クレリアの日記

聖歴1020年10月27日

 わたしたちはいまエルファリアへ向かって旅をしている。

 アルフレッドさんに傭兵さんのことどう思ってるか聞かれてとっさにイヌって答えちゃった、わんわん。


 わたしネコ派なのにあんまり懐いてくるからイヌもかわいいと思うようになっちゃった。懐いてくる大型犬ってかわいいよね。


 傭兵さんの神聖語ホーリィのテキストの回答を見たけどやばい。200点中7点。あの人は学校でなにを学んでいたのだろうか。

 

 まず大文字と小文字の使い方が分かってない。副詞と再帰動詞は全滅、必死に解いた形跡があるのがさらにやばい。これは教えがいがありますねぇ。


 そのあとアストリアがわたしを海につれていってくれるって約束してくれた。やったぜ!

 今日はいい日だと思ったらまたセレナの話でいやなムードになっていのちを返すとか恐ろしいことをいってわたしを不安にさせた。

 もう許すもんか! ぶってやる。明日になったら絶対ぶってやる!

 ……ちょっと泣いちゃった。

 セレナさん、あの人を連れていかないで!


聖歴1020年10月28日

 あの人のまえで大泣きしちゃった。ぐぬぬ、いま思うと恥ずかしい。でも約束させてやったんだ、いのちを返さないって。それでよしとするか。

 もうすぐセメアグネだ。どんな街なんだろう。







聖歴1020年10月30日

 傭兵さんが一晩かけてわたしを慰めてくれた。その中でわたしは傭兵さんの悲しい過去を知った。それはアストリアという少年とセレナという女性の恋物語だった。


 ふしぎだ。傭兵さんはわたしにとって大切な人なのにわたしはセレナさんの顔を知ることもできない。

 

 どんな女性だったんだろう。アストリアは凄い美人だったっていってるけど。

彼の話を聞いて、わたしは思ったことがある。


 ラボで聞かされたあの伝説……セカイに棄てられた少女と彼女を守ろうとした騎士の伝説。もしセレナさんがセカイから棄てられた少女の生まれ変わりだったとしたら、傭兵さんは彼女を守ろうとしていのちをおとした騎士の生まれ変わりなんじゃないかって。


 そのあと、マスターと傭兵さんの会話を盗み聞きしちゃった。そのときの彼の言葉は、生涯忘れないだろう。


 わたしにはお父さんも、お兄ちゃんも、恋人だっていないまま死んでいくんだって思ってたから。いままで生きてきた中で一番うれしい言葉だよ。


 起きて日にちをみたらアゼルがけがをしてから二日もたっていた。ということは、わたしはどれくらい眠っていたのだろうか。


 そのあとアゼルのお墓をつくってあげた。

 船に乗ったとき信じられないくらい世界が輝いて見えた、それがわたしには悲しかったんだ。でも泣かなかった。わたし、強くなれた気がする。


聖歴1020年11月13日

 エルファリアに着いた。わたしは人種差別を目の当たりにしてしまった。わたしと同じ肌の色をした人が傭兵さんを不当に扱うのを見るのはつらかった。


 その夜、また傭兵さんがエロ本を買ってた。許せない! こんなにイイオンナがそばにいるのにエロ本なんか見て。これは浮気だよ。


聖歴1020年11月14日

 みんなで大会の受付に行った。そこでわたしがウィットに富んだジョークをいったら面白くないといわれた。

 

 こんなにショックなことはない。わたしはジョークのセンスがいいんだ、天才なんだ。あまりにハイレベルすぎてついて来れる人がいないんだ。わたしのジョークが評価されるまであと100年はかかるだろう。

 

 そのあとふたりきりでレストランに入った。これはデートだよね。傭兵さんしきりに空を見上げてたけどなにを見ていたのかなあ。


聖歴1020年11月16日

 昨日パーティーに行ったので日記を書く暇がなかった。

 でも全然覚えてない。気がついたら傭兵さんにおんぶされて宿に戻っていた。こんなことあります?


 ドレスを着付けてもらったとこまでは覚えてるんだけど。そのあとえーと、お城に向かったよね、ダメだ、全然思い出せない。そこでわたしは間違えてお酒を飲んだらしい。

 彼とお城でデートする一生に一度のチャンスをだいなしにしてしまった! ま、いいか。

 さて、これから図書館に行く。どんな本があるかな~。


 図書館でトラウマの治療に関する本を探したらいっぱいあった。本の中に傭兵さんの心の傷を治すヒントがあるかもしれない。


 そして! 官能小説『ダイヤモンド・マスク』歌うことしか才能のない少女が11歳年上の社長と大恋愛して結ばれる話らしい。


 そのあとどえらいことが起こった。刃物を振り回すおばあさんがわたしに襲いかかってきたのだ。


 そしてわたしに向かって呪いの言葉を吐いた。思い出したくもない。

 でも彼は、おまえは魔女じゃない、この世界に居場所がないなら、オレの隣にいればいいっていってくれたの。


 もうわたしにはこの男性ひとしかいない。彼のことはじめて名前で呼んじゃった♡

……と思ったらあの夜がどの夜かわからないって。うらぎりものー‼


聖歴1020年11月17日

 彼が決勝トーナメントの抽選に行っている間、わたしは本を読んでいた。

 帰ってきた彼に絶倫のエロガキといわれ暴力をふるってしまった。


 暴力は間違っている。でも悔しかった。自分だって絶倫の趣味してるくせに!

