醜いものをクレリアの綺麗な瞳に映したくない」
アストリアの表情はクレリアを護る決意と、
「わたし、見るよ!
わたしのために闘う貴方に対して誠実でありたいから。
だからお願い。
すべてが終わったとき、おかえりなさいをいわせて!」
「今生の別れはもういいですか。そろそろはじめましょう」
ヴェスミランがすまし顔で黒塗りの2本の短剣を抜いた。
「アストリア」
フランクが声をかけた。
一瞬
「頼むぞ」
ヴェスミラン以外の敵も一斉に武器をかざした。
黒塗りの棘環がついた
黒塗りの大型の刃先のある
黒塗りの剣先が三又に別れた
黒塗りの異様に反りかえった
黒塗りの刃は100パーセント
グルガンは不敵な笑みを浮かべ後ろに構えている。
「この小僧を生け捕りにして寿命尽きるまで拷問してはどうだ?
眼を焼き、耳をそぎ落として……」
ヴェスナーはさも愉快そうに仲間に提案した。
ふいにアストリアが暗殺者たちの会話に割りこむ。
ヴェスミランたちの後方を見、叫んだ。
「馬が見える、ザハラン! 助けに来てくれたのか!」
ヴェスナーは振り返ってしまった。
「見るな! はったりだ!」
ヴェスミランが叫んだが遅かった。
戦闘がはじまった。
アストリアはヴェスナーに向かって突進した。
ヴェスナーは慌ててアストリアに棘環を投げつけたが、まったく鋭さがなかった。
ショートソードによる神速の突きがヴェスナーの胸に突き刺さった。
ヴェスナーの肺は串刺しになり、顔は痛みと呼吸不全で醜く歪む。
戦闘開始から3秒である。
アストリアの背中からリーヴァントが斬りかかると、アストリアはヴェスナーのからだを盾にした。リーヴァントの
息絶えたヴェスナーの血流が最後の圧力で噴き出す。
その血はリーヴァントの顔面を血みどろにした。
「これでひとり」
次にアストリアは
右手にはロングソード。左手にはショートソードを構える。
「二刀流!」そう叫んだリーヴァントにアストリアはからだを回転させ襲いかかった。
リーヴァントは黒塗りの
リーヴァントの視界から不意にアストリアが消えた。
「⁉」アストリアは斬りかかる瞬間に、姿勢を地面すれすれに低くした。
リーヴァントの両足が切断される勢いで剣が食い込んだ。
「ぎゃああああ! 痛えええ」リーヴァントは絶叫をあげた。
「我慢しろ。これでふたり」
「連携を取れ!」再びヴェスミランは叫んだが、もう遅かった。
遠くに控えている暗殺者仲間の魔術師が放った
「なにをする⁉」リーヴァントが叫んだ。
アストリアは無言で彼を
爆発炎上するリーヴァントに驚愕しているのリョハイの背後にアストリアは立っていた。
「後ろだ!」ヴェスミランが叫ぶ。
リョハイは反射的に飛びのいてアストリアの振り下ろした剣を躱す。
「キエエエエエエェー!」
剣を躱したリョハイが黒塗りの
誰もが躱せないと思った。アストリア以外。
刹那。激鉄のような一撃がリョハイの後頭部に
アストリアは剣を捨ててからだをコマのように半回転させ刃を躱し、なおかつ左肘でリョハイの頭部を攻撃したのである。攻防一体の動作だった。
「よそ見はいけないな」アストリアはリョハイの首に腕を組んだ。
「やめて」リョハイは脳震盪で意識朦朧である。
「おまえは命乞いをする人間を助けたことがあるか」
「一度だけある。だから助けてくれ」
「多分嘘だから駄目だ」
リョハイの首をへし折る。
不快な奇声がリョハイの
「三人」
アストリアは地面に突きささった自分の剣を抜いた。
「貴様!」
ベルベラガンが力一杯振りかぶってアストリアに襲いかかった。
「だめだ!」
ヴェスミランの制止もきかず
ベルベラガンは最初なにが起こったか理解できなかった。
理解できたとき人生で最も恐ろしい恐怖に襲われた。
アストリアによって両腕が肘から切断されたのだ。
次の瞬間ベルベラガンの喉の下から頭頂部までアストリアのショートソードが突き抜けた。
ベルベラガンは恐怖の表情で絶命した。
主要な血管を避けて剣を突きさしたため血は吹き出さなかった。
アストリアはショートソードを引き抜かずに右手のロングソードを構えた。
「四人。ヴェスミラン。
まだやるか。
もうおまえたちは魔術師も含めて三人しか残ってないぞ」
四人の暗殺者が一瞬で倒され、残るはヴェスミラン。グルガン。遠くに控えている援護の魔術師の三人のみ。
「……強すぎる!
みんな暗殺術の達人なのに技を使う前に殺された!」
ヴェスミランは一歩後ずさった。
「逃げることは許さないぞ。ヴェスミラン」
「私はやはり死ぬのはいやです。
あんなに尽くしたではありませんか。
もう人を殺さないと誓いますから見逃してください」
ヴェスミランは狼狽・懇願した。
年齢不相応の幼稚な態度だった。
ヴェスミランには人間としての人生経験が皆無だった。
哀しい青年なのだ。
アストリアにとって鏡に映った自分自身だった。
アストリアの眉が不快そうに皺を刻む。
「おまえはここで死ぬんだ。
おまえは殺しを楽しんだ。
わかっていたはずだぞ。
いつか
今日がその日だ」
「どうしてもだめ?」
「だめだ。地獄に行くことを約束するなら、自ら死ぬことを許す」
ヴェスミランは恐怖に気が触れて笑い出した。
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