第八章 イヌドロボウ
「クレリア!」
アストリアはクレリアの部屋を力強く開けた。
「ノックもなしに入ってくるな! 無礼者」
クレリアはつっけんどんな態度だった。
「オレ、おまえと会話したり一緒にいるの好きだぞ」
「それはよかったですね。
ただ、わたくしの存在があなた様を楽しませるためのエンターテイナーだと事実誤認されるのは甚だ迷惑なので、そのことはお忘れなきよう。よしなに」
クレリアは最近のアストリアの態度に拗ねていた。
アストリアはこのあと愛の告白をするつもりだった。
だがクレリアのやたら長ったらしい知性を振りかざした言葉選びに頭に血が昇った。
それを受けて彼の口から出た言葉は、
「口の減らねーガキだな」
「出てけぇ!」
クレリアはカァーッと怒ってクッションをアストリアに投げつけた。
「違うんだ、クレリア。オレは大切な話をしに来たんだ」
「うるさい!」
クレリアがこんどは枕を投げつけてきたのでアストリアは部屋から退散した。
最低な告白のあと自分の部屋に戻ると、シオンが一度解いてしまったさらしを巻きなおしていた。
「どうだった?」彼女が問う。
「ダメだった。いえなかった」
「なにやってんだよ。ちゃんといわなきゃだめだろ。あの
「イヌドロボウ!」
叫び声に振り返るとクレリアがドアの前に立っていた。
彼女はほっぺたを膨らませて涙ぐんでいた。
「大切な話ってその女と犯ったって話か! サイテーだな!」
烈火のごとく怒っている。
「違う!」アストリアは叫んだ。
「クレリア、違うぞ。話を聞けば誤解は解けるはずだ」シオンも説明しようとした。
「黙れぇ!
わたしの恋心をもてあそんだ非一途!
おまえは嘘つきだ!
わたしのこと恋人にしたい存在っていったくせに!
大っ嫌い!
騎士学校中退除籍!
国外追放の前科持ち!
嫌い嫌い!
キンパツあばずれイヌドロボウも嫌い!
けだものの仔を孕めばいいわ!
傭兵さんはわたしがさきに見つけたイヌなんだからあ!」
すごい剣幕で取り付く島もない。
クレリアが騎士学校中退のことまで知っていたことも衝撃だった。
「死んだらおまえたちの子どもに生まれ変わって復讐してやるからな!」
クレリアの中で感情があふれ出した。
あまりにいたたまれなくて消えてしまいそうだった。
「わたし、このパーティをぬけます」
クレリアはぺこりとお辞儀をして駆け出した。
「待ってくれ、クレリア!」
アストリアが慌てて廊下に出るとクレリアの姿はなかった。
「クレリアのやつ、不穏なことをいっていたぞ。死んだらどうとか」
シオンも冷や汗をかいている。
アストリアは彼女を追いかけたがまったく姿すら見当たらなかった。
手掛かりをさがし彼女の部屋にいくと日記帳が目に入る。
日記を勝手に読むことは人の道に外れているが、彼は手に取った。
これは!
どのページにも自分への切ない恋心が綴られている。
彼は落涙した。
これほどまでに想われていたのかと。
つづく
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