 海のように深く、山のように広大で、空よりも心が澄んでいるわたしは彼の暴言を許します。でも忘れないけど。日記に書いておこう。


 夜になってあの男が酔った女性を連れ込んできた。もう許せない!

 恩は2倍に、恨みは3倍にしてかえすぞ。


聖歴1020年11月18日

 どうも昨日の件は誤解だったらしい。シチュエーションは限りなく黒だけど、酔ったルクシオンさんを道端に置いていけなかった。

 その途中で誤解があったということらしい。窓から入ろうとした件は意味不明だけど。

 許してやるか。


 でも朝食のとき並んでごはんを食べているふたりをみてお似合いだって思ったの。

 そしたら息が苦しくなるほど胸がもやもやした。


 取られちゃう! わたしのイヌを取られちゃう! そんなのヤダ!

 一生懸命エサをあげてきたのに、美人だとすぐ尻尾を振る。

 なんて恩知らずなイヌだろう。


 あの男って意外と女たらしなのか……?




 部屋で午後のお茶を楽しんでいたらたたき起こされこの国をでるといわれた。

 なんじゃそりゃー。

 もうこの国での用はなくなったらしい。試合どうなったんだろう。マスターは一言も教えてくれない。


 いくらなんでもいじわるだよ。ほんと性格悪いよね。そこまで秘密にする必要ないじゃない。


 不満たらたらで国境まで移動した。

 馬車に乗るまえ、イヌを連れた色白な男の人を見かけた。

 わたしとマスターのことをじっと見ていたけれど、なにもいわずに行ってしまった。

 あとから知ったんだけどアークメイジのシオメネスさんだったらしい。

 わたしたちのこと、なにか気づいたのかなあ。

 マスター曰く、正体は感づかれてはいないけど、ただならぬオーラを察したのかもしれないだって。

 どっちでもいいや。


聖歴1020年11月19日

 マスターとふたりで合流地点まで旅をした。

 ふたりきりってずいぶん久しぶりだな。

 傭兵さんとアルフレッドさんと出会ってから3ヶ月もすぎてないとか信じられない。

 傭兵さんがいないとアゼルのこと思い出しちゃう。月を見てたら泣いちゃった。

 泣かないって決めたのに本当のわたしは泣き虫だな。


聖歴1020年11月20日

 朝寝ぼけて湖の水を飲もうとして落ちそうになってしまった。これはちょっとおばかだ。

 そしたら傭兵さんが現れて服を引っ張ったおかげで落ちなかった。タイミングがいいのか悪いのか。

 そのあと傷だらけのルクシオンが現れてわけがわからないことをまくしたてて彼と決闘することになってしまった。


 その人びっくりするくらいキレイなひとでなにか嫌な予感がしたの。

 ルクシオンとかいう人との決闘寿命縮んだよ。まじで。3時間くらい。

 これからは彼女のことを仲間内ではシオンと呼ぶことになった。


 そのあとわたしは反対したのにシオンさんがパーティに加わることになった。いやだっていったのにー!


 アストリアってむっつりスケベだから浮気するんじゃないかって不安だな。

 大会はラウニィーとかいうひとは勝手に負けたって。

 わたしは気づいたの。

 はじめから無意味な依頼だったって。


 火星薔薇の王冠をアルフレッドさんが宝物庫から盗むための依頼だったらしい。

 マスターは平気でうそをつくからな。

 わたしは気づかないふりをしていた。そのほうがかしこい女なのだ。

 

 せっかくここまでアストリアというワンちゃんを手懐けるために壮大な計画をたてたのに、これから先心配だな。三角関係になりそう。あの男って意外にもてるのか……?


聖歴1020年11月21日

 傭兵さんの妹さんが亡くなっていることがわかった。いくらなんでもかわいそう。

 慰めようとしたら拒絶された。本当に悲しかった。


 シオンさんが慰めたら立ち直った。そのときものすごい衝撃が走った。

失恋だー! ちくしょー! このドロボウネコ! お気に入りのワンコが取られちゃう!

 しょんぼりだな。でもセレナさんの誕生日が今日だってわかったの。

 冥福をお祈りするためにみんなで黙とうした。


 アルフレッドさんが励ましてくれたの。

 わたしと同じ名前の月を見ていたら勇気がでてきた。あのときわたしを抱きしめてくれた彼をもう一度信じてみよう。

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