第二十二章 暁《シャオ》の告白

 フェイとクレリアのふたりはアストリアが寝ている部屋に移動した。


「彼が起きたらいまの話を伝えるんだよ」

「怖くていえないよ」


「いまの話を聞いて、嫌いになっちゃうならそこまでの仲なんだよ」

「あの人はそんなひとじゃない」


「じゃあもう答えはわかってるじゃない」

「でも……」


「クレリアちゃん、わたしの話をしようか。

 わたしには好きな人がいた。

 身分違いで諦めたけどね。

 彼は誠実で、分け隔てなくわたしに接してくれた。

 その優しさが仕事だからなのか、それとも本当にわたしに向けられた好意だったのか、幼いわたしには測りかねた。

 年齢差もわたしが臆したことの理由のひとつ。

 そうしてる間に彼にお似合いの彼女さんを紹介されたわ。この人と結婚するんだって。

 結婚式に出席してお祝いの言葉を述べてくれないかって。

 さすがにきつかったよ、結婚式。

 わたしはきっと幸せになる。

 ステキなパートナーを見つけて、子どもを産み育てる。

 それでも自分の人生が終わるときに、あの人に告白していたらどうなっていたんだろうと思うでしょうね。違う人生もあったのかなって。

 それは罰なの。

 想いを伝える勇気を持たなかったことに対するね。

 さっき想いは通じ合ったっていってたよね。

 すごいわ、クレリアちゃんはわたしより何倍も勇気がある。

 でも、本当のこと隠してたらいつか彼と気持ちがすれ違ってしまう原因になるかもよ。

 わたしみたいになりたいならもうなにもいわないよ。

 彼が幸せになるとき、隣にいるのが自分でなくてもいいの?」


「いや! いや!

 彼はわたしが拾ったイヌだもの。最後まで面倒を見る」

 クレリアはかぶりを振った。


「イヌって……」

「イヌみたいな性格してるんです」

「なんとなくわかるかも」

 ふたりは笑いあった。


「彼は最愛の人を失った苦しみを乗り越えて、〝生きたい〟ってわたしにいったの。

 だから、いま神様が彼のいのちを奪うなら、それは間違っている。

 そのときはわたし、人生で二度と神様に祈らない。

 神様に噛みついてやる!

 お望み通り魔女になってやるんだから」


「うん、うん。なにも心配いらないよ」

 フェイはクレリアを抱擁して髪を撫でた。

「クレリアちゃんだったらわたしのことシャオって呼んでいいわよ」


 クレリアはフェイの胸元から彼女の顔を見た。

シャオさんがわたしのお母さんだったらいいのにな」


「お姉さんね」

「ううん、お母さん」


「お姉さんなの!」

 フェイはクレリアの片頬を引っ張った。


「……はひ、おえーさは」

 クレリアは目が点になっていた。

 フェイは頬を離した。


「怒りましたか?」クレリアは頬をさすった。

「全然怒ってないよ。フェイお姉さんは若いし優しいからね」


「………。

 それにね、もうひとつ相談したいことがあって、傭兵さんのお〇んちんが大きくなったとき、すごく怖かったの」


「知りたくねぇ! 人に話すことでもねぇ!」

「彼のあれ・・の大きさが普通かどうか、シャオさんに見てもらいたいの」


「いやだよ! あれ・・の大きさの平均なんて知らないわよ!

 クレリアちゃん、顔がきれいな割に下ネタぶっこんでくるわね」


「う……、」

 うめき声にアストリアを見ると呼吸が浅くなっている。

 眉間には深い皺が刻まれていた。


「傭兵さんが、アストリアが苦しんでる!」


「あわわわ……! どうしましょう。シオンを呼んでくるわ」

 フェイはあたふたしながら部屋を出ていった。


 クレリアは意をけっして思い切り息を吸い込み、その息をアストリアのくちびるに吹き込んだ。もちろん鼻をつまんで空気が漏れないように。


 あの冷徹な医者が来てくれるとはとても思えなかった。

 祈らないといったばかりなのに神様に祈ってしまう自分は、運命に対して無力だと思った。

